仰臥位における褥瘡好発部位|観察ポイントと予防
はじめに―この記事でわかること(3行要約)
仰臥位(仰向け)では、仙骨・踵・後頭部・肩甲骨・肘など、体重が集中する骨突出部に褥瘡が生じやすくなります。各部位の観察手順と異常所見の早期発見のポイントを、看護師・介護職が実務で使える形で整理しています。また、体圧分散の基本的な考え方と在宅での活用方法も解説します。
仰臥位の褥瘡リスクを理解する前に
褥瘡は、体の一部に持続的な圧力(および摩擦・ずれ)が加わることで皮膚と皮下組織が損傷する状態です。褥瘡の基本概念・ステージ分類・全身的なリスク評価については、褥瘡(床ずれ)とは|原因・ステージ・治療・予防・在宅ケアまで医師が解説する総合ガイドをあわせてご参照ください。
また、各部位の好発状況を体位ごとに俯瞰したい場合は、親記事である褥瘡の好発部位マップ|部位別ケアの要点も参考になります。
仰臥位で褥瘡が生じやすいのはなぜか
仰臥位では体重が背面全体に分散するように見えますが、実際には骨が皮膚のすぐ下に突出している部位に圧力が集中します。日本褥瘡学会の「褥瘡予防・管理ガイドライン(第5版)」(2022年)では、骨突出部への体圧集中と組織の虚血が褥瘡発生の基本的なメカニズムとして示されています。
さらに、仰臥位特有のリスク要因として次の点が挙げられます。
- ずれ力の影響: ベッドの頭側を挙上(ギャッジアップ)すると、体が足元にずれながら皮膚が骨と逆方向に引っ張られ、仙骨・尾骨部に強いずれ力が加わります。
- 湿潤環境: 発汗・失禁・創滲出液により皮膚が浸軟し、摩擦への抵抗力が低下します。
- 自力体位変換の困難: 意識障害・麻痺・骨折後固定などで同一体位が長時間続くと、組織への累積負荷が増大します。
仰臥位における主な褥瘡好発部位
好発部位の一覧と特徴
| 部位 | 解剖学的構造 | 発生しやすい状況 |
|---|---|---|
| 仙骨部 | 仙骨の正中から両側にかけての膨隆 | 長時間の仰臥位全般・ギャッジアップ時のずれ |
| 踵骨部(両踵) | 踵骨の後下方突出部 | マットレスからの反発圧・浮腫・糖尿病性末梢神経障害 |
| 後頭部 | 外後頭隆起周辺 | 高齢者・小児(頭部比率が高い)・頸椎固定装具使用時 |
| 肩甲骨部 | 肩甲骨棘・肩甲骨内側縁 | 痩身・筋萎縮が著明な症例 |
| 肘頭部 | 肘関節後面の骨性突出 | 上肢が外転位・伸展位に固定されている場合 |
| 脊椎棘突起 | 胸腰椎の棘突起列 | 脊柱変形・高度るいそう |
| 後頸部〜耳介後面 | 頸椎横突起・耳介軟骨 | 頸部固定装具(サーバイカルカラー等)によるMDRPU |
仙骨部
仙骨部は仰臥位における最も頻度の高い好発部位です。皮下脂肪が薄く、骨の直上に皮膚が存在するため、わずかな持続圧でも虚血が生じやすい部位です。
観察のポイント
- 仙骨正中から約2〜5cm外側(仙腸関節付近)を含む範囲を視診・触診します。
- 発赤の有無を確認し、指で3〜5秒圧迫して離したときに発赤が消えるか(消退性発赤)、消えないか(非消退性発赤=NPUAP/EPUAP分類のカテゴリ1相当)を確認します。
- 周囲皮膚と比較して、硬結・熱感・むくみ・色調の変化(暗紫色・黒色・白色化)がないか確認します。
- ギャッジアップ後は必ずずれ・摩擦による擦過の有無を確認してください。
画像で確認したい場合のポイント: 仙骨部の初期変化では、皮膚表面に光沢のある発赤や暗紅色の斑が見られることがあります。皮膚が閉鎖していても皮下組織が損傷している「深部損傷褥瘡(DTI)」では、紫・マルーン色の変色が特徴です。
仙骨部の褥瘡が生じている・または生じそうな場合の具体的な体位管理については、仙骨部褥瘡のポジショニング|臥位・座位の実践ガイドで詳しく解説しています。
踵骨部(踵)
踵は単位面積当たりの圧力が仙骨部に次いで高く、かつ血流が末梢に位置するため治癒しにくい部位でもあります。糖尿病・閉塞性動脈硬化症・浮腫を有する患者では特にリスクが高くなります。
観察のポイント
- 踵後下面の中心部から辺縁にかけて、発赤・水疱・皮膚の欠損・乾燥壊死(黒色・硬い痂皮)を確認します。
- 踵の浮腫・皮膚温の左右差・毛細血管再充満時間(CRT)を確認し、末梢循環障害の有無を評価します。
- 靴下や弾性ストッキング、足首のギプス固定部でMDRPUが生じていないか確認します(MDRPU(医療機器関連褥瘡)とは|原因・予防・スキンケアも参照)。
予防のポイント: 踵をマットレスから浮かせる(懸垂する)ことが最も効果的です。下腿〜膝窩部に柔らかいクッションを横向きに置き、踵がベッド面に接触しない状態を保ちます。大腿部への圧迫を避けるため、膝窩部に直接圧がかからないよう注意します。
後頭部
後頭部は高齢者・小児・長期臥床患者で見落とされやすい部位です。外後頭隆起部の皮膚は薄く、骨への距離が短いため、標準マットレス上での継続圧だけで損傷が生じる場合があります。
観察のポイント
- 頭部を前屈させずに顔を横に向け、後頭隆起から1〜2cm四方の皮膚色・発赤・毛根部の損傷を確認します。
- 頸椎固定具・酸素マスクのヘッドバンド・耳介周囲のテープ跡なども同時に観察します。
- 毛髪の多い患者では視認しにくいため、指腹での触診を併用します。
肩甲骨部・脊椎棘突起部
筋萎縮・痩身が著明な患者では、肩甲骨棘や胸腰椎の棘突起がマットレスに直接当たります。一般的な体圧分散マットレスを使用していても、骨突出が強い場合は接触面積が極端に狭くなるため局所圧が高くなります。
観察のポイント
- 仰臥位を保ちながら、肩甲骨内側縁・下角・棘突起列を視診します。皮膚が薄く透けて見える場合や摩擦痕(擦過傷・表皮剥離)がないか確認します。
- 体位変換時に摩擦・ずれが加わりやすいため、介助後の皮膚確認を習慣化します。
体圧分散の基本的な考え方
体位変換の原則
日本褥瘡学会のガイドラインでは、自力体位変換が困難な患者への定期的な体位変換が推奨されています。一般的な目安は2時間ごとの体位変換ですが、体圧分散マットレス(エアマットレス等)を使用している場合は4時間まで延長できる根拠が示されています(ただし個々の状態・機器の性能・皮膚状態による医師・看護師の判断が必要です)。
30度側臥位と仰臥位の組み合わせ
仙骨部への直接圧を避けるため、完全仰臥位より30度傾けた「30度側臥位」が推奨されています。この体位では骨突出部である大転子部・腸骨稜への直接圧も軽減しやすくなります。仰臥位(0度)→30度側臥位(右)→30度側臥位(左)をローテーションする方法が広く用いられています。
ギャッジアップ時のずれ対策
- 頭部挙上は可能な限り30度以下にとどめることが基本です。
- やむを得ず挙上する場合は、膝を軽度屈曲(5〜10度)させてからヘッドアップし、ずれの進行を抑えます。
- 挙上後に仙骨・臀部のずれ・皮膚の引き込みを確認し、必要に応じて引き上げ介助を行います。
在宅での観察と専門職連携
在宅療養中の患者では、療養環境・介護力・使用中の福祉用具の状況により、リスクと対応策が大きく異なります。自宅でできる医療処置のすべて|胃ろう・在宅酸素・褥瘡ケアと管理の実際では、在宅における褥瘡処置の全体像を整理しています。
体位変換が一人では困難な場合・体圧分散用具の見直しが必要な場合・外用薬やドレッシング材の選択に迷う場合は、訪問看護師・ケアマネジャーを通じて訪問診療医への相談を検討してください。訪問診療を通じた在宅褥瘡管理の流れについては、訪問診療・在宅医療とは|対象・費用・依頼の流れを医師が解説する完全ガイドもご参照ください。
なお、褥瘡は「お尻(仙骨・尾骨・坐骨)」に最も多く発生します。仰臥位以外の場面でのリスクも含め、お尻の床ずれ(褥瘡)とは何か|家族が知りたい基本と対策も参考にしてください。
側臥位に移行した際の好発部位・観察方法については、側臥位における褥瘡好発部位|観察ポイントと予防で詳しく解説しています。
当院の在宅褥瘡診療の現場から
AIプラスクリニックたまプラーザは、在宅療養支援診療所として訪問診療を行っています。褥瘡が疑われる場合・すでに褥瘡が生じている場合には、DESIGN-R®2020を用いた標準的な評価を行い、外用薬・ドレッシング材の選択、体圧分散用具の見直しについて医師が直接判断します。
訪問看護ステーション・ケアマネジャー・福祉用具専門相談員と連携しながら在宅での治療計画を立て、継続的なフォローを行います。監修医の佐藤医師は消化器外科医として長年にわたり術後創・難治性創傷の管理に携わってきた経験を、在宅の褥瘡診療に活かしています。壊死組織のデブリードマンや外科的処置が必要と判断された場合は、連携病院への紹介も行います。
受診・相談の目安
以下に当てはまる場合は、速やかに看護師・医師への報告・相談を行ってください。
- 発赤部位を指で押しても色が消えず(非消退性発赤)、その状態が数時間以上続いている
- 皮膚が破れている・傷が深くなっている・滲出液が増加している・悪臭や膿が見られる
- 仙骨・踵・後頭部などに紫色・黒色の変色が現れた(深部損傷褥瘡の可能性)
- 発熱・局所の明らかな熱感・発赤の急速な拡大など、感染徴候が疑われる
- 体位変換や体圧分散の方法に迷っている、または現在の対応で改善が見られない
在宅で褥瘡の治療方針に迷う症例、特別訪問看護指示書が必要な症例など、訪問診療医との連携が必要な場合はお気軽にご相談ください(ケアマネジャー・訪問看護師からのご相談も承ります)。
よくある質問
Q. 仰臥位と側臥位では、どちらが褥瘡リスクが高いですか?
一概にどちらが高いとは言えません。仰臥位では仙骨・踵・後頭部への集中圧が問題になり、側臥位では大転子・腸骨稜・膝関節外側などへのリスクが高まります。それぞれの体位に固定せず、定期的な体位変換を組み合わせることが大切です。
Q. 踵の褥瘡は一般的な体圧分散マットレスで予防できますか?
体圧分散マットレスは仙骨部への効果は期待できますが、踵は接触面積が小さく局所圧が高いため、マットレスだけでは十分でない場合があります。下腿にクッションを当てて踵を浮かせる「踵懸垂」が最も確実な予防法とされています。
Q. 後頭部の褥瘡は枕を変えれば予防できますか?
枕の素材・高さを見直すことは有効ですが、枕だけで圧を完全に除去することは難しい場合があります。低反発素材のウレタンピローや穴あきの頭部用ポジショニングパッドの使用を、担当看護師・理学療法士と相談のうえ検討してください。なお、酸素マスクのヘッドバンドなど医療機器が後頭部に当たる場合は、MDRPUとして別途対応が必要です。
Q. 仙骨部の発赤がありますが、軟膏をすぐに塗った方がよいですか?
医療用の外用薬(医師の処方薬)は、必ず医師・看護師の指示のもとで使用してください。市販の外用薬は軽度の皮膚トラブルを対象としており、褥瘡が疑われる場合は自己判断での使用は避け、まず専門職に状態を評価してもらうことが重要です。
Q. ギャッジアップの角度は何度までが安全ですか?
褥瘡予防の観点からは30度以下が推奨されています。食事・誤嚥予防のために30〜45度が必要な場合もあるため、誤嚥リスクと褥瘡リスクのバランスを主治医・看護師・管理栄養士とともに検討することが大切です。誤嚥に関する観察については、誤嚥性肺炎の観察項目を知りたい私へ、見逃したくない変化も参考になります。
Q. 在宅で使う体圧分散マットレスは介護保険で借りられますか?
体圧分散マットレス(床ずれ防止用具)は、介護保険の福祉用具貸与の対象品目に含まれています(厚生労働省 介護保険制度における福祉用具貸与、2024年度現在)。要支援・要介護認定を受けていることが条件で、ケアマネジャーを通じて申請します。対象外となる場合もあるため、詳細はケアマネジャーにご確認ください。
関連記事
- 親ハブ: 褥瘡の好発部位マップ|部位別ケアの要点
- ピラー: 褥瘡(床ずれ)とは|原因・ステージ・治療・予防・在宅ケアまで医師が解説する総合ガイド
- 仙骨部褥瘡のポジショニング|臥位・座位の実践ガイド
- 側臥位における褥瘡好発部位|観察ポイントと予防
- お尻の床ずれ(褥瘡)とは何か|家族が知りたい基本と対策
- MDRPU(医療機器関連褥瘡)とは|原因・予防・スキンケア
参考文献・出典
- 日本褥瘡学会「褥瘡予防・管理ガイドライン(第5版)」2022年: https://www.jspu.org/
- 日本褥瘡学会「DESIGN-R®2020 改訂について」: https://www.jspu.org/
- 厚生労働省「在宅医療の推進について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000061944.html
- 厚生労働省「介護保険制度(福祉用具貸与)」2024年度: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/
- 日本創傷・オストミー・失禁管理学会(スキンケアガイドライン関連): https://www.jwocm.org/
- 日本皮膚科学会「創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン」: https://www.dermatol.or.jp/
本記事の監修医師
佐藤 靖郎(さとう やすお)
医師(医学博士)
専門: 消化器外科・消化器内視鏡/一般内科/在宅医療・高齢者医療・がん緩和ケア・心不全・呼吸不全
略歴
1988年 福島県立医科大学医学部卒業、医師免許取得。1997年 同大学大学院修了、博士号取得。国立国際医療研究センター、東京新宿メディカルセンター、NTT東日本関東病院、横浜市立大学関連病院、国立病院機構横浜医療センター外科医長・救命救急センター副部長、済生会若草病院(横浜市)外科部長・内視鏡センター・診療部長を歴任。丸亀医療センター・佐々木病院副理事長、日立おおみか病院理事を経て現在に至る。
AIプラスクリニックたまプラーザの訪問診療
褥瘡の在宅治療に対応しています。
ご予約・お問い合わせ
TEL: 045-909-0117
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免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個々の患者さんの診断・治療を代替するものではありません。褥瘡の状態や処置・薬の選択は、必ず医師・看護師の判断のもとで行ってください。医療用医薬品・医療機器の使用は処方・指示に従ってください。制度・費用は改定される場合があります。