下腹部とは、おへその下から骨盤にかけての領域を指します。医学的には「臍下部(さいかぶ)」とも呼ばれ、さらに右下腹部・中央下腹部・左下腹部の3つのエリアに分けて考えることで、原因を絞り込みやすくなります。この領域には大腸(S状結腸・直腸)・膀胱・前立腺・尿管の下部などが位置しています。
男性の場合、女性と異なり子宮・卵巣の問題は除かれますが、前立腺や精巣など男性特有の臓器が関係することがあります。大きく分けると①消化器の問題、②泌尿器の問題、③筋肉・腹壁の問題、④性感染症や精巣疾患の4カテゴリーが挙げられます。
中央の下腹部が痛む場合、膀胱炎・膀胱結石などの膀胱由来の痛み、便秘や直腸の問題、前立腺炎が主な原因として考えられます。排尿時の不快感を伴う場合は泌尿器科的な疾患を疑います。
右下腹部の痛みで最も注意すべきものは急性虫垂炎です。そのほか、大腸憩室炎・尿管結石・鼠径ヘルニアなども右下腹部に痛みをきたすことがあります。突然の強い痛みや発熱を伴う場合は速やかな受診が必要です。
左下腹部が痛む場合、S状結腸の憩室炎・便秘・過敏性腸症候群(IBS)・左側の尿管結石などが考えられます。左側は大腸がんの好発部位でもあるため、血便・体重減少を伴う場合や繰り返す場合は内視鏡検査を検討します。
便秘や腸内ガスの貯留は、下腹部の張り感や鈍痛を引き起こします。排便後に症状が軽減する場合は、消化器機能の一時的な乱れによる可能性が高いと考えられます。
細菌・ウイルス性の胃腸炎では、下腹部痛・下痢・吐き気が同時に現れることが多くあります。感染性腸炎の場合、発熱や血便を伴うことがあるため、脱水に注意しながら経過を観察します。
急性虫垂炎は当初みぞおち周辺に痛みが生じ、時間とともに右下腹部(マックバーニー点付近)へ移動するのが典型的です。発熱・吐き気を伴い、痛みが増強する場合は救急受診を推奨します。
大腸の壁に生じた袋状のくぼみ(憩室)に炎症が起きた状態で、左下腹部痛・発熱・圧痛が特徴です。高齢者や食物繊維不足の方に多く見られます。
強い腹部膨満・腹痛・嘔吐・排便・排ガスの停止が見られる場合は腸閉塞が疑われます。この場合は速やかに救急受診が必要です。
男性の膀胱炎は女性より頻度は低いものの、前立腺肥大や尿路の形態的異常を背景に発症することがあります。排尿時の灼熱感・頻尿・下腹部の不快感が主な症状です。
尿管結石は背中・わき腹から下腹部・鼠径部にかけての激しい疝痛(せんつう)発作が特徴です。血尿を伴うことが多く、痛みが突然起こり波状に繰り返す場合は受診を急いでください。
前立腺炎は会陰部(肛門と陰嚢の間)・下腹部の鈍痛、排尿困難、発熱を呈することがあります。急性細菌性前立腺炎は適切な抗菌薬治療が必要です。
鼠径部(そけいぶ:脚の付け根)の膨らみと鈍痛が特徴です。腹圧がかかったときに症状が増悪し、嵌頓(かんとん)した場合は緊急手術が必要になることもあります。
激しい運動や咳・くしゃみの後に生じる下腹部の痛みは、腹壁筋肉の炎症や肉離れの場合もあります。体表を押すと再現性がある場合は腹壁由来を疑います。
クラミジアや淋菌感染症が進行すると、副睾丸炎(精巣上体炎)を合併し下腹部〜陰嚢の痛みを引き起こすことがあります。性行為歴と合わせて評価が必要です。
精巣捻転は10〜30代の男性に起こりうる緊急疾患で、突然の激しい陰嚢痛と同時に下腹部痛が現れることがあります。数時間以内に手術が必要なケースもあるため、迷わず救急受診してください。
- 突然発症した激しい腹痛・腹部硬直(板状硬)
- 血便・嘔血を伴う腹痛
- 高熱(38.5℃以上)を伴う持続する腹痛
- 排便・排ガスが完全に止まった
- 陰嚢の急激な腫れ・強い痛み(精巣捻転の疑い)
- 2〜3日以上続く下腹部痛
- 排尿時の痛みや血尿を伴う
- 微熱・倦怠感が続く
- 繰り返す腹痛で日常生活に支障がある
- 排便後に痛みが軽快する場合
- 腸内ガスによる張り感でほかの症状がない場合
- 軽い筋肉痛と明らかに判断できる場合
痛みの始まった時期・部位・性質(鈍痛・刺すような痛み・波状性)・増悪・軽快因子・排便・排尿の変化・発熱の有無・性行為歴などを確認します。
血液検査(炎症反応・腎機能)、尿検査、腹部超音波検査、腹部X線、腹部CT、必要に応じて内視鏡検査などが選択されます。
痛みが軽度の場合は安静を保ち、こまめな水分補給が基本です。特に下痢・発熱を伴う場合は脱水に注意します。
消化の良いものを少量ずつ摂り、高脂肪食・アルコール・刺激物は控えましょう。便秘傾向がある場合は食物繊維と水分を意識的に摂取してください。
市販の鎮痛薬や整腸薬を使用する場合も、症状が改善しない・悪化する場合は自己判断での継続使用を避け、医療機関を受診してください。鎮痛薬の服用により診断が遅れる場合があります。
便秘・下痢・腸炎・腹部の張り感など消化器症状が中心の場合は、内科(消化器内科)が窓口になります。
排尿時の痛み・血尿・下腹部痛と尿の変化が同時に見られる場合は泌尿器科が適しています。
上記「危険サイン」に該当する場合や、痛みが急激に強くなっている場合は救急受診を検討してください。判断に迷う場合は「#7119(救急安心センター)」への電話相談も活用できます。
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佐藤 靖郎(さとう やすお)
医師(医学博士)/AIプラスクリニックたまプラーザ 監修医
専門:消化器・内科(消化器外科/内視鏡/一般内科)
略歴:
1988年 福島県立医科大学医学部卒業、医師免許取得。1997年 同大学大学院修了、博士号取得。国立国際医療研究センター、東京新宿メディカルセンター、NTT東日本関東病院、横浜市立大学関連病院、国立病院機構横浜医療センター外科医長・救命救急センター副部長、済生会若草病院(横浜市)外科部長・内視鏡センター・診療部長を歴任。丸亀医療センター・佐々木病院副理事長、日立おおみか病院理事を経て現在に至る。
公的役割:
厚生労働省「地域連携クリティカルパスモデルの開発」班研究員、全国保健所長会 地域連携パス推進班アドバイザー、神奈川県がん診療連携協議会 地域連携クリティカルパス部会 相談役。
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初診の際は、保険証・お薬手帳・(お持ちであれば)健診結果や紹介状をご用意いただくとスムーズです。ご予約はWebまたはお電話で承ります。