終末期の褥瘡ケアと看取り|家族が知っておきたい考え方
- 終末期の褥瘡は「治すこと」だけを目標にしないケアの考え方があり、苦痛を和らげることを優先する方針も医学的に認められています。
- 家族が「うまくできなかった」と自分を責める必要はありません。褥瘡の発生そのものが終末期の身体変化の一部として起こりえます。
- ケア方針は家族が一人で悩むものではなく、訪問診療医・訪問看護師・ケアマネジャーなどのチームと話し合いながら決めていくものです。
終末期の褥瘡は「治らないこと」があっても当然です
大切な方が終末期を迎えているとき、体に床ずれ(褥瘡)ができると、ご家族はひどく心を痛めることがあります。「ちゃんとケアできていなかったから」「もっと早く気づけばよかった」と自分を責める方も少なくありません。
しかし、終末期の状態では、どれほど丁寧にケアをしても褥瘡が発生したり、なかなか改善しなかったりすることがあります。これは、衰えが進んだ身体では、皮膚や組織が圧力に耐える力(組織耐久性)が著しく低下しているためです。日本褥瘡学会が示すガイドラインでも、終末期における褥瘡ケアは「治癒」のみを目標とせず、苦痛の緩和と生活の質(QOL)を維持することを主軸に置く考え方が示されています。
このことをまずご家族に知っておいていただきたいと思います。
なぜ終末期に褥瘡が起きやすいのか
褥瘡の全体像については褥瘡(床ずれ)とは|原因・ステージ・治療・予防・在宅ケアまで医師が解説する総合ガイドで詳しく解説していますが、終末期特有の身体的背景についてここでまとめます。
| 終末期の身体変化 | 褥瘡への影響 |
|---|---|
| 食事・水分の摂取量が減る | 皮膚・皮下組織の栄養状態が低下し、傷の回復力が落ちる |
| 動きが著しく制限される | 同じ部位に長時間圧力がかかり続ける |
| 血液の循環が悪くなる | 皮膚に酸素や栄養が届きにくくなる |
| 免疫の働きが低下する | 傷が感染しやすく、治りにくくなる |
| むくみが生じやすい | 皮膚がもろくなり、わずかな刺激でも傷つく |
終末期には、これらの変化が重なって起こります。体が「作るより壊れる速さが上回る」状態になっているため、どれほど丁寧なケアをしても褥瘡の発生や悪化を完全に防ぐことが難しい場面があります。これは介護者の落ち度ではなく、医学的な経過として起こりうることです。
「治す」以外のケア目標という考え方
通常の褥瘡治療では「傷を治癒させる」ことを目指します。しかし終末期においては、ケアの目標を以下のように置き換えて考えることが大切です。
苦痛を和らげることを最優先にする
処置やケアの際に痛みが生じることがあります。「傷を治すために」という理由で、ご本人がつらく感じる処置を繰り返すことが必ずしも最善とは限りません。処置の頻度や方法について、担当医や訪問看護師と「どこまで行うか」を話し合うことが重要です。
皮膚を「守る」ことに重点を置く
治癒が難しい状況では、傷をこれ以上広げないこと・感染を防ぐこと・においや滲出液(にじみ出る体液)を管理することで、ご本人の不快感を減らすことができます。適切なドレッシング材(傷を覆う材料)の選択は、医師・看護師の指示のもとで行われます。
体位変換は「可能な範囲で無理なく」
一般的に2時間ごとの体位変換(寝る向きを変えること)が勧められますが、終末期には体を動かすこと自体がご本人の苦痛になることもあります。体圧分散マットレス(体への圧力を分散する特殊なマットレス)を適切に活用することで、体位変換の回数を調整できる場合があります。このような用具は介護保険の福祉用具貸与制度(2024年度時点)で利用できる場合があります。
家族が感じる罪悪感について
「自分がもっとしっかりケアしていれば」「病院に入れておけばよかった」——終末期に褥瘡が発生・悪化すると、ご家族がこうした思いを抱えることは珍しくありません。
しかし前述のとおり、終末期の褥瘡はケアの質と必ずしも比例しません。また、在宅での看取りを選んだこと自体は、ご本人にとって安心できる場所で最期を過ごせるという意味で、とても大切な選択です。
ご家族の心理的な負担を一人で抱え込まないためにも、在宅での看取り・終末期ケア完全ガイド|家族が知っておきたい流れと備えや終末期患者の変化を、家族はどう受け止める?もあわせてご参照ください。ご家族が「よくやっている」と思える支援体制を整えることも、医療・ケアチームの大切な役割の一つです。
訪問診療・緩和ケアチームとの連携の進め方
終末期の褥瘡ケアは、ご家族だけで方針を決める必要はありません。以下のような関係者がチームを組んで支援します。
連携する専門職とその役割
| 専門職 | 主な役割 |
|---|---|
| 訪問診療医 | 褥瘡の評価・処置の指示・外用薬の処方・全体の方針決定 |
| 訪問看護師 | 日々の処置・状態の観察・ご家族へのケア指導 |
| ケアマネジャー | 介護サービス全体の調整・福祉用具の手配 |
| 福祉用具専門相談員 | マットレス・ベッド等の選定・調整 |
| 薬剤師(在宅対応) | 外用薬・ドレッシング材の管理と説明 |
訪問診療では、医師がご自宅で傷の状態を直接評価し、傷の深さや広がり、にじみ出る液の量・色・においなどを確認したうえで、処置の方針を決めます。自宅でできる医療処置のすべて|胃ろう・在宅酸素・褥瘡ケアと管理の実際では、在宅でどのような医療的ケアが受けられるかを具体的に解説しています。
「どこまで治療するか」を話し合う場を作る
終末期のケアでは、ご本人の意思(意思表示ができる状態であれば)、ご家族の希望、医療・ケアチームの判断をすり合わせる話し合いが大切です。「積極的な治療をどこまで続けるか」「痛みを和らげることを最優先にするか」といったことを、遠慮せずに担当医や看護師に伝えてください。これはアドバンス・ケア・プランニング(ACP:人生会議)の考え方にも通じるもので、日本老年医学会や厚生労働省も推進しています。
当院の在宅褥瘡診療の現場から
AIプラスクリニックたまプラーザは、在宅療養支援診療所として訪問診療を行っています。褥瘡の評価にはDESIGN-R®2020(日本褥瘡学会が定める評価指標)を用い、傷の深さ・浸出液・感染の有無・皮膚の状態などを体系的に確認します。そのうえで外用薬やドレッシング材の選択、体圧分散用具の見直しを行い、訪問看護ステーション・ケアマネジャー・福祉用具専門相談員と連携しながら在宅での治療計画を立てています。
終末期の褥瘡ケアにおいては、「治癒を目指すケア」と「苦痛緩和を優先するケア」のどちらが今のご本人に合っているかを、ご家族とともに丁寧に話し合うことを大切にしています。監修医は消化器外科医として長年、術後創・難治性創傷の管理に携わってきた経験を持ち、在宅という現場でもその知識を活かした創傷評価・管理を行っています。悪化時や外科的処置が必要な場合は、連携病院へご紹介します。
受診・相談の目安
以下の状態が見られる場合は、ご家族だけで対応しようとせず、早めに担当医や訪問看護師にご連絡ください。
- 傷の周囲の赤みが広がっている、または赤みを押しても色が消えない
- 傷から膿(黄色や緑色のどろっとした液)が出ている、または強いにおいがある
- 傷が黒っぽく変色している、または深くなってきた感じがある
- 発熱が続いている、または急にぐったりしている
- 処置の方法や薬の使い方がわからない、または現在のケアが合っているか不安
床ずれは、ご家族だけで判断・処置を続けると悪化に気づきにくいものです。訪問診療では医師がご自宅で傷を診て、処置の方法・薬・マットレスまで一緒に見直します。ご本人が通院できない場合も、ご家族だけでのご相談から承っています。まずはお気軽にご予約・お問い合わせください。
よくある質問
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参考文献・出典
- 日本褥瘡学会「褥瘡予防・管理ガイドライン」(DESIGN-R®2020対応)
- 日本老年医学会(アドバンス・ケア・プランニングに関する情報)
- 厚生労働省 在宅医療の推進
- 厚生労働省 介護保険制度(福祉用具貸与)
- 日本在宅医療連合学会
本記事の監修医師
1988年 福島県立医科大学医学部卒業、医師免許取得。1997年 同大学大学院修了、博士号取得。国立国際医療研究センター、東京新宿メディカルセンター、NTT東日本関東病院、横浜市立大学関連病院、国立病院機構横浜医療センター外科医長・救命救急センター副部長、済生会若草病院(横浜市)外科部長・内視鏡センター・診療部長を歴任。丸亀医療センター・佐々木病院副理事長、日立おおみか病院理事を経て現在に至る。
AIプラスクリニックたまプラーザの訪問診療
褥瘡の在宅治療に対応しています。ご本人が通院できない場合も、ご家族だけでのご相談から承っています。
TEL: 045-909-0117
対応エリア: たまプラーザ・あざみ野・美しが丘・新石川など横浜市青葉区を中心とした地域
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個々の患者さんの診断・治療を代替するものではありません。褥瘡の状態や処置・薬の選択は、必ず医師・看護師の判断のもとで行ってください。医療用医薬品・医療機器の使用は処方・指示に従ってください。制度・費用は改定される場合があります。