胃癌の深達度とは?ステージとの関係を解説
胃癌の診断で「深達度」という言葉を耳にした際、多くの患者さんとご家族が「どれくらい進んでいるの?」と不安に感じます。深達度とは、がんが胃壁のどの層まで達しているかを示す指標です。ただし、深達度だけでステージが決まるわけではなく、リンパ節転移や遠隔転移の状況も合わせて総合的に判断されます。本記事では、深達度の基本から、ステージとの関係、治療方針への影響まで、公的情報をもとにわかりやすく解説します。
目次
胃癌の深達度とは?まずは「胃壁のどこまで広がっているか」を知る
深達度が示すのは「がんの広がりの深さ」
深達度(しんたつど)とは、胃癌が胃壁の内側から外側に向かって、どの層まで浸潤(しんじゅん:広がること)しているかを示す指標です。英語では「depth of invasion」と呼ばれます。がんの広がり方は「縦(胃の表面に沿った広さ)」と「横(壁の深さ方向)」の2軸がありますが、深達度は後者の「深さ方向」に注目した概念です。
胃壁の層構造と深達度の基本(M/SM/MP/SS/SE/SI)
胃壁は内側から順に、粘膜(M)・粘膜下層(SM)・固有筋層(MP)・漿膜下層(SS)・漿膜(SE)の5層構造で成り立っています。がんが隣接臓器に直接広がった場合は SI と表記されます。
| 記号 | 層の名称 | 深さのイメージ |
|---|---|---|
| M | 粘膜層 | 最も内側(表面) |
| SM | 粘膜下層 | 粘膜の一つ外側 |
| MP | 固有筋層 | 胃の動きを担う筋肉層 |
| SS | 漿膜下層 | 筋層と漿膜の間 |
| SE | 漿膜 | 胃の外側を覆う膜 |
| SI | 隣接臓器浸潤 | 他臓器へ直接広がった状態 |
「M にとどまる」「SM まで達する」といった表現が診断書や説明で使われる場合、この表を参照すると理解しやすくなります。
胃癌の深達度とステージの関係
深達度だけではステージは決まらない
診断結果に「深達度は SM です」と書かれていても、それだけでステージが確定するわけではありません。ステージ(病期)は、深達度に加えて、リンパ節転移の有無と程度、および遠隔転移(肺・肝臓・腹膜など他臓器への転移)の有無を組み合わせて総合的に決定されます。
何がステージ分類に関わるのか(深達度・リンパ節転移・遠隔転移)
日本胃癌学会の「胃癌取扱い規約」や、国立がん研究センターがん情報サービスが示す分類では、ステージはT(腫瘍の深達度)・N(リンパ節転移)・M(遠隔転移)の3要素で構成されます。
- T因子:深達度(M=T1a、SM=T1b、MP=T2、SS=T3、SE=T4a、SI=T4b)
- N因子:転移しているリンパ節の個数
- M因子:遠隔転移の有無(M0=なし、M1=あり)
胃がんのステージ全体の見方については、胃がんのステージの見方と進行度の基本もあわせてご覧ください。
胃癌ステージ分類の見方
早期胃がんと進行胃がんの違い
日本では臨床上、がんが粘膜層(M)または粘膜下層(SM)にとどまるものを「早期胃がん」、固有筋層(MP)以深に達するものを「進行胃がん」と呼ぶことが一般的です(日本胃癌学会「胃癌取扱い規約 第15版」)。ただし、「早期」であってもリンパ節転移が生じる場合があり、「早期=完全に安全」とは言い切れません。
胃がんステージ1の考え方と深達度の関係
胃がんステージ1(IA・IB)は、おおむね深達度がM〜MPの範囲でリンパ節転移が少ないか、またはない状態を指します。ステージ1Aはリンパ節転移がなく、T1(M・SM)の段階が代表的です。ステージ1Bは、T1でリンパ節転移が少数ある場合、またはT2(MP)でリンパ節転移がない場合などが含まれます。
詳しくは早期胃がんとは?定義と治療の考え方をご参照ください。
ステージごとの一般的な分類のイメージ
| ステージ | 深達度の目安 | リンパ節転移 | 遠隔転移 |
|---|---|---|---|
| I (IA/IB) | M・SM〜MP | なし〜少数 | なし |
| II | MP〜SS | 少数〜中等度 | なし |
| III | SE・SI | 中等度〜多数 | なし |
| IV | 問わない | 問わない | あり |
※上記はあくまで概念的な目安です。詳細は主治医の説明をご確認ください。
病理結果・内視鏡検査で深達度はどう判断する?
内視鏡検査、組織検査、手術後病理の違い
深達度の評価には主に3つの段階があります。①内視鏡検査・画像検査(CT・超音波内視鏡など)による術前診断、②生検(組織検査)による細胞レベルの確認、③手術後の病理検査による最終確認です。術前に行う評価は「臨床的深達度(cT)」、手術後の病理評価は「病理学的深達度(pT)」と区別されます。
「診断時」と「術後」で深達度の評価が変わることがある
術前の内視鏡・CT評価は推定であり、摘出した組織を詳しく調べると深達度が修正されることがあります。これは検査精度の問題ではなく、顕微鏡レベルの浸潤を画像のみで判定することに本来的な限界があるためです。術後の病理報告書に「pT」と記載されている分類が最終的な深達度となります。
深達度によって治療方針はどう変わる?
早期胃がん治療で内視鏡治療が検討されるケース
深達度がM(T1a)またはSM(T1b)にとどまり、腫瘍の大きさや組織型などが一定の条件を満たす場合、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)などの内視鏡治療が検討されます。体への負担が少なく、胃を温存できる点が利点です。ただし、適応基準を満たさない場合は手術が必要になります。
手術が検討される深達度の目安
固有筋層(MP=T2)以深に達する場合や、SM浸潤でも内視鏡治療の適応外と判断された場合は、腹腔鏡下または開腹による胃切除術が検討されます。リンパ節を一緒に切除する「リンパ節郭清」の範囲も、深達度と転移の程度によって決まります。
リンパ節転移の有無が治療選択に与える影響
深達度が浅くても、リンパ節転移が認められれば術後補助化学療法(抗がん剤治療)が検討されることがあります。逆に、深達度が深くても個々の状態によって治療法は異なるため、必ず主治医と詳しく相談してください。ステージ4の場合の治療の考え方は胃がんステージ4の考え方と治療の基本をご参照ください。
公的情報で見る胃癌の深達度・ステージの読み解き方
国立がん研究センターの情報で確認したいポイント
国立がん研究センター「がん情報サービス」では、胃がんのステージ分類・治療法・生存統計データが公開されています。診断書やインフォームドコンセントの内容を照らし合わせる際の参考として活用できます。ただし、統計値はあくまで集団の傾向を示すものであり、個々の患者さんの予後を示すものではないことに留意してください。
ガイドラインで重視される判断材料
日本癌治療学会が提供するがん診療ガイドラインでは、深達度・リンパ節転移・遠隔転移に加え、腫瘍の組織型(分化型・未分化型)や脈管侵襲の有無なども治療方針決定の重要な因子として示されています。
深達度が深いと言われたときに確認したいこと
どの層まで達しているのか
診断書や説明書に「T2」「T3」などのTN分類が記載されている場合は、上記の表を参照して該当する層を確認してください。不明な点は遠慮なく主治医に質問することが大切です。
リンパ節転移や遠隔転移の説明があったか
深達度が深い場合、N(リンパ節転移)やM(遠隔転移)の状況が治療方針に大きく影響します。CT・PETなどの画像検査で転移の有無が評価されているか、主治医に確認しましょう。
追加検査が必要になることがある理由
深達度がSE(T4a)以深と疑われる場合や、転移の可能性が否定できない場合は、PET-CT・腹腔鏡検査などの追加評価が必要になることがあります。「もう少し検査が必要」という説明があった際は、その目的を確認するとよいでしょう。
受診・相談の目安
検診や健診で異常を指摘されたとき
胃バリウム検査や胃内視鏡検査(胃カメラ)でポリープ・潰瘍・腫瘍の疑いを指摘された場合は、速やかに消化器内科または外科を受診してください。「要精密検査」の指摘があった場合は特に早めの対応が望まれます。
胃もたれ、体重減少、黒い便、貧血などの症状があるとき
以下の症状が続く場合は、早めに医療機関を受診することをおすすめします。
- 数週間以上続く胃もたれ・みぞおちの痛み
- 明らかな理由のない体重減少
- 黒い便(タール便)・血便
- 貧血(めまい・倦怠感)
主治医に確認したい質問
- 「深達度はT何ですか?どの層ですか?」
- 「リンパ節転移や遠隔転移の評価はされていますか?」
- 「追加検査は必要ですか?」
- 「内視鏡治療と手術のどちらが適応になりますか?」
ご予約・お問い合わせはこちらからお気軽にご相談ください。
当院での診療から
深達度・ステージの説明をできるだけわかりやすく行います
当院(AIプラスクリニックたまプラーザ)には消化器内視鏡センターが備わっており、鎮静下での胃内視鏡検査を日常的に実施しています。内視鏡画像を見ながら、深達度の推定や粘膜の状態について、患者さんとご家族にできるだけ視覚的にわかりやすくご説明することを心がけています。「病理の結果に何と書いてあるか理解できなかった」「主治医に聞けなかった」というご相談も歓迎します。
必要に応じて内視鏡検査や治療方針の相談につなげます
当院で早期がんが疑われる所見が確認された場合は、速やかに連携する基幹病院へ紹介します。地域連携クリティカルパスを活用し、手術後のフォローアップや経過観察は当院が継続して担当します。「手術後の定期検査をどこで受ければいいかわからない」という方も、安心してご相談ください。
他院で診断された場合のセカンドオピニオンについて
他院で深達度やステージの説明を受けたが、治療方針について別の意見も聞きたいという場合は、セカンドオピニオンのご相談にも対応しています。診断書・病理報告書・画像データをお持ちいただけると、より具体的にお話しできます。
よくある質問(FAQ)
一般的に、深達度が浅い(M・SMにとどまる)ほど、リンパ節転移が生じにくく、治療後の経過が良好とされる傾向があります。ただし、組織型や脈管侵襲の有無など他の因子も影響するため、深達度の浅さだけで「治りやすい」とは一概に言えません。必ず主治医の説明を総合的にご確認ください。
国立がん研究センターなどが公表する生存率の統計はステージ別の集団データであり、個々の患者さんに当てはまるものではありません。生存率はあくまで傾向を示す参考値として捉えていただき、個人の経過については主治医とご相談ください。
はい、あります。たとえば、深達度が同じT1b(SM)でも、リンパ節転移が0個の場合はステージIA、1〜2個の場合はステージIBと分類が変わります。ステージはT・N・Mの3要素の組み合わせで決まるためです。
必ずしも同じではありません。「早期胃がん」は主に深達度がM・SMにとどまるものを指す日本独自の臨床概念です。一方、「ステージ1」はTNM分類に基づく病期であり、早期胃がんの多くはステージ1に該当しますが、SM浸潤でリンパ節転移がある場合はステージIBとなります。また、稀にステージ2に分類されることもあります。
はい、あります。術前の内視鏡・CT評価はあくまで推定であり、摘出組織の精密な病理検査(顕微鏡検査)によって最終的な深達度(pT)が確定します。術前の評価より深い、あるいは浅いと修正されることがあります。術後の病理報告書の内容について疑問があれば、主治医に確認してください。
参考文献・出典
本記事の監修医師
専門:消化器・内科(消化器外科/内視鏡/一般内科)
略歴:1988年 福島県立医科大学医学部卒業、医師免許取得。1997年 同大学大学院修了、博士号取得。国立国際医療研究センター、東京新宿メディカルセンター、NTT東日本関東病院、横浜市立大学関連病院、国立病院機構横浜医療センター外科医長・救命救急センター副部長、済生会若草病院(横浜市)外科部長・内視鏡センター・診療部長を歴任。丸亀医療センター・佐々木病院副理事長、日立おおみか病院理事を経て現在に至る。
公的役割:厚生労働省「地域連携クリティカルパスモデルの開発」班研究員、全国保健所長会 地域連携パス推進班アドバイザー、神奈川県がん診療連携協議会 地域連携クリティカルパス部会 相談役。
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