下腹部痛は、おへそより下の腹部に感じる痛みの総称です。腸・尿路・婦人科系など多くの臓器が集まるエリアであるため、原因は多岐にわたります。多くの場合は便秘やガスの貯留など比較的軽微な要因ですが、なかには早急な対応が必要な疾患が隠れていることもあります。本記事では、下腹部痛の原因・症状の目安・受診のタイミングについて、医学的根拠に基づきわかりやすく解説します。
「下腹部」とは、おへそから恥骨(骨盤前面の骨)にかけての領域を指します。右下・左下・正中(真ん中)に分けて考えると、痛みの原因を絞り込む手がかりになります。痛みの性質は「しくしく続く鈍痛」「波のように来る痙攣痛(けいれんつう)」「刺すような鋭い痛み」など様々で、同じ疾患でも感じ方は人によって異なります。
下腹部には大腸(S状結腸・直腸)・小腸・膀胱・尿管・子宮・卵巣(女性)・前立腺(男性)などが位置しており、それぞれの臓器に起因する痛みが混在しやすい部位です。大まかには①消化器系、②尿路系、③婦人科系(男性では泌尿器・生殖器系)、④生活習慣・一時的な要因の4つに分類できます。
- 便秘・ガス貯留:腸管内のガスや便の滞留により下腹部が張り、痛みを感じやすくなります。
- 過敏性腸症候群(IBS):ストレスなどが引き金となり、腹痛と下痢または便秘を繰り返す機能性疾患です。
- 感染性腸炎:ウイルスや細菌による腸の炎症で、下痢・吐き気を伴うことがあります。
- 大腸憩室炎(だいちょうけいしつえん):大腸の壁にできたポケット(憩室)が炎症を起こし、痛みと発熱を伴います。
- 虫垂炎(いわゆる盲腸):右下腹部に強い痛みが生じ、発熱・吐き気を伴います。手術が必要になる場合があります。
- 大腸がん:比較的長期にわたる症状として下腹部痛・血便・便通異常が現れることがあります。
- 膀胱炎:下腹部(特に膀胱部)の不快感・痛みに加え、頻尿・排尿時痛が特徴です。女性に多い感染症です。
- 尿管結石:脇腹から下腹部にかけての波状の激痛が特徴で、血尿を伴うことがあります。
- 膀胱がん・腎盂腎炎:血尿や高熱を伴う場合は専門科への受診が必要です。
- 月経痛(月経困難症):子宮の収縮により下腹部の周期的な痛みが生じます。
- 子宮内膜症:月経周期に伴う強い下腹部痛・性交痛・不妊のリスクがあります。
- 卵巣嚢腫(らんそうのうしゅ)茎捻転:急激な強い下腹部痛が起こり、緊急手術が必要になる場合があります。
- 子宮外妊娠(異所性妊娠):妊娠の可能性がある女性の突然の下腹部痛は、特に注意が必要です。
- 前立腺炎:会陰部(えいんぶ)や下腹部の痛み、排尿困難を伴うことがあります。
- 精巣上体炎:陰嚢周囲・下腹部の痛みと発熱が特徴です。
激しい運動後の筋肉痛、冷えによる腸の痙攣、過食後の消化不良なども下腹部の不快感・軽度の痛みの原因になります。
膀胱炎、子宮・卵巣のトラブル(女性)、便秘・過敏性腸症候群などが考えられます。
虫垂炎、右側の卵巣嚢腫・卵巣炎(女性)、クローン病、尿管結石などが候補に挙がります。右下腹部の急激な痛みは虫垂炎を念頭に置き、早めの受診が推奨されます。
S状結腸憩室炎、過敏性腸症候群、左側の卵巣トラブル(女性)、尿管結石などが考えられます。
腸炎・虫垂炎・憩室炎などの炎症性疾患や感染症が疑われます。高熱(38℃以上)が続く場合は早めに受診してください。
膀胱炎・尿管結石・腎盂腎炎などの尿路疾患を疑います。血尿が明らかな場合は当日中の受診が望まれます。
婦人科疾患の可能性があります。特に月経が遅れており下腹部痛がある女性は、子宮外妊娠を除外するために速やかに受診してください。
以下の症状がある場合は、速やかに医療機関を受診してください。救急レベルの場合は迷わず119番または救急外来を利用してください。
今まで経験したことがないほどの激しい痛みは、腹腔内の臓器穿孔(せんこう)や血管系の緊急疾患を示す可能性があります。
腹膜炎のサインである「腹壁の硬直(筋性防御)」が疑われます。押したときより離したときに痛みが増す「反跳痛(はんちょうつう)」も注意が必要です。
消化管出血が疑われ、緊急の内視鏡検査が必要になる場合があります。
子宮外妊娠は腹腔内出血を起こすリスクがあり、生命に関わる状態になり得ます。
敗血症などの重篤な状態が考えられます。意識が薄れる、顔色が青白い場合は直ちに救急対応が必要です。
腹痛の原因が特定しにくい場合、まずかかりつけ医・内科への相談が窓口として適しています。問診・触診を通じて適切な専門科に紹介されます。
便通異常・血便・腹痛が繰り返される場合は消化器内科が専門です。大腸内視鏡検査などを通じた精密検査が可能です。
排尿症状(頻尿・排尿痛・血尿)を伴う場合は泌尿器科が適しています。
月経異常・不正出血・性交痛を伴う場合、あるいは妊娠の可能性がある場合は婦人科へ。
複数の原因が考えられる場合や原因がはっきりしない場合は、まず内科・消化器内科に相談するのが適切です。適宜、専門科への紹介が行われます。
痛みの部位・性質・始まった時期・持続時間・伴う症状(発熱・吐き気・排尿症状など)・月経歴(女性)・既往歴・内服薬などを確認します。
腹部の触診・打診で圧痛・反跳痛・筋性防御の有無を確認します。尿検査・血液検査(炎症反応CRP、白血球数など)が基本的な検査として行われます。
腹部超音波(エコー)検査・CT検査は、臓器の状態を評価するために有用です。妊娠が疑われる場合は尿中hCG検査も行われます。
軽度の痛みで発熱・血便・強い吐き気などの伴症状がない場合、まず安静を保ちましょう。ただし、数時間経過しても改善しない、または悪化する場合は医療機関を受診してください。
下痢・吐き気がある場合は消化の良い食事(おかゆ・うどんなど)を少量ずつ摂り、こまめに水分補給をしてください。脂質の多い食事・刺激物・アルコールは避けましょう。
市販の鎮痛薬(NSAIDs)は胃腸への負担があるほか、炎症性疾患の症状を一時的にマスクしてしまう場合があります。腹痛の原因が不明な状態での安易な使用は控え、使用する際は用法・用量を守ってください。
痛みが始まった日時・部位・性質(鋭い・鈍い・波状など)・痛みの程度(10段階)・伴う症状・食事内容・直近の排便状況・月経状況(女性)を記録しておくと、医師の診察がスムーズになります。
便秘と下痢を繰り返す場合は過敏性腸症候群(IBS)が疑われますが、大腸がんや炎症性腸疾患(クローン病・潰瘍性大腸炎)との鑑別のために検査を受けることが重要です。詳しくは下腹部鈍痛続くとは?原因・症状・対処を内科医が解説【たまプラーザ】もあわせてご参照ください。
月経のたびに強い下腹部痛がある場合、子宮内膜症や月経困難症の可能性があります。婦人科への相談を検討してください。
自律神経の乱れは腸の機能に影響します。睡眠不足・過労・精神的ストレスが腸の不調を誘発・悪化させることがあります。
食物繊維と水分を意識的に摂る、規則正しい食事リズムを整える、適度な運動(ウォーキングなど)を継続することが腸の健康維持に役立ちます。
腸は冷えに敏感です。腹部を冷やさない工夫(腹巻きの活用・温かい飲み物を選ぶなど)も腹痛の予防につながります。夏場の冷房による冷えにも注意が必要です。
痛みのパターンや生活習慣との関連を記録することで、受診時に医師へ詳細な情報を提供でき、適切な診断に役立ちます。
下腹部痛は「たいしたことない」と放置されがちですが、背後に虫垂炎・子宮外妊娠・大腸がんといった早期対応が求められる疾患が潜んでいることがあります。痛みが強い・繰り返す・他の症状を伴うといった場合は、自己判断せず医療機関を受診することをお勧めします。腹痛全般についてはお腹痛いとは?原因・症状・治し方まで内科医が解説【たまプラーザ】もあわせてご覧ください。
便秘やガスの貯留、軽度の腸の疲れによる下腹部痛は、安静・水分補給・食事の見直しで数時間〜1日程度で軽快することがあります。ただし、強い痛み・発熱・血便・排尿症状などを伴う場合は自然回復を待たずに医療機関を受診してください。
軽度の痛みで伴う症状がなければ、しばらく様子をみることは一般的に考えられますが、「数日以上続く」「徐々に悪化する」「繰り返す」場合は受診を検討してください。痛みの軽さだけで安全を判断することは難しいため、不安な場合はお早めにご相談ください。
以下のいずれかに当てはまる場合は早めに受診することが望まれます。①今まで経験したことがない強い痛み、②発熱(38℃以上)を伴う、③血便・血尿・吐血がある、④妊娠の可能性がある、⑤痛みが6〜12時間以上続いている。救急レベルの症状(激痛・意識障害など)の場合は救急外来または119番をご利用ください。
子宮外妊娠・卵巣嚢腫茎捻転・子宮内膜症・骨盤内炎症性疾患(PID)などは早期対応が重要な疾患です。妊娠の可能性がある女性が突然の下腹部痛を感じた場合は特に急いで受診してください。
便秘が原因の下腹部痛は、排便後に痛みが和らぐことが多く、腹部の張り感を伴います。一方、排便と無関係に痛みが続く・発熱や血便を伴う・排尿症状がある場合は別の原因を考える必要があります。便秘と思っていても背後に腸疾患が潜んでいることがあるため、繰り返す場合は検査をお勧めします。
- お腹痛いとは?原因・症状・治し方まで内科医が解説【たまプラーザ】(親ピラーページ)
- 下腹部鈍痛続くとは?原因・症状・対処を内科医が解説【たまプラーザ】
- 腹痛の治し方・治療法|内科医がわかりやすく解説【たまプラーザ】
佐藤 靖郎(さとう やすお)
医師(医学博士)/AIプラスクリニックたまプラーザ 監修医
専門:消化器・内科(消化器外科/内視鏡/一般内科)
略歴:1988年 福島県立医科大学医学部卒業、医師免許取得。1997年 同大学大学院修了、博士号取得。国立国際医療研究センター、東京新宿メディカルセンター、NTT東日本関東病院、横浜市立大学関連病院、国立病院機構横浜医療センター外科医長・救命救急センター副部長、済生会若草病院(横浜市)外科部長・内視鏡センター・診療部長を歴任。丸亀医療センター・佐々木病院副理事長、日立おおみか病院理事を経て現在に至る。
公的役割:厚生労働省『地域連携クリティカルパスモデルの開発』班研究員、全国保健所長会 地域連携パス推進班アドバイザー、神奈川県がん診療連携協議会 地域連携クリティカルパス部会 相談役。
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