胃がんの薬物療法・抗がん剤|押さえておきたい要点を医師監修で解説
胃がんと診断されたとき、「抗がん剤治療は必要なのか」「どのような薬が使われるのか」「副作用はどの程度つらいのか」といった疑問や不安を感じる方は少なくありません。
胃がんの薬物療法は、手術・放射線とともに治療の中心的な柱のひとつです。病期(ステージ)や体の状態によって目的や薬剤の選択が異なるため、基本的な考え方を整理しておくことが、主治医との対話をよりスムーズにする助けになります。
本記事では、胃がんの抗がん剤治療の目的・種類・進め方・副作用・生活との両立まで、患者さんとご家族が知っておきたい要点を医師監修のもと解説します。治療の詳細については、胃がんの抗がん剤治療で知っておきたいこともあわせてご参照ください。
胃がんの抗がん剤治療を理解するために押さえたい基本
胃がんで薬物療法が使われる場面
薬物療法が検討される主な場面は以下の3つです。
- 術後補助化学療法:手術でがんを切除した後、目に見えない微小転移を抑えるために行う。
- 術前化学療法(ネオアジュバント):腫瘍を縮小させてから手術を行いやすくするために行う場合がある。
- 切除不能・転移・再発胃がんへの治療:根治を直接の目標とせず、病状の進行を抑えて生活の質(QOL)を保つことを目指す。
「抗がん剤」とは何か、どんな種類があるか
「抗がん剤」は広義には、がん細胞の増殖を抑えるすべての薬剤を指します。胃がんで使われる主な分類を以下に示します。
| 分類 | 主な薬剤例 | 作用の概要 |
|---|---|---|
| 細胞障害性抗がん剤 | フルオロウラシル(5-FU)、シスプラチン、オキサリプラチン、カペシタビン(経口)、S-1(経口)、イリノテカン、パクリタキセル、ドセタキセル | 細胞分裂を妨げることでがん細胞を障害する |
| 分子標的薬 | トラスツズマブ(HER2陽性例)、ラムシルマブ(血管新生阻害) | 特定の分子を狙い撃ちにしてがんの増殖・生存を阻害する |
| 免疫チェックポイント阻害薬 | ニボルマブ、ペムブロリズマブ | 免疫細胞が働くブレーキを外し、自己の免疫でがんを攻撃する |
手術・放射線・薬物療法の役割の違い
手術は局所のがんを物理的に取り除くことを目的とし、放射線は照射部位のがん細胞にダメージを与えます。薬物療法は血流を介して全身に作用するため、目に見えない転移病巣にも効果が期待できる点が特長です。それぞれを組み合わせる「集学的治療」が、胃がん治療の基本的な考え方です。
胃がんの抗がん剤治療で知っておきたいこと
治療の目的:再発予防と進行を抑えること
術後補助化学療法の目的は再発リスクを下げることであり、進行・再発胃がんへの薬物療法は延命・QOL維持が中心になります。治療の目的を主治医と共有することが、治療継続のモチベーションにもつながります。
体の状態や病期によって治療方針が変わる
PS(パフォーマンスステータス:全身状態を示す指標)、臓器機能(腎機能・肝機能・骨髄機能)、年齢、合併症などを総合的に評価して治療方針が決まります。病期別の考え方は後述します。
薬物療法は単独より組み合わせで行うことがある
複数の薬剤を組み合わせることで効果を高めたり、耐性を生じにくくしたりすることが期待できます。日本の標準治療では、術後補助化学療法にS-1単独療法、進行胃がんではフッ化ピリミジン系薬+プラチナ系薬の2剤療法、あるいはそこに分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を加えた多剤併用が選択されることがあります(日本胃癌学会「胃癌治療ガイドライン」に基づく)。
効果には個人差があり、主治医と経過を見ながら進める
同じ薬剤・レジメンを使っても、腫瘍の遺伝子・分子プロファイルや体質によって効果は異なります。効果判定を定期的に行いながら、必要に応じて治療内容を見直します。
胃がんで使われる主な薬の種類
細胞障害性抗がん剤の役割
S-1(テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合薬)は経口薬で、術後補助化学療法に広く使われています。フルオロウラシル(5-FU)やオキサリプラチン、イリノテカンなどは点滴で投与されることが多く、進行・再発例の一次・二次治療に用いられます。
分子標的薬の役割
HER2(ヒト上皮成長因子受容体2型)陽性の進行胃がんには、トラスツズマブが一次治療として組み合わせられます。ラムシルマブは腫瘍への血液供給に関わるVEGFR-2を阻害する薬で、二次治療に使われることがあります。
免疫チェックポイント阻害薬の役割
PD-1/PD-L1経路を遮断するニボルマブやペムブロリズマブは、一定の条件を満たす進行・再発胃がんで保険適用となっています。効果が得られる患者さんとそうでない患者さんがいるため、適応の検討にはバイオマーカー検査が重要です。
HER2や薬剤の適応を決める検査について
分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬を使うためには、HER2発現・MSI(マイクロサテライト不安定性)・PD-L1発現・TMB(腫瘍遺伝子変異量)などのバイオマーカー検査が必要です。これらは生検組織や手術検体を用いて行われます。
胃がんの抗がん剤治療の進め方
治療前に行う検査と確認事項
血液検査(血算・肝腎機能・腫瘍マーカー)、CT・PETなどの画像検査、心電図、場合によっては心エコーなどを行い、投薬に耐えられる全身状態かを確認します。
点滴薬と内服薬の違い
点滴薬は病院での投与が必要ですが、S-1やカペシタビンなどの内服薬は自宅での服用が可能です。ただし内服薬でも副作用はあるため、定期的な通院と血液検査が必要です。
治療サイクルと通院の流れ
多くのレジメンは「投与期間+休薬期間」を1サイクルとして繰り返します。例えば3週ごと、4週ごとなどが一般的です。通院の頻度はレジメンや副作用の状況によって異なります。
併用療法が選ばれることがある理由
単剤より複数薬剤を組み合わせた方が腫瘍縮小効果が高い場合があります。一方で副作用も増えることがあるため、全身状態・年齢・患者さんの希望なども考慮して選択されます。
胃がんの病期別にみる薬物療法の考え方
切除可能な胃がんでの補助化学療法
Stage II・IIIの根治切除後には、再発リスクを下げるためS-1単独の術後補助化学療法が標準治療として推奨されています(日本胃癌学会「胃癌治療ガイドライン 第6版」)。
手術前に行う薬物療法が検討される場合
腫瘍を縮小させてから手術に臨む「術前化学療法(ネオアジュバント療法)」が一部の症例で検討されます。ただし日本では欧米ほど広く行われておらず、適応は慎重に判断されます。
切除不能・再発胃がんでの薬物療法
切除不能や転移・再発の場合は、一次・二次・三次と段階的に治療ラインが組まれます。HER2陽性例にはフッ化ピリミジン系+プラチナ系+トラスツズマブ、HER2陰性例にはフッ化ピリミジン系+プラチナ系+ニボルマブなどが選択されることがあります。
胃がんのステージ・分類・進行度についての詳細は関連記事もご参照ください。
進行に応じて治療内容を見直す考え方
一次治療で効果が不十分になった場合は二次治療へ切り替えます。治療ラインが進むごとに選択肢が限られることがありますが、新薬の承認状況は変化しているため、主治医と最新情報を共有することが大切です。
副作用として知っておきたいこと
よくみられる副作用
| 副作用 | 起こりやすい薬剤例 |
|---|---|
| 吐き気・嘔吐 | シスプラチン、オキサリプラチン |
| 口内炎 | 5-FU、S-1、カペシタビン |
| 下痢 | S-1、イリノテカン |
| 末梢神経障害(手足のしびれ) | オキサリプラチン |
| 脱毛 | パクリタキセル、ドセタキセル |
| 骨髄抑制(白血球・血小板の低下) | 多くの細胞障害性抗がん剤 |
| 免疫関連有害事象 | 免疫チェックポイント阻害薬 |
すぐに相談したい症状
- 38℃以上の発熱(発熱性好中球減少症が疑われる場合は緊急対応が必要)
- 強い息切れ・胸痛
- 重篤な下痢・嘔吐で水分がとれない
- 皮膚や目の異常(免疫関連有害事象の可能性)
副作用を軽くするための支持療法
制吐薬(吐き気止め)、G-CSF製剤(白血球増加剤)、整腸薬、口腔ケアなどの支持療法(副作用を和らげる治療)が並行して行われます。副作用を我慢せず、担当医・看護師・薬剤師に早めに相談することが重要です。
日常生活で気をつけたいこと
治療中は感染リスクが高まるため、手洗い・うがいの徹底が大切です。疲れを感じたら無理をしない、激しい運動は控えるなど、体調に合わせた生活調整が必要です。
治療中の食事・生活・仕事との両立
食欲低下や吐き気があるときの工夫
- 1回の食事量を減らし、食べられるときに少量ずつ摂る
- においが強い食品を避ける
- 冷めた食事の方が食べやすい場合がある
- 管理栄養士への相談も有効です
感染症予防と体調管理
骨髄抑制が生じると感染しやすくなります。人混みを避ける、マスクの着用、傷をつくらないよう注意するなどが勧められます。
仕事や家事を続けるときの考え方
副作用の出方は治療直後から数日後にピークを迎えることが多いため、仕事のスケジュールを治療サイクルと照らし合わせて調整すると無理が少なくなります。職場への伝え方や就労支援については、担当医やがん相談支援センターに相談できます。
通院負担を減らす工夫
定期的な通院が必要な薬物療法では、交通費・移動の負担が生じることがあります。訪問看護や在宅緩和ケアとの組み合わせ、近隣クリニックでのフォローアップなど、連携体制を主治医と相談してみましょう。
治療効果の見方と経過観察
効果判定は何を見て判断するか
CT・MRIなどの画像検査でRECIST基準(固形がんの効果判定基準)に基づき腫瘍の大きさの変化を評価します。
腫瘍マーカーや画像検査の位置づけ
CEA・CA19-9などの腫瘍マーカーは補助的な指標として活用されますが、数値だけで治療効果を判断することはできません。画像検査と組み合わせて総合的に評価されます。
余命や生存率の統計をどう受け止めるか
公的機関が公表する生存率は多数の患者データをもとにした「統計値」であり、個々の患者さんに当てはまるものではありません。胃がんの生存率・予後・余命についての詳細は別記事もご参照ください。
個々の見通しは主治医に確認する
治療中に感じる不安や疑問は、主治医や担当チームに遠慮なく伝えてください。また、がん相談支援センターの利用も選択肢のひとつです。
抗がん剤治療を受ける前に確認したいこと
治療目的と期待できること
治療が「根治」を目指すのか「病状のコントロール」を目指すのかを明確に確認しましょう。
副作用と対処方法
どのような副作用が起こりうるか、いつ病院に連絡すべきかを事前に確認しておくと安心です。
費用や通院回数の見通し
高額療養費制度や各種助成制度を活用できる場合があります。医療ソーシャルワーカーや相談員に聞いてみましょう。
他の治療選択肢との比較
提示された治療法が標準治療かどうか、他の選択肢はないかを確認することも大切です。胃がんの治療選択に関する詳細は関連記事もご覧ください。
セカンドオピニオンを考えるとき
相談が役立つ場面
現在の治療方針に疑問や不安を感じるとき、別の医師の意見を聞きたいときは、セカンドオピニオンを求めることは患者さんの権利です。
紹介状や検査データの準備
現在の主治医に紹介状(診療情報提供書)・病理検査報告書・画像データの提供を依頼します。
何を質問するとよいか
「この治療が自分に最も適しているか」「他のレジメンの選択肢はあるか」「臨床試験への参加可能性はあるか」などを具体的に質問できるよう、事前にメモしておくと役立ちます。
当院での診療から
当院(AIプラスクリニックたまプラーザ)は消化器内視鏡センターを備え、鎮静下での胃・大腸内視鏡検査を日常的に実施しています。内視鏡所見で胃がんや早期がんを疑う病変が確認された場合は、地域の基幹病院(大学病院・がん診療連携拠点病院など)へ速やかに紹介し、地域連携クリティカルパスを活用した術後フォローアップを担っています。
薬物療法中の患者さんに対しては、主治医治療の継続を支えるかかりつけ医として、採血・体調確認・栄養相談などの支援を行っています。また在宅療養支援診療所として、在宅緩和ケア・看取りにも対応しており、病状の進行に合わせた切れ目のない支援体制を整えています。「病院での治療と並行して、身近なクリニックでも相談したい」という方はお気軽にご相談ください。
受診・相談の目安
胃がんと診断され、治療方針を整理したいとき
診断後に治療の流れ・選択肢・副作用について整理したい場合は、かかりつけ医や当院でのご相談も活用できます。
副作用が強い、または急に体調が悪くなったとき
抗がん剤投与後に強い吐き気・下痢・倦怠感が続く場合は、自己判断で服薬を中断せず、担当医・看護師に連絡してください。
食事がとれない、脱水が心配なとき
口内炎や吐き気で水分・食事の摂取が著しく困難な場合は早めに受診を。輸液による補正が必要になることがあります。
発熱・息切れ・出血などがあるとき
38℃以上の発熱(特に好中球減少が疑われる状況)、急な息切れ・胸痛、止まらない出血は緊急性が高い症状です。すぐに担当医療機関または救急へ連絡してください。
よくある質問(FAQ)
術後補助化学療法の場合は、根治切除後に体の回復を確認したうえで(一般的に術後4〜6週程度を目安に)開始されることが多いです。進行・再発がんでは診断後、全身状態が整い次第、なるべく早期に開始することが検討されます。いずれも担当医が全身状態を総合的に判断して決定します。
レジメンや目的によって異なります。術後補助化学療法のS-1は術後1年間(8サイクル程度)が標準です。進行・再発胃がんでは、効果と副作用のバランスを見ながら継続可能な間は続けることが多く、回数はあらかじめ決まっていない場合もあります。
投与する薬剤や体調によって異なります。S-1・カペシタビンなどの経口薬は通院管理が基本です。シスプラチンなど水分補給が必要な点滴薬は短期入院が必要なこともありますが、外来化学療法室での日帰り投与が可能なケースも増えています。
副作用の程度(グレード)に応じて、投与量の減量・休薬・中止が検討されます。患者さんの希望も治療方針に反映されます。つらい症状を我慢せず、早めに担当チームに伝えることが重要です。
年齢だけで適応を判断するのではなく、PS(全身状態)・臓器機能・認知機能・生活環境・本人の希望を総合的に評価して判断されます。高齢の方向けに投与量を調整したレジメンが選択されることもあります。主治医とよく相談してください。
公的情報で確認できる胃がん薬物療法のポイント
国立がん研究センターがん情報サービスの活用方法
「国立がん研究センター がん情報サービス」では、胃がんの治療法・薬剤・臨床試験情報が患者向けにわかりやすく解説されています。信頼性の高い一次情報として活用できます。
診療ガイドラインで確認したい標準治療
日本胃癌学会「胃癌治療ガイドライン」は標準治療の根拠となる文書です。Minds ガイドラインライブラリからも検索・参照が可能です。
統計情報の見方と注意点
国立がん研究センター がん統計では胃がんの罹患数・死亡数・生存率が公表されています。これらは集団データであり個人の予後を示すものではない点に注意が必要です。
情報の更新日と医療機関での確認の重要性
がん治療の標準は年々更新されます。ウェブ上の情報が最新かどうかを確認し、治療の判断は必ず主治医・専門医との対話を通じて行ってください。
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参考文献・出典
本記事の監修医師
専門:消化器・内科(消化器外科/内視鏡/一般内科)
略歴 1988年 福島県立医科大学医学部卒業、医師免許取得。1997年 同大学大学院修了、博士号取得。国立国際医療研究センター、東京新宿メディカルセンター、NTT東日本関東病院、横浜市立大学関連病院、国立病院機構横浜医療センター外科医長・救命救急センター副部長、済生会若草病院(横浜市)外科部長・内視鏡センター・診療部長を歴任。丸亀医療センター・佐々木病院副理事長、日立おおみか病院理事を経て現在に至る。
公的役割 厚生労働省「地域連携クリティカルパスモデルの開発」班研究員、全国保健所長会 地域連携パス推進班アドバイザー、神奈川県がん診療連携協議会 地域連携クリティカルパス部会 相談役。
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