褥瘡とは何か?在宅介護で悪化を防ぐために
「お尻や踵の皮膚が赤くなっている」「黒っぽい傷のようなものがある」——寝たきりや長時間同じ姿勢が続く親御さんを介護しているとき、こうした変化に気づいて検索される方が少なくありません。
褥瘡(じょくそう)は「床ずれ」とも呼ばれる皮膚のトラブルで、早期に気づいて対処すれば悪化を防げる可能性が高くなります。一方、気づくのが遅れると深部の組織まで傷が広がり、治療に長い時間がかかることもあります。この記事では、褥瘡の基本的な成り立ちから在宅でできる予防・対応策、そして受診の目安まで、介護をするご家族向けにわかりやすく整理します。
褥瘡の基本的な成り立ちと種類
褥瘡とは、持続的な圧迫や摩擦によって皮膚およびその下の組織(筋肉・骨に至ることもある)が障害された状態です。医学的には「圧迫創傷(pressure injury)」とも表現されます。
体の特定部位が長時間にわたって外部から押しつけられると、その部分の血流が滞り、組織が酸素不足に陥ります。健康な人であれば寝返りや姿勢の調整で自然に圧を分散できますが、寝たきりや麻痺、意識低下がある方は自分で動くことが難しく、同じ箇所に圧迫が集中しやすい状態です。
発生しやすい部位は、骨が皮膚に近い場所です。
| 体位 | 好発部位(一例) |
|---|---|
| 仰臥位(あおむけ) | 仙骨・踵・後頭部 |
| 側臥位(横向き) | 大転子・腸骨稜・耳介 |
| 座位(車椅子等) | 坐骨・尾骨 |
損傷の深さによって重症度は段階的に分類されます(詳しい各ステージの見分け方については、褥瘡ステージ写真を探す前に知りたい見分け方をあわせてご覧ください)。
褥瘡が気になり始めるきっかけ
多くの場合、発見のきっかけは入浴介助や清拭(せいしき:お湯で体を拭くこと)のときです。「なんとなく赤い」「皮がめくれている」「黒っぽい硬い部分がある」といった視覚的な変化がほとんどです。
以下のような状況では特に注意が必要です。
- 入院・手術後に活動量が著しく低下した
- 要介護度が上がり、自分で寝返りを打てなくなった
- 食欲が落ちて体重が減り、骨が目立つようになってきた
- 失禁が増え、皮膚が湿った状態が続いている
- 浮腫(むくみ)が強い
これらの条件が重なるほどリスクは高まります。「寝たきりではないから大丈夫」と考えている場合でも、長時間の車椅子座位や寝ている時間が多い方は対象外とは言えません。
見分け方と重症度の目安
褥瘡は「発赤(ほっせき)→水疱(すいほう)→開放創→深部組織の損傷」という順に進行することが多く、早い段階ほど在宅ケアで対処できる余地が広がります。
以下はご家族が確認する際の目安です(診断は必ず医師が行います)。
| 見た目の変化 | 考えられる段階(目安) | 対応の方向性 |
|---|---|---|
| 圧迫をとると消える赤み | 初期(Stage 1相当) | 体位変換の強化・皮膚保護材の検討 |
| 圧迫をとっても消えない赤み | 注意が必要な段階 | 早めに医療者に相談 |
| 水疱や皮膚のめくれ | 中等度 | 医師・訪問看護への連絡を急ぐ |
| 黄色・黒色の組織、臭い | 深い損傷・感染の疑い | 速やかに受診または往診依頼 |
「圧迫をとっても赤みが消えない」という点が、一つの大きな分岐点です。自己判断で市販薬を塗り込んだり、無理にガーゼで覆ったりすることで悪化するケースもあるため、不明な場合は医療者に確認することをお勧めします。
混同しやすいトラブルとの違い
褥瘡は、以下の皮膚症状と混同されることがあります。
スキン-テア(皮膚裂傷): 高齢者の薄い皮膚が摩擦や引っ張りによって裂けた状態。ベッドの柵などに当たって起きることが多く、褥瘡と似た外観をとることがありますが、原因が「圧迫の持続」ではなく「瞬間的な摩擦・ずれ力」である点が異なります。
失禁関連皮膚炎(IAD): 尿や便による皮膚の炎症・びらん。骨突出部以外にも広がる傾向があり、形が不規則なことが多いです。褥瘡と合併することもあるため、両者を区別しながら対処する必要があります。
蜂窩織炎(ほうかしきえん): 皮膚の細菌感染。赤み・腫れ・熱感・疼痛が急に広がる場合は、褥瘡の感染合併や蜂窩織炎を疑い、速やかに医師への相談が必要です。
在宅介護で家族が見落としがちなポイント
褥瘡ケアに長年携わっている医療者が口をそろえるのは、「発見が遅れるのは怠慢ではなく、見る機会がそもそも少ないから」という点です。家族が見落としやすいポイントを整理します。
踵(かかと)は忘れられやすい: 褥瘡として多い部位である踵は、布団に埋まっていて気づきにくく、靴下を履いていると見逃しがちです。清拭・入浴のたびに確認する習慣が予防の第一歩です。
体重管理が皮膚に直結する: 低栄養状態では皮膚の修復力が落ち、同程度の圧迫でも傷つきやすくなります。食事量の低下が続いている場合は、栄養管理についても医師や管理栄養士に相談することが重要です。
「少し赤いだけ」で先送りしない: 表面の発赤(ステージ1)であれば、圧迫除去と皮膚保護で改善できることも多いです。しかし「まだ大したことない」と様子を見続けるうちに深部まで達することがあります。
スキンケア製品の選択を誤らない: 皮膚を保護するつもりで、アルコール含有のウェットティッシュや刺激の強い洗浄剤を使い続けることで皮膚のバリア機能が低下するケースがあります。
在宅医療・訪問診療との関係
褥瘡の処置は、在宅医療の場で行われる代表的なケアの一つです。軽度の段階であれば訪問看護師が定期的に洗浄・ドレッシング材(創傷被覆材)の交換を行うことが多く、医師が必要と判断した場合は往診・訪問診療で処置や薬の処方、感染管理を行います。
在宅医療全体の内容については、自宅でできる医療処置のすべてで包括的に解説しています。
訪問診療を利用することで、以下のような対応が可能になります。
- 定期的な褥瘡の評価と深さ・大きさの記録
- 必要に応じた処置(壊死組織の除去・洗浄・創傷被覆材の選択)
- 訪問看護との連携による日々のケア計画
- 介護用品(エアマット・体位変換クッション)の選択についてのアドバイス
- 栄養状態の評価と管理栄養士・言語聴覚士との連携
「通院のたびに褥瘡を見せに連れていくのが大変」「傷の状態を定期的にみてほしいが外来は難しい」という状況にある場合、訪問診療への相談は選択肢の一つになります。
訪問診療・在宅医療とはどういうものかについては、費用・対象・依頼の流れも含めて別ページで詳しく説明しています。
また、褥瘡に加えて排泄管理が課題になっている方には、ストーマがある親の在宅介護で確認したいケアの基本もあわせて参考になる場合があります。
当院の在宅診療の現場から
AIプラスクリニックたまプラーザでは、病院の地域連携室や医療ソーシャルワーカーからの紹介を受けて退院前カンファレンスに参加し、入院中から在宅への引き継ぎを行うケースが多くあります。退院当日から訪問診療を開始できる体制をとっており、24時間の連絡窓口を設けているため、退院直後の不安定な時期のトラブルにも夜間・休日対応が可能です。
褥瘡については、退院時点では軽度であっても在宅に戻ってから悪化するケースがあります。当院では退院カンファレンスの段階で訪問看護ステーションと情報共有を行い、ケアプランに褥瘡予防・管理の視点を盛り込んで引き継ぎを受けています。また、低栄養が褥瘡の背景にある場合は、消化器内視鏡・エコーの経験を活かした栄養管理や嚥下評価、胃ろう管理まで在宅で対応できる体制を整えています。
対応エリアはたまプラーザ・あざみ野・美しが丘・新石川など横浜市青葉区を中心としており、隣接する都筑区・川崎市宮前区についてもご相談に応じています。
受診・相談の目安
以下のいずれかに当てはまる場合は、医療者(かかりつけ医・訪問看護・訪問診療)への相談をお勧めします。
- 圧迫を除いても皮膚の赤みが30分以上消えない
- 皮膚に水疱・めくれ・開いた傷がある
- 傷から臭いがする、または浸出液(滲出液)が多い
- 黒っぽく硬くなった組織がある
- 発熱や傷周囲の急激な腫れ・熱感がある
- 自宅での体位変換が週に数回しかできておらず、改善策が見つからない
- 食事量が著しく低下しており、皮膚のトラブルが重なっている
「まだ相談するほどではないかもしれない」と感じる段階でも、在宅医療は状態が悪化してからでは選択肢が狭まることがあります。「情報だけ聞いてみる」という使い方でも構いませんので、気になることがあれば早めにご相談ください。
ご予約・お問い合わせはこちらから、訪問診療に関するご相談も承っています。
よくある質問
Q. 褥瘡は在宅で完全に治せますか?
褥瘡の治癒は深さや感染の有無、栄養状態などによって大きく異なります。浅い段階(ステージ1〜2相当)であれば適切な処置と圧力除去によって在宅で改善できることは多くありますが、深い損傷や感染合併が生じた場合は入院治療が必要になることもあります。「在宅で必ず治る」「必ず入院になる」という一概な判断は難しく、医師・訪問看護師が個別に評価しながら方針を決めていくことが重要です。
Q. 介護保険でエアマットレスは借りられますか?
要介護1以上が認定されている方は、介護保険の福祉用具貸与制度を利用してエアマットレスなどの床ずれ防止用具を借りることができる場合があります(2025年時点の制度概要)。利用できる品目や費用の自己負担割合は認定区分・所得状況によって異なるため、担当ケアマネジャーまたは横浜市の介護保険窓口でご確認ください。制度は改定される場合があります。
Q. 褥瘡の処置は訪問看護師と訪問医のどちらが行うのですか?
多くの場合、日常的な洗浄・ドレッシング材の交換は訪問看護師が担い、医師は定期的な評価・処方・深い処置(デブリードマン:壊死組織の除去)の判断を行います。両者が連携して役割分担しながらケアを継続するのが一般的です。
Q. 本人が「触らないでほしい」と言って処置を拒否します。どうしたらよいですか?
痛みや不安から処置を拒否するケースは少なくありません。まず痛みへの対処(処置前の局所的な痛み止めや体位の工夫など)を検討することが重要です。また、なぜ処置が必要かを本人が理解できるように丁寧に説明する関わりが有効なこともあります。医師・訪問看護師と「どこまでを本人の意思として尊重するか」「最小限の処置で悪化を防げないか」を話し合うことをお勧めします。
Q. かかりつけ医がいても訪問診療に切り替える必要がありますか?
現在のかかりつけ医との関係を断つ必要はありません。訪問診療と外来診察の「併診」や、かかりつけ医から在宅医への「引き継ぎ(紹介)」という形をとることができます。どのような連携が可能かは、かかりつけ医および訪問診療を検討しているクリニックの双方に確認されることをお勧めします。詳しくは訪問診療・在宅医療についての相談ページもご参照ください。
関連記事
- 在宅で受けられる医療処置|気づく・見極めるためのまとめ(親サブハブ)
- 自宅でできる医療処置のすべて|胃ろう・在宅酸素・褥瘡ケアと管理の実際(状況ピラー)
- 褥瘡ステージ写真を探す前に知りたい見分け方
- ストーマがある親の在宅介護で確認したいケアの基本
- 皮下注射は在宅で可能?家族が知りたい見極め方
参考文献・出典
本記事の監修医師
佐藤 靖郎(さとう やすお)
医師(医学博士)/AIプラスクリニックたまプラーザ 監修医
専門:消化器外科・消化器内視鏡/一般内科/在宅医療・高齢者医療・がん緩和ケア・心不全・呼吸不全
略歴
1988年 福島県立医科大学医学部卒業・医師免許取得。1997年 同大学大学院修了・博士号取得。国立国際医療研究センター、東京新宿メディカルセンター、NTT東日本関東病院、横浜市立大学関連病院、国立病院機構横浜医療センター外科医長・救命救急センター副部長、済生会若草病院(横浜市)外科部長・内視鏡センター・診療部長を歴任。丸亀医療センター・佐々木病院副理事長、日立おおみか病院理事を経て現在に至る。
公的役割
厚生労働省「地域連携クリティカルパスモデルの開発」班研究員、全国保健所長会 地域連携パス推進班アドバイザー、神奈川県がん診療連携協議会 地域連携クリティカルパス部会 相談役。
AIプラスクリニックたまプラーザのご案内
ご家族の通院が難しくなってきた、退院後の療養先に迷っている、自宅でどこまで医療が受けられるか知りたい——そうしたご相談を、たまプラーザで承っています。
ご予約・お問い合わせ / TEL:045-909-0117(横浜市青葉区)
対応エリア:たまプラーザ・あざみ野・美しが丘・新石川など横浜市青葉区を中心とした地域(隣接する都筑区・川崎市宮前区もご相談に応じます)。
ご相談の際にご用意いただくとスムーズなもの
- お薬手帳または薬剤情報提供書
- 医療保険証・各種受給者証
- 介護保険証・介護保険負担割合証
- (お持ちであれば)診療情報提供書(紹介状)や退院時サマリー
ご本人が来院できない場合のご相談も承ります。
ご相談・ご予約はお気軽にどうぞ
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個々の患者さんの診断・治療を代替するものではありません。症状や治療方針の判断は、必ず主治医にご相談ください。制度・費用は改定される場合があります。最新の情報は各自治体・保険者の窓口でご確認ください。