肝臓がんの症状|医学博士が解説する初期症状と最新治療【2026年版】
この記事のポイント
- 肝臓がんは「沈黙の臓器」の病気で初期症状が出にくい
- 倦怠感、食欲不振、体重減少などの非特異的症状に注意
- 黄疸、腹水、腹部の張りは進行症状のサイン
- 肝炎・肝硬変からの進行が多く定期検査が重要
- 早期発見で5年生存率は70%以上に向上
- 血液検査(AFP、PIVKA-II)と画像検査が診断の鍵
- 手術、RFA、TACE、分子標的薬など治療選択肢が拡大
1. 肝臓がんとは – 沈黙の臓器の特徴
1-1. 肝臓がんの基礎知識
肝臓がんは、肝臓に発生する悪性腫瘍で、大きく原発性肝がんと転移性肝がんに分類されます。原発性肝がんの約90%は肝細胞がん(HCC)が占めています。
肝臓がんの分類
| 分類 | 説明 | 割合 |
|---|---|---|
| 肝細胞がん | 肝細胞から発生するがん | 約90% |
| 肝内胆管がん | 肝臓内の胆管から発生するがん | 約5-10% |
| 転移性肝がん | 他臓器からの転移 | 原発巣による |
日本における肝臓がんの年間新規患者数は約40,000人、死亡者数は約25,000人と報告されています(国立がん研究センター、2024年統計)。
1-2. なぜ「沈黙の臓器」と呼ばれるのか
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、病気が進行しても症状が出にくい特徴があります。その理由は以下の通りです:
- 再生能力が高い:肝臓は一部が損傷しても残った部分で機能を補える
- 予備能力が大きい:正常肝機能の70-80%が失われるまで症状が現れにくい
- 痛覚神経が少ない:肝臓自体には痛みを感じる神経がほとんどない
- 代償機能:損傷部分を他の部分がカバーする能力が高い
⚠️ 重要:症状が出た時点で既に進行していることが多く、定期的な検診による早期発見が極めて重要です。
1-3. 肝臓がんの発生メカニズム
肝臓がんの多くは、以下のような段階的な進行をたどります:
- 慢性肝炎(B型・C型肝炎ウイルス、アルコール性など)
- ↓ 持続的な炎症と肝細胞の破壊・再生
- 肝硬変(肝臓の線維化と機能低下)
- ↓ 遺伝子変異の蓄積
- 肝細胞がんの発生
この過程には通常10~30年かかるため、肝炎の早期発見と治療が肝臓がん予防の鍵となります。
1-4. 肝臓の主な機能
肝臓は500以上の機能を持つ人体最大の代謝臓器です:
| 主要機能 | 具体的な働き |
|---|---|
| 代謝機能 | 糖質・脂質・タンパク質の代謝、エネルギー貯蔵 |
| 解毒機能 | アルコール、薬物、アンモニアなどの有害物質の分解 |
| 合成機能 | アルブミン、凝固因子などの血液タンパク質の合成 |
| 胆汁生成 | 脂肪の消化吸収に必要な胆汁の生成・分泌 |
| 貯蔵機能 | グリコーゲン、ビタミン(A、D、B12)の貯蔵 |
肝臓がんが進行すると、これらの機能が徐々に低下し、様々な症状が現れます。
2. 初期症状と警告サイン
2-1. 初期症状が出にくい理由
肝臓がんの初期段階では、ほとんどの患者が無症状です。これは前述の「沈黙の臓器」という特性に加え、以下の理由があります:
- 腫瘍が小さいうちは肝機能への影響が少ない
- 慢性肝炎や肝硬変の症状と区別がつきにくい
- 腫瘍の発育速度が比較的緩やか(初期段階)
📊 早期発見の重要性
- 早期発見(2cm以下):5年生存率 70-80%
- 進行期発見:5年生存率 10-30%
- 無症状期の発見率:定期検診で約60%が早期発見可能
2-2. 最も早く現れる可能性のある症状
肝臓がんで最も早く現れる可能性のある症状は、非特異的な全身症状です:
🔴 初期の警告サイン
1. 倦怠感・疲労感
- 理由もなく疲れやすくなる
- 十分な睡眠をとっても疲れが取れない
- 日常活動での疲労感の増加
- 発現時期:がん発生後数ヶ月~1年
2. 食欲不振
- 以前より食事量が減る
- 好物が美味しく感じられない
- 食後の満腹感が早く訪れる
- 発現時期:がん発生後数ヶ月~1年
3. 体重減少
- 意図しない体重減少(3ヶ月で5%以上)
- 筋肉量の減少(サルコペニア)
- 食事量減少に伴う体重低下
- 発現時期:がん発生後6ヶ月~1年
4. 微熱
- 37℃台の微熱が続く
- 夕方から夜にかけて熱感
- 感染症などの明確な原因がない発熱
- 発現時期:がん発生後6ヶ月~1年
これらの症状は他の多くの病気でも見られるため、肝臓がんと気づきにくいのが問題です。特に慢性肝炎や肝硬変の既往がある方は、これらの症状の変化に注意が必要です。
2-3. やや進行した段階の症状
腫瘍が大きくなり肝機能が低下してくると、より特徴的な症状が現れます:
🟡 中等度進行の症状
5. 腹部の違和感・膨満感
- 右上腹部(肋骨の下)の重苦しさ
- お腹が張る感じ
- 食後の腹部膨満感
- 原因:肝臓の腫大、腹水の貯留
6. 腹痛
- 右上腹部の鈍い痛み
- 背中や右肩への放散痛
- 深呼吸や体位変換で痛みが変化
- 原因:肝臓の被膜が引き伸ばされる、腫瘍の圧迫
7. 消化器症状
- 吐き気・嘔吐
- 下痢や便秘
- 腹部膨満感
- 原因:肝機能低下、門脈圧亢進
2-4. 定期検診で発見される所見
症状が出る前に、定期健康診断や画像検査で発見されるケースが増えています:
| 検査項目 | 異常所見 | 意義 |
|---|---|---|
| 肝機能検査 | AST、ALT、γ-GTPの上昇 | 肝細胞の破壊 |
| 腫瘍マーカー | AFP、PIVKA-IIの上昇 | 肝細胞がんの可能性 |
| 腹部超音波 | 肝臓内の腫瘤影 | 腫瘍の存在 |
| CT・MRI | 特徴的な造影パターン | 診断の確定 |
💡 ポイント:肝炎ウイルス陽性者、肝硬変患者は、症状がなくても3~6ヶ月ごとの定期検査が推奨されています。これにより早期発見の可能性が大幅に向上します。
3. 進行症状と合併症
3-1. 進行期の特徴的な症状
肝臓がんが進行すると、肝機能の著しい低下により、より明確な症状が現れます:
🔴 進行期の主要症状
1. 黄疸(おうだん)
- 症状:皮膚や白目が黄色くなる
- 原因:胆管の閉塞、肝機能の著しい低下によるビリルビンの蓄積
- 発現時期:進行期、肝機能が30%以下に低下
- 関連症状:尿の色が濃くなる(茶色)、便の色が白っぽくなる
- 緊急度:速やかな受診が必要
2. 腹水(ふくすい)
- 症状:お腹が張って膨らむ、体重増加
- 原因:アルブミン低下、門脈圧亢進
- 程度:軽度(画像で検出)→中等度(腹囲増加)→高度(呼吸困難)
- 合併症:特発性細菌性腹膜炎のリスク
3. 浮腫(むくみ)
- 症状:足や顔のむくみ
- 原因:アルブミン低下による浸透圧の変化
- 特徴:夕方に悪化、朝は比較的軽い
- 検査:血液検査でアルブミン値を確認
4. 出血傾向
- 症状:鼻血、歯茎からの出血、あざができやすい
- 原因:凝固因子の合成低下、血小板減少
- 重篤な合併症:食道静脈瘤破裂による大量出血
3-2. 肝不全症状
肝臓がんがさらに進行し、肝機能が著しく低下すると肝不全の状態になります:
| 症状分類 | 具体的症状 | 原因 |
|---|---|---|
| 肝性脳症 | 意識障害、見当識障害、手の震え(羽ばたき振戦)、昏睡 | アンモニアなど有害物質の蓄積 |
| 腎機能障害 | 尿量減少、浮腫の悪化、電解質異常 | 肝腎症候群 |
| 凝固異常 | 止まらない出血、血尿、血便 | 凝固因子の欠乏 |
| 免疫低下 | 感染症にかかりやすい、発熱 | 免疫機能の低下 |
3-3. 門脈圧亢進症の症状
肝硬変や肝臓がんにより門脈の圧力が上昇すると、様々な合併症が生じます:
門脈圧亢進症の主な合併症
食道・胃静脈瘤
- リスク:破裂による大量出血(致死率30-50%)
- 症状:突然の吐血、黒色便(タール便)、ショック
- 予防:内視鏡検査による定期的な静脈瘤の評価
- 治療:内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)、硬化療法
脾腫(脾臓の腫大)
- 症状:左上腹部の膨満感、早期満腹感
- 結果:血小板減少(脾機能亢進症)→出血傾向
腹水
- 症状:腹部膨満、体重増加、呼吸困難
- 管理:塩分制限、利尿薬、腹水穿刺
3-4. 腫瘍随伴症候群
肝臓がんが産生するホルモン様物質により、特殊な症状が現れることがあります:
- 高カルシウム血症:口渇、多尿、意識障害
- 低血糖:冷や汗、動悸、意識障害
- 多血症:頭痛、めまい、血栓症リスク
- 高脂血症:黄色腫、動脈硬化の進行
4. 原因とリスク因子
4-1. 主要な原因
日本における肝臓がんの原因は、時代とともに変化しています:
| 原因 | 1990年代 | 2020年代 | 今後の予測 |
|---|---|---|---|
| C型肝炎 | 約70% | 約50% | 減少傾向 |
| B型肝炎 | 約15% | 約10% | 横ばい |
| アルコール | 約5% | 約10% | 増加傾向 |
| NASH/NAFLD | 約5% | 約20% | 急増中 |
| その他 | 約5% | 約10% | – |
4-2. ウイルス性肝炎
C型肝炎ウイルス(HCV)
- 特徴:慢性化率80-90%、肝硬変・肝がんへの進行リスク高い
- 感染経路:輸血(1992年以前)、注射器の使い回し、刺青、ピアス
- 現状:直接作用型抗ウイルス薬(DAA)により95%以上が治癒可能
- 検査:HCV抗体検査(一生に一度は受けるべき)
B型肝炎ウイルス(HBV)
- 特徴:慢性化すると肝硬変・肝がんリスク
- 感染経路:母子感染、性交渉、血液曝露
- 予防:ワクチン接種(1986年以降は母子感染予防事業、現在は定期接種)
- 治療:核酸アナログ製剤による長期的なウイルス抑制
4-3. 生活習慣関連因子
アルコール性肝障害
- リスク量:純アルコール換算で男性60g/日以上、女性40g/日以上を10年以上
- 進行過程:脂肪肝 → アルコール性肝炎 → 肝硬変 → 肝がん
- 対策:節酒・断酒、定期的な肝機能検査
NASH(非アルコール性脂肪肝炎)/NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)
- 定義:アルコールを飲まないのに脂肪肝から肝炎・肝硬変に進行
- 原因:肥満、糖尿病、脂質異常症、メタボリックシンドローム
- 患者数:日本人の約30%がNAFLD、そのうち10-20%がNASHに進行
- 対策:体重管理、運動療法、糖尿病治療
4-4. その他のリスク因子
| リスク因子 | 詳細 | リスク倍率 |
|---|---|---|
| 肝硬変 | 原因を問わず肝硬変は最大のリスク | 年間3-8% |
| 糖尿病 | インスリン抵抗性、慢性炎症 | 2-3倍 |
| 肥満 | BMI 30以上 | 1.5-2倍 |
| 喫煙 | 発がん物質の曝露、肝線維化促進 | 1.5倍 |
| アフラトキシン | カビ毒(日本では稀) | 高リスク |
| 遺伝性疾患 | ヘモクロマトーシス、ウィルソン病 | 高リスク |
4-5. 高リスク群と対策
特に注意が必要な方
- ✅ C型・B型肝炎ウイルス陽性者
- ✅ 肝硬変の診断を受けている方
- ✅ 慢性肝炎で治療中の方
- ✅ アルコール性肝障害の方
- ✅ NASH/NAFLDの診断を受けた方
- ✅ 家族に肝臓がんの患者がいる方
- ✅ 糖尿病・肥満・メタボリックシンドロームの方
推奨される検査頻度:
- 肝硬変患者:3~4ヶ月ごと
- 慢性肝炎患者:6ヶ月ごと
- その他高リスク群:年1回以上
5. 検査方法と診断
5-1. スクリーニング検査
肝臓がんの早期発見には、定期的なスクリーニング検査が不可欠です:
血液検査
| 検査項目 | 正常値 | 意義 |
|---|---|---|
| AST(GOT) | 10-40 U/L | 肝細胞の破壊 |
| ALT(GPT) | 5-45 U/L | 肝細胞の破壊(より肝臓特異的) |
| γ-GTP | 男性70以下、女性30以下 U/L | 胆道系障害、アルコール性肝障害 |
| ALP | 100-325 U/L | 胆汁うっ滞 |
| ビリルビン | 0.2-1.2 mg/dL | 肝機能、胆道閉塞 |
| アルブミン | 3.8-5.3 g/dL | 肝臓の合成能 |
| PT(プロトロンビン時間) | 70-130% | 凝固因子の合成能 |
| 血小板数 | 15-35万/μL | 門脈圧亢進、脾機能亢進 |
腫瘍マーカー
1. AFP(α-フェトプロテイン)
- 正常値:10 ng/mL以下
- 感度:約60-70%
- 特異度:約80-90%
- 特徴:肝細胞がんで最も広く使われる
- 注意:慢性肝炎でも上昇することがある
2. PIVKA-II(ピブカツー、DCP)
- 正常値:40 mAU/mL以下
- 感度:約60-80%
- 特異度:約90-95%
- 特徴:AFPと組み合わせると診断精度向上
- 利点:慢性肝炎での偽陽性が少ない
3. AFP-L3分画
- 基準値:10%未満
- 特徴:肝細胞がんに特異的なAFPの亜分画
- 意義:15%以上で肝がんの可能性が高い
💡 ポイント:AFPとPIVKA-IIを併用することで、感度が約85-90%まで向上します。
5-2. 画像検査
腹部超音波検査(エコー)
- 利点:非侵襲的、繰り返し実施可能、コスト低い
- 検出能:1-2cm以上の腫瘍の検出率70-80%
- 限界:肥満、腸管ガス、深部病変で描出困難
- 推奨:高リスク群のスクリーニングに最適
造影CT検査
- 特徴:肝臓がんに特徴的な造影パターン(動脈相で濃染、門脈相・後期相でwash out)
- 検出能:1cm以上の腫瘍の検出率90%以上
- 利点:肝臓全体の評価、転移の有無、血管浸潤の評価
- 注意:造影剤アレルギー、腎機能障害のある方は要注意
MRI検査(EOB-MRI、Gd-MRI)
- EOB-MRI:肝細胞特異的造影剤使用、小さな病変の検出に優れる
- 検出能:5mm以上の腫瘍も検出可能
- 利点:CTより高コントラスト、被曝なし
- 欠点:検査時間が長い、ペースメーカー禁忌
腹部血管造影検査
- 目的:血管浸潤の評価、TACE(肝動脈化学塞栓療法)の前検査
- 特徴:腫瘍血管の詳細な評価
- 侵襲性:カテーテル挿入が必要
5-3. 確定診断
肝生検
- 方法:超音波ガイド下に肝臓から組織を採取
- 適応:画像診断で確定できない場合
- 合併症:出血(約0.5%)、疼痛
- 最近の傾向:画像診断の精度向上により実施頻度は減少
診断基準
以下のいずれかを満たせば肝細胞がんと診断:
- 病理学的診断:肝生検または手術標本で肝細胞がんを証明
- 画像診断:2種類以上の画像検査(CT、MRI、血管造影)で典型的所見
- 腫瘍マーカー + 画像:AFP 200 ng/mL以上 + 典型的な画像所見
5-4. 鑑別診断
肝臓がんと区別が必要な疾患:
| 疾患 | 特徴 | 鑑別ポイント |
|---|---|---|
| 肝血管腫 | 良性腫瘍、無症状 | MRIで特徴的な高信号 |
| 限局性結節性過形成(FNH) | 良性腫瘍、若い女性に多い | 中心瘢痕、spoked wheel pattern |
| 肝細胞腺腫 | 良性腫瘍、経口避妊薬使用者 | 出血リスク、malignant potential |
| 転移性肝がん | 他臓器からの転移 | 原発巣の検索、多発性 |
| 肝内胆管がん | 胆管上皮から発生 | 胆管拡張、CA19-9上昇 |
6. ステージ分類と予後
6-1. TNM分類
国際的に使用されるTNM分類(UICC第8版):
| T(原発腫瘍) | 説明 |
|---|---|
| T1 | 単発腫瘍、血管浸潤なし、2cm以下(T1a)または2cm超(T1b) |
| T2 | 単発で血管浸潤あり、または多発で5cm以下 |
| T3 | 多発で少なくとも1つが5cm超 |
| T4 | 門脈・肝静脈の主要分枝への浸潤、または他臓器浸潤 |
| N(リンパ節転移) | M(遠隔転移) |
|---|---|
| N0:なし | M0:なし |
| N1:あり | M1:あり |
6-2. 日本肝癌研究会の分類
日本では、肝機能も考慮した独自の分類が使われます:
| ステージ | 腫瘍の状態 | 肝機能(Child-Pugh分類) | 5年生存率 |
|---|---|---|---|
| Stage I | 単発、2cm以下、血管浸潤なし | A(良好) | 約60-70% |
| Stage II | 単発、2cm超、または多発で5cm以下 | A-B(良好~中等度) | 約40-50% |
| Stage III | 多発で5cm超、または血管浸潤あり | B(中等度) | 約20-30% |
| Stage IV | リンパ節転移または遠隔転移あり | C(不良) | 約5-10% |
6-3. Child-Pugh分類(肝機能評価)
肝硬変の重症度を評価する分類で、治療方針決定に重要です:
| 項目 | 1点 | 2点 | 3点 |
|---|---|---|---|
| 脳症 | なし | 軽度 | 時々昏睡 |
| 腹水 | なし | 少量 | 中等量 |
| ビリルビン | <2.0 mg/dL | 2.0-3.0 | >3.0 |
| アルブミン | >3.5 g/dL | 2.8-3.5 | <2.8 |
| PT(%) | >70% | 40-70% | <40% |
- Child-Pugh A(5-6点):良好な肝機能、手術可能
- Child-Pugh B(7-9点):中等度、局所療法を検討
- Child-Pugh C(10-15点):不良、対症療法が中心
6-4. 予後因子
肝臓がんの予後に影響する因子:
良好な予後因子
- ✅ 腫瘍径2cm以下
- ✅ 単発
- ✅ 血管浸潤なし
- ✅ 良好な肝機能(Child-Pugh A)
- ✅ AFP低値
- ✅ 完全切除可能
- ✅ 早期発見(定期検診)
不良な予後因子
- ❌ 腫瘍径5cm以上
- ❌ 多発性
- ❌ 血管浸潤あり
- ❌ 不良な肝機能(Child-Pugh B-C)
- ❌ AFP高値(>400 ng/mL)
- ❌ リンパ節転移・遠隔転移
- ❌ 症状が出てから発見
7. 治療法の選択肢
7-1. 治療アルゴリズム
肝臓がんの治療は、腫瘍の状態と肝機能の両方を考慮して決定します:
📋 治療選択の基本方針
1. 根治的治療(治癒を目指す)
- 肝切除術
- 肝移植
- ラジオ波焼灼療法(RFA)
- マイクロ波凝固療法(MCT)
2. 局所療法(腫瘍の進行を抑える)
- 肝動脈化学塞栓療法(TACE)
- 肝動注化学療法(HAI)
- 放射線治療
3. 全身療法(進行がんに対する)
- 分子標的薬
- 免疫チェックポイント阻害薬
- 化学療法
4. 対症療法・緩和ケア
- 症状緩和
- QOL向上
7-2. 外科的治療
肝切除術
- 適応:単発または限局した多発、Child-Pugh A-B、十分な残肝機能
- 切除範囲:部分切除、区域切除、葉切除など
- 5年生存率:50-70%(早期例では70-80%)
- 利点:最も根治性が高い、病理診断が可能
- 欠点:侵襲が大きい、肝不全のリスク、再発率40-70%
- 最近の進歩:腹腔鏡下肝切除、ロボット支援手術
肝移植
- 適応:ミラノ基準(単発5cm以下、または3個以内でいずれも3cm以下)
- 5年生存率:約70%
- 利点:がんと肝硬変を同時に治療、再発率が低い
- 欠点:ドナー不足、高額(保険適用あり)、免疫抑制剤の生涯服用
- 日本の現状:脳死肝移植と生体肝移植
7-3. 局所療法
ラジオ波焼灼療法(RFA)
- 方法:超音波ガイド下に電極針を刺入し、ラジオ波で腫瘍を焼灼
- 適応:3cm以下、3個以内
- 5年生存率:約50-70%(小型肝がん)
- 利点:低侵襲、入院期間短い(3-5日)、繰り返し治療可能
- 欠点:大きな腫瘍には不向き、血管・胆管損傷リスク
- 局所麻酔で可能、外来治療も検討
肝動脈化学塞栓療法(TACE)
- 方法:カテーテルを腫瘍栄養血管に挿入し、抗がん剤と塞栓物質を注入
- 適応:切除不能、RFA困難、Child-Pugh A-B
- 効果:腫瘍の縮小、生存期間延長
- 利点:繰り返し実施可能、外来治療も可能
- 欠点:肝機能低下、発熱・疼痛(術後症候群)
- 最新技術:DEB-TACE(薬剤溶出性ビーズ)
7-4. 全身療法(薬物療法)
近年、肝臓がんの薬物療法は飛躍的に進歩しています:
分子標的薬(一次治療)
| 薬剤名 | 作用機序 | 生存期間延長 |
|---|---|---|
| レンバチニブ | マルチキナーゼ阻害薬 | 中央値13.6ヶ月 |
| ソラフェニブ | マルチキナーゼ阻害薬 | 中央値10.7ヶ月 |
免疫チェックポイント阻害薬
- アテゾリズマブ + ベバシズマブ併用療法:一次治療の新標準、生存期間中央値19.2ヶ月
- ニボルマブ:二次治療で有効
- ペムブロリズマブ:MSI-High症例で有効
二次治療以降
- レゴラフェニブ
- カボザンチニブ
- ラムシルマブ(AFP≥400 ng/mL)
7-5. 放射線治療
- 適応:手術・RFA困難例、骨転移による疼痛緩和
- 最新技術:定位放射線治療(SBRT)、陽子線治療、重粒子線治療
- 効果:局所制御率70-90%
7-6. 支持療法・緩和ケア
- 疼痛管理:鎮痛薬、神経ブロック
- 腹水管理:利尿薬、腹水穿刺、CART(腹水濾過濃縮再静注法)
- 栄養管理:BCAA(分岐鎖アミノ酸)製剤、栄養サポート
- 心理的サポート:カウンセリング、緩和ケアチーム
8. 予防と早期発見
8-1. 一次予防(がんにならないための予防)
肝炎ウイルス対策
- B型肝炎ワクチン接種:定期接種(2016年10月~)、母子感染予防
- C型肝炎の治療:DAA(直接作用型抗ウイルス薬)でウイルス排除
- 肝炎ウイルス検査:一生に一度は受検(無料検査あり)
生活習慣の改善
✅ 推奨される生活習慣
- 適正体重の維持:BMI 18.5-25
- 適度な運動:週150分以上の中等度運動
- 節酒:純アルコール換算で男性40g/日以下、女性20g/日以下
- 禁煙:喫煙は肝がんリスクを1.5倍に
- バランスの良い食事:野菜・果物を多く、脂肪・糖質を控えめに
- コーヒー:1日3-4杯で肝がんリスク低下(エビデンスあり)
❌ 避けるべき習慣
- 過度の飲酒
- 喫煙
- 肥満・メタボリックシンドローム
- 不規則な生活
- ストレスの蓄積
8-2. 二次予防(早期発見・早期治療)
定期検診の重要性
肝臓がんの早期発見には、症状がなくても定期的に検査を受けることが最も重要です:
| リスク分類 | 検査頻度 | 検査内容 |
|---|---|---|
| 肝硬変 | 3-4ヶ月ごと | 血液検査(AFP、PIVKA-II)+ 腹部超音波/CT |
| 慢性肝炎 | 6ヶ月ごと | 血液検査 + 腹部超音波 |
| NASH/NAFLD | 6-12ヶ月ごと | 血液検査 + 腹部超音波 |
| 一般(40歳以上) | 年1回 | 肝機能検査(健康診断) |
無料検査・助成制度
- 肝炎ウイルス検査:自治体の無料検査(一生に一度)
- 肝炎治療医療費助成:インターフェロン治療、核酸アナログ製剤治療
- 肝がん・重度肝硬変治療研究促進事業:入院医療費の助成
当院の肝臓がんスクリーニングプログラムでは、リスクに応じた最適な検査プランをご提案しています。
8-3. 三次予防(再発予防)
肝臓がん治療後の再発率は高く(5年で70%)、再発予防が重要です:
- 定期的な画像検査:3-6ヶ月ごと
- 腫瘍マーカー測定:3-6ヶ月ごと
- 肝炎治療の継続:ウイルス陰性化の維持
- 生活習慣の改善:禁酒、禁煙、体重管理
- 再発時の早期治療:小さいうちに発見し治療
9. よくある質問(FAQ)
Q1. 肝臓がんの初期症状はありますか?
肝臓がんは「沈黙の臓器」である肝臓に発生するため、初期段階ではほとんど症状がありません。倦怠感、食欲不振、体重減少などの非特異的な症状が最も早く現れる可能性がありますが、これらは他の病気でも見られるため、肝臓がんと気づきにくいのが問題です。症状が出た時点で既に進行していることが多いため、高リスク群の方は症状がなくても定期的な検査が極めて重要です。
Q2. 肝臓がんの主な原因は何ですか?
日本ではC型肝炎ウイルス(約50%)が最も多い原因ですが、近年はNASH/NAFLD(非アルコール性脂肪肝炎/疾患、約20%)が急増しています。その他、B型肝炎(約10%)、アルコール性肝障害(約10%)が主な原因です。肝炎→肝硬変→肝がんという経過をたどることが多く、慢性肝疾患の治療と管理が予防の鍵となります。
Q3. 肝臓がんは遺伝しますか?
肝臓がん自体は遺伝しませんが、B型肝炎ウイルスは母子感染します。また、ヘモクロマトーシスやウィルソン病などの遺伝性疾患は肝臓がんのリスクを高めます。家族に肝臓がんや肝硬変の方がいる場合、肝炎ウイルスの検査と定期的な肝機能検査を受けることをお勧めします。
Q4. 腫瘍マーカー(AFP)が高いと肝臓がんですか?
AFPが高値でも必ずしも肝臓がんとは限りません。慢性肝炎や肝硬変でも上昇することがあります。逆に、AFPが正常でも肝臓がんの場合もあります(約30-40%)。そのため、PIVKA-IIとの併用や画像検査(超音波、CT、MRI)による総合的な判断が必要です。AFP 200 ng/mL以上で特徴的な画像所見があれば、肝臓がんの可能性が高くなります。
Q5. 肝臓がんの治療法はどのように選ばれますか?
治療法は腫瘍の状態(大きさ、個数、位置、血管浸潤の有無)と肝機能(Child-Pugh分類)の両方を考慮して決定します。早期で肝機能が良好なら手術やRFA、進行例や肝機能不良例ではTACEや薬物療法を選択します。近年は分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の進歩により、進行がんでも生存期間が延長しています。
Q6. 肝臓がんは予防できますか?
はい、肝臓がんは予防可能ながんの一つです。B型肝炎ワクチン接種、C型肝炎の治療(DAAでウイルス排除)、節酒・禁煙、適正体重の維持、糖尿病の管理などが有効です。また、高リスク群の定期検診による早期発見は、治癒可能な段階での治療開始につながり、「二次予防」として極めて重要です。
Q7. 肝臓がん治療後の再発率はどのくらいですか?
肝臓がんは再発率が高いがんで、治療後5年以内に約50-70%が再発します。これは、背景に肝硬変があると、新たながんが別の場所に発生しやすいためです。再発予防には、肝炎治療の継続、生活習慣の改善、定期的な画像検査(3-6ヶ月ごと)が重要です。再発しても早期発見・早期治療により、再び根治を目指せる可能性があります。
Q8. 肝硬変があると必ず肝臓がんになりますか?
肝硬変があると肝臓がんの年間発生率は3-8%です。必ず肝臓がんになるわけではありませんが、リスクは非常に高いため、3-4ヶ月ごとの定期検査(血液検査+画像検査)が推奨されます。肝炎治療によりウイルスを排除しても、肝硬変がある場合は肝臓がんのリスクが残るため、生涯にわたる定期検査が必要です。
10. まとめ
肝臓がん症状のまとめ
🔑 重要ポイント
- 「沈黙の臓器」の特性:肝臓がんは初期症状がほとんど出ないため、症状が現れた時点で既に進行していることが多い
- 初期の警告サイン:倦怠感、食欲不振、体重減少、微熱などの非特異的症状に注意。特に肝炎・肝硬変の既往がある方は要注意
- 進行症状:黄疸、腹水、浮腫、出血傾向、腹痛などが現れたら速やかに受診
- 主な原因:C型肝炎(約50%)、NASH/NAFLD(約20%)、B型肝炎(約10%)、アルコール性肝障害(約10%)。近年はNASH/NAFLDが急増中
- 診断:腫瘍マーカー(AFP、PIVKA-II)と画像検査(超音波、CT、MRI)の組み合わせが重要。定期検診による早期発見が予後を大きく改善
- 治療選択:腫瘍の状態と肝機能の両方を考慮。手術、RFA、TACE、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬など選択肢が拡大
- 予後:早期発見(2cm以下)の5年生存率は70-80%、進行期では10-30%。早期発見が生命予後を大きく左右
- 予防:B型肝炎ワクチン、C型肝炎の治療、節酒・禁煙、体重管理、糖尿病の管理が有効
- 定期検診:肝硬変は3-4ヶ月ごと、慢性肝炎は6ヶ月ごとの検査が推奨される
- 再発予防:治療後も定期検査を継続し、再発の早期発見・早期治療が重要
🏥 こんな症状があれば、すぐに受診を
- ✅ 説明のつかない倦怠感が続く
- ✅ 食欲不振と体重減少(3ヶ月で5%以上)
- ✅ 右上腹部の痛みや違和感
- ✅ 黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)
- ✅ 腹部の膨満感(腹水の可能性)
- ✅ 健康診断で肝機能異常や腫瘍マーカー上昇
特に、C型・B型肝炎ウイルス陽性、肝硬変、NASH/NAFLD、慢性肝炎、アルコール性肝障害の方は、症状がなくても定期的な検査を受けましょう。
📍 AIプラスクリニックたまプラーザでの診療
当院では、消化器外科専門医・医学博士の佐藤靖郎医師による専門的な診療を行っています:
- 肝臓がんスクリーニング:血液検査(肝機能、腫瘍マーカー)、腹部超音波検査
- 高リスク群の定期管理:個別のリスクに応じた検査プラン
- 肝炎治療:C型肝炎のDAA治療、B型肝炎の核酸アナログ製剤治療
- 生活習慣指導:NASH/NAFLD対策、体重管理、節酒支援
- 専門医療機関との連携:必要に応じて高度医療機関へ迅速に紹介
30年以上の臨床経験を持つ消化器外科専門医が、最新のエビデンスに基づいた診療を提供します。
参考文献・ガイドライン
- 日本肝臓学会編. 肝癌診療ガイドライン 2024年版
- 国立がん研究センター. がん情報サービス「肝細胞がん」
- 厚生労働省. 肝炎対策基本法に基づく施策
- 日本消化器病学会. NASH・NAFLDガイドライン 2023
- WHO. Global Hepatitis Report 2024
- American Association for the Study of Liver Diseases (AASLD). Practice Guidelines 2024