下腹部の痛み|原因・場所別の考え方と受診のタイミングを消化器外科専門医が解説
お腹の下のほうがズキズキする、重い感じがする、急に鋭い痛みが走る……そのような下腹部の痛みを経験したことがある方は少なくないでしょう。下腹部痛は、消化器・泌尿器・婦人科・男性生殖器など多くの臓器が関わり、原因の幅が非常に広い症状です。同じ「下腹部が痛い」という訴えでも、痛む場所・痛みの性質・随伴する症状・年齢や性別によって、考えられる原因はまったく異なります。
本記事では、消化器外科専門医の立場から、下腹部痛の基本的な考え方を整理し、受診の目安をわかりやすくお伝えします。なお、診断や治療はすべて医師の診察が前提となりますので、気になる症状がある場合は医療機関へのご相談をお勧めします。
下腹部痛とは?まず押さえたい基本
一般的に「下腹部」とは、おへそより下の腹部全体を指します。この部位には、大腸(S状結腸・直腸・盲腸など)、膀胱、男性では前立腺・精巣に至る経路、女性では子宮・卵巣・卵管などが含まれます。また、鼠径部(脚の付け根)に近い領域の痛みも、下腹部痛として自覚されることがあります。
痛みの性質は大きく「急性(突然始まる)」と「慢性(数週間以上続く・繰り返す)」に分かれます。さらに「持続する痛み」か「波があって繰り返す痛み(間欠痛)」かも、原因を探る重要な手がかりになります。
下腹部痛の主な原因
消化器が原因の下腹部痛
消化器疾患は下腹部痛の最も頻度の高い原因群のひとつです。
- 便秘:便が腸内に停滞することで腸管が伸展され、鈍い痛みや不快感を生じます。
- 腸炎(感染性・非感染性):腹痛・下痢・発熱を伴うことが多く、食事内容や感染源の確認が重要です。
- 過敏性腸症候群(IBS):器質的な異常を伴わず、腹痛と便通異常が繰り返される機能性疾患です。ストレスや食事で症状が変動します。
- 憩室炎:大腸の壁にできた憩室(くぼみ)に炎症が起きる疾患で、左下腹部痛と発熱を伴うことがあります。
- 虫垂炎:右下腹部痛の代表的な疾患。初期はみぞおち周辺の痛みから始まり、徐々に右下腹部に移動するのが特徴です。
泌尿器が原因の下腹部痛
排尿に関連した症状(頻尿・排尿痛・血尿)を伴う場合は、泌尿器科疾患の可能性があります。
- 膀胱炎:女性に多く、下腹部中央の鈍痛・頻尿・排尿時の灼熱感が典型的です。
- 尿路結石:結石が移動する際に非常に強い疝痛(せんつう:波状の激痛)を生じ、腰背部から下腹部・鼠径部にかけて痛みが走ることがあります。
- 尿閉:尿が出なくなる状態で、下腹部の強い張り感や痛みを伴います。
女性に多い原因
月経周期との関連がある痛みは婦人科疾患の可能性を考える重要な手がかりです。
- 月経痛(原発性月経困難症):子宮が収縮する際のプロスタグランジン産生が主な原因とされています。
- 子宮内膜症:月経困難症のなかでも、日常生活に支障をきたすほどの強い痛みや、月経以外の時期にも痛みが続く場合は子宮内膜症が疑われます。
- 卵巣嚢胞・卵巣捻転:嚢胞(液体が入った袋)が大きくなったり、捻転(ねじれ)を起こしたりすると急激な下腹部痛が生じます。
- 骨盤内炎症性疾患(PID):下腹部痛と発熱、帯下(おりもの)の異常を伴うことがあります。
男性に多い原因
- 精巣上体炎・精巣炎:陰嚢部の痛みや腫れを伴い、下腹部にも痛みが広がることがあります。
- 前立腺炎:会陰部・下腹部の不快感・痛みに加え、排尿症状を伴います。
男性特有の下腹部痛については、下腹部 痛み 男性でも詳しく解説しています。
その他の原因
- 鼠径ヘルニア:腸などの腹部臓器が鼠径部から脱出する状態。膨らみや違和感・痛みを生じます。
- 腹壁・筋肉の痛み:腹筋の過度な使用や打撲による痛みも下腹部に現れることがあります。
- 帯状疱疹:皮疹が出現する前から体表面に沿った痛みが現れることがあり、下腹部が痛む場合もあります。
痛む場所で考える下腹部痛
右下腹部が痛いときに考えること
虫垂炎がよく知られていますが、腸炎・尿路結石・女性では右卵巣の疾患なども考えられます。痛みの始まり方・発熱の有無・随伴症状を組み合わせて判断することが重要です。「右下腹部が痛い=虫垂炎」とは限りません。
左下腹部が痛いときに考えること
便秘・S状結腸の憩室炎・腸炎などが代表的です。女性では左卵巣・卵管の疾患も鑑別に挙がります。左下腹部の痛みについては、左下腹部痛みで詳しくまとめています。
みぞおちから下腹部まで広がる痛み
痛みが広範囲に及ぶ場合や、時間とともに痛みの場所が移動する場合は、腹膜炎など炎症が広がっている可能性も考えられます。腹部全般の痛みについてはお腹痛いも参考にしてください。
真ん中の下腹部が痛いときに考えること
恥骨の上あたりの中央部の痛みは、膀胱炎や尿閉、腸の不調(便秘・過敏性腸症候群)、女性では子宮関連の疾患などが考えられます。
痛みの性質・随伴症状で見分けるポイント
急に強く痛む場合
これまでに経験したことがないほどの急激な痛みは、急性腹症(腹腔内の緊急疾患)の可能性があります。虫垂炎穿孔・腸閉塞・卵巣捻転・異所性妊娠破裂などが挙げられ、早急な対応が必要です。
張り感・膨満感を伴う場合
腸管内のガス貯留(便秘・腸閉塞)や腹腔内の液体貯留(腹水)、婦人科疾患による腫瘤形成なども考えられます。
発熱・吐き気・嘔吐を伴う場合
炎症や感染の関与が疑われます。腹膜炎・腸炎・虫垂炎・骨盤内炎症性疾患などでは、発熱と腹痛が同時にみられます。
下痢・便秘・血便を伴う場合
腸炎・過敏性腸症候群・憩室炎・炎症性腸疾患(クローン病・潰瘍性大腸炎)などが考えられます。黒色便(タール便)は上部消化管出血のサインである場合があり注意が必要です。
排尿痛・頻尿・血尿を伴う場合
泌尿器科的疾患(膀胱炎・尿路結石・前立腺炎など)を積極的に疑います。
月経との関連がある場合
月経前後のみ痛む、月経が始まると痛みが和らぐ、月経以外の時期にも痛みがあるなど、タイミングを記録しておくと受診時の参考になります。下腹部 つるような痛みとして現れる月経関連の痛みについても参考にご覧ください。
年齢・性別で異なる下腹部痛の考え方
女性の下腹部痛では、月経・妊娠・婦人科疾患が加わるため、受診先として産婦人科も視野に入れる必要があります。不正出血や妊娠の可能性がある場合は早めの受診が勧められます。
男性の下腹部痛では、消化器・泌尿器の疾患が中心ですが、精巣・前立腺の疾患も念頭に置く必要があります。
子どもの下腹部痛では、痛みをうまく言語化できない場合があります。機嫌の悪さ・食欲低下・顔色不良なども見逃さないようにしましょう。高齢者では、痛みの感受性が低下していることがあり、症状が軽微でも実際には重篤な病態が隠れていることがあるため注意が必要です。
自宅でできる対処と注意点
受診までの過ごし方
痛みが比較的軽く、全身状態が安定している場合は、安静にして無理な活動を避けましょう。脱水が疑われる場合は少量ずつ水分補給を行います。食事は刺激の少ない消化のよいものを心がけます。
やってはいけないこと
- 強い腹痛を「きっと便秘だろう」と自己判断して受診を先延ばしにすることは避けてください。
- 市販の鎮痛薬の使用は、原因疾患が不明な状態では症状をわかりにくくする場合があります。使用する際は用法・容量を守り、改善しない場合は速やかに受診してください。
- 腹部を強くマッサージしたり温めたりすることで、炎症性疾患では症状が悪化することがあります。
すぐ受診したほうがよい危険なサイン
以下のような症状がある場合は、速やかに医療機関(必要に応じて救急外来)を受診してください。
- 突然始まる激しい腹痛、歩けないほどの痛み
- 38℃以上の発熱を伴う腹痛
- 嘔吐・血便・黒色便(タール便)を伴う
- お腹が板のように硬くなる(筋性防御)
- 顔色が悪い・冷や汗が出る・意識がぼんやりする
- 妊娠中、または妊娠の可能性がある
- 痛みが数時間以上続き、増悪傾向にある
医療機関では何を調べるのか
問診で確認すること
痛みの場所・強さ(スケール評価)・始まり方・持続時間・痛みの変化・随伴症状・最終排便・月経周期・既往歴・服薬歴などを詳しく確認します。正確な情報が診断の精度を高めます。
検査の例
- 触診・打診:腹部の圧痛の場所、筋性防御の有無を確認します。
- 血液検査:炎症反応(CRP・白血球数)・肝機能・腎機能・腫瘍マーカーなど。
- 尿検査:感染・血尿・妊娠反応の確認。
- 超音波検査(腹部エコー):消化管・肝胆膵・子宮・卵巣・腎臓・膀胱などを描出します。
- CT検査:腹部全体を断面像で評価でき、急性腹症の精査に有用です。
- 内視鏡検査:大腸の粘膜病変を直接観察します。
受診先の目安
消化器内科・消化器外科を受診しやすいケース
便通異常(下痢・便秘)、腹部膨満、吐き気・嘔吐、右下腹部痛(虫垂炎疑い)、血便などを伴う場合が目安です。
泌尿器科を受診しやすいケース
排尿痛・頻尿・血尿・排尿困難、腰背部から下腹部に広がる強い痛みを伴う場合。
婦人科を受診しやすいケース
月経周期に関連した痛み、不正出血、妊娠の可能性がある場合、おりものの異常を伴う下腹部痛。
救急外来を考えるケース
上述の「危険なサイン」に該当する場合、夜間・休日でも我慢せず救急外来を受診してください。
よくある質問
下腹部痛は何科を受診すればよいですか?
便通異常・腹部膨満が中心なら消化器内科・消化器外科、排尿症状があれば泌尿器科、月経や性器出血が関連するなら婦人科が受診の目安となります。判断が難しい場合はかかりつけ医やクリニックの内科に相談するのもよいでしょう。
便秘でも下腹部は痛くなりますか?
便が腸に溜まることで下腹部に鈍い痛みや不快感が生じることはあります。ただし、便秘と思っていても別の疾患が隠れていることもあるため、痛みが強い・繰り返す・発熱を伴うといった場合は自己判断せず受診を検討してください。
生理前や生理中の下腹部痛は様子を見てもよいですか?
軽度の月経痛は日常的に経験される症状ですが、日常生活や仕事に大きく支障をきたすほどの痛み、または月経以外の時期にも痛みがある場合は子宮内膜症などの疾患が関与している可能性があります。婦人科への受診をお勧めします。
右下腹部が痛いときは虫垂炎ですか?
右下腹部痛の原因として虫垂炎はよく知られていますが、腸炎・尿路結石・腸腰筋の炎症・女性では卵巣・卵管の疾患など多くの可能性があります。発熱・吐き気・痛みの移動など症状の組み合わせが診断の鍵となります。
下腹部痛が続くのは危険ですか?
数週間以上続く慢性的な痛みであっても、炎症性腸疾患・大腸腫瘍・子宮内膜症など、早期に対処が必要な疾患が背景にある場合があります。「ずっと続いているから慢性的なものだろう」と放置せず、医師に相談することをお勧めします。
まとめ
下腹部の痛みは、消化器・泌尿器・婦人科・男性生殖器など多くの臓器が関係するため、原因の幅が非常に広い症状です。痛む場所・痛みの性質・随伴症状・年齢・性別・月経周期との関連などを総合的に評価することが、適切な診断への第一歩となります。自己判断で原因を決めつけず、気になる症状が続く場合やつらい症状がある場合は、早めに医療機関を受診されることをお勧めします。
関連記事
本記事の監修医師
佐藤 靖郎(さとう やすお)
医師(医学博士)/AIプラスクリニックたまプラーザ 理事長
専門:消化器外科
福島県立医科大学大学院 外科学修了。NTT東日本関東病院や国立病院機構横浜医療センターなどで外科医長・救命救急センター副部長を歴任。厚生労働省の地域連携クリティカルパスモデル開発の班研究員、神奈川県がん診療連携協議会相談役などを務める。
AIプラスクリニックたまプラーザ 診療のご案内
下腹部の痛みや繰り返すお腹の不調など、気になる症状やご不安がございましたら、消化器外科専門医にお気軽にご相談ください。まずは診療案内・受診のご案内をご確認ください。
- Web予約:https://ai-tamaplaza.reserve.ne.jp/sp/index.php
- 公式サイト:https://aiplusclinic-tamaplaza.com/
- TEL:045-909-0117
- 所在地:神奈川県横浜市青葉区美しが丘1-5-5 Retetamaplaza-1F(たまプラーザ駅 最寄り)