終末期とは何か、家族として知っておきたい基本を整理
「終末期」という言葉が、主治医の口から初めて出た日——多くの方は驚きと戸惑いで頭が真っ白になると言います。「それはいつまでのことを指すのか」「何をどう準備すればいいのか」「自宅で過ごせるのか」。疑問は次々と湧いてくるのに、何から調べればいいかもわからない、という状況は珍しくありません。
この記事では、終末期とはどのような時期を指すのか、家族として知っておきたい基本的な考え方を、できるだけ平易に整理します。診断・治療の判断はあくまで主治医との相談が前提ですが、まず「知識として把握する」ことが、家族として落ち着いて動ける出発点になります。
この記事の全体的な位置づけは、在宅での看取り・終末期を考える|気づく・見極めるためのまとめでもご確認いただけます。
終末期の基本的な意味と、医療の場での使われ方
終末期とは、病気や老衰の進行により、回復が見込めなくなった時期を指す言葉です。医療・介護の分野では「ターミナル期」「ターミナルケアの対象となる段階」とも呼ばれます。
日本老年医学会は、高齢者の終末期について「病状が不可逆的かつ進行性で、近い将来の死が予測される状態」と定義しています(日本老年医学会「高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン」2012年)。ただし、「近い将来」の長さは疾患や個人差によって大きく異なり、数日から数か月、場合によってはそれ以上の幅があります。
重要なのは、終末期はある瞬間に突然始まるものではなく、徐々に移行していくプロセスであるという点です。がん・心不全・認知症・老衰など、疾患によってその経過は異なります。
| 疾患の種類 | 一般的な経過のパターン | 留意点 |
|---|---|---|
| がん | 比較的安定期が続いたあと、急速に状態が変化しやすい | 最終段階の移行が速いことがある |
| 心不全・呼吸不全 | 増悪(悪化)と回復を繰り返しながら全体として下降する | どの増悪が最後になるか予測が難しい |
| 認知症・老衰 | ゆっくりと長い期間をかけて機能が低下していく | 終末期の開始点が見えにくい |
「終末期」と気づくきっかけ——よく聞かれる場面
家族が「終末期かもしれない」と意識し始めるきっかけは、大きく次の3つに分かれます。
病院から告げられる場合
主治医から「積極的な治療よりも緩和ケアを中心にしていきましょう」という提案があったとき、あるいは退院前カンファレンス(退院に向けた関係者会議)で「自宅か施設での療養を検討してください」と言われたときです。この段階では、退院日が急に決まり、数日のうちに療養先を選ばなければならないケースも少なくありません。
在宅での変化として気づく場合
食事量が極端に減った、体重が短期間で著しく落ちた、日中もほとんど眠っている時間が増えた、意思疎通がうまく取れなくなってきた——こうした変化が重なったとき、「そろそろ違う段階に入っているのでは」と感じることがあります。
せん妄や意識の変化がきっかけになる場合
せん妄(せんもう)とは、脳の機能が一時的に乱れることで生じる混乱状態です。急に話が支離滅裂になった、昼夜逆転が激しくなった、ないものが見えると言うようになった——こうした症状は、家族にとって非常に驚きを伴うものです。せん妄は終末期に限らず発熱・脱水・薬の影響でも起こりますが、死が近づく時期に現れやすいことも知られています。
「ターミナルケア」「ホスピス」「緩和ケア」との違いを整理する
混同されやすい言葉を簡単に整理します。
| 言葉 | 意味の要点 |
|---|---|
| ターミナルケア | 終末期に行われるケアの総称。身体的な苦痛の緩和だけでなく、精神的・社会的・霊的(スピリチュアル)な苦痛にも対応する |
| 緩和ケア | 治癒を目指す治療と並行して、早い段階から苦痛を和らげることを目的に行われるケア。終末期に限らない |
| ホスピス | 終末期の患者さんが穏やかに過ごせるよう、医療・ケア・精神的支援を提供する場や体制のこと |
| 看取り | 最期の時間を近くで見守り、その人らしい死を支えること |
ターミナルケアについては、ホスピスとは何か、看取りを考え始めた私のために整理もあわせてご覧ください。
家族が見落としがちな「意思決定の問題」
終末期に関する話し合いを、「縁起でもない」と先送りにしてしまうことは、多くの家族に共通する傾向です。しかし、本人の意思確認が難しくなった段階で突然判断を求められると、家族は非常に重い負担を担うことになります。
厚生労働省は「人生会議(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)」として、元気なうちから自分の医療・ケアについての希望を話し合い、記録し、共有するプロセスを推奨しています(厚生労働省「人生会議(ACP)」)。これは一度決めたら変えられないものではなく、繰り返し更新できる対話のプロセスです。
また、「死生観」という言葉も終末期の文脈で出てきます。死生観とは、死と生に対してその人が持つ価値観や考え方のことです。本人がどのような最期を望んでいるか——自宅で過ごしたいのか、病院で管理してほしいのか、延命措置についてはどう考えるか——こうしたことを、できれば本人が元気なうちに、家族で穏やかに話し合っておくことが助けになります。
終末期と在宅医療のつながり——「自宅で過ごす」という選択肢
終末期を自宅で過ごすことは、近年増えつつある選択肢のひとつです。厚生労働省の調査では、国民の半数以上が「自宅での療養・看取りを希望する」と回答しています(厚生労働省「人生の最終段階における医療に関する意識調査」2018年)。一方で、実際に自宅で最期を迎える割合はそれよりも低く、希望と現実の間にはまだ開きがあります。
その差を埋める手段のひとつが訪問診療です。訪問診療とは、医師が定期的に自宅を訪問し、診察・処方・検査・療養管理を行う医療サービスです。痛みや呼吸苦などの症状緩和、胃ろう管理、在宅酸素療法なども、在宅医療の範囲内で対応できる場合があります。
ただし、在宅での療養がすべての方に適しているわけではありません。状態によっては入院での管理が必要になることもあります。施設入居や転院が適切な選択となる場合もあり、どの選択肢が本人・家族にとってよいかは、主治医や医療ソーシャルワーカーと相談しながら判断することが大切です。
「まだ訪問診療が必要な段階かどうかわからない」という段階でも、情報だけ収集しておくことには意味があります。在宅での看取り・終末期を考える|相談・依頼するためのまとめでは、相談の流れや準備できることをまとめています。
当院の在宅診療の現場から
AIプラスクリニックたまプラーザでは、病院の地域連携室や医療ソーシャルワーカーを通じてご紹介いただき、退院前カンファレンスに参加したうえで在宅への引き継ぎを行うケースが多くあります。退院当日から訪問診療を開始した実績もあり、退院直後の不安定な時期の急変にも24時間の連絡体制で対応しています。
担当医は消化器外科・消化器内視鏡の経験を活かし、在宅での栄養管理・嚥下(えんげ:飲み込み)評価・胃ろう管理・在宅酸素療法にも対応しています。地域の訪問看護ステーション・居宅介護支援事業所とも連携し、医療と生活の両面から療養を支える体制を整えています。
対応エリアは、たまプラーザ・あざみ野・美しが丘・新石川など横浜市青葉区を中心とした地域です。隣接する都筑区・川崎市宮前区についてもご相談に応じます。
受診・相談の目安
以下のような状況が当てはまる場合は、在宅医療を含む選択肢について早めに情報を集めておくことをお勧めします。
- 主治医から「緩和ケア中心の方針に切り替えていきましょう」と言われた
- 病院から退院日が告げられ、療養先をどうするか迷っている
- 本人の食事量・活動量が著しく低下し、外来への通院が難しくなってきた
- 家族の介護負担が大きく、自宅での療養を続けられるか不安がある
- 本人の意思(自宅で過ごしたいなど)をどう実現すればいいかわからない
「この段階で相談するのは早すぎるのでは」と感じる方も多いのですが、在宅医療は状態が悪化してからでは選択肢が狭まることがあります。情報だけ聞いてみる、という使い方で構いません。ご本人が来院できない場合の、ご家族のみでのご相談も承っています。
ご予約・お問い合わせからお気軽にご連絡ください。
よくある質問
Q. 終末期とはどれくらいの期間を指すのですか?
明確に決まった期間はありません。疾患の種類や進行の速さによって、数日から数か月、さらに長い場合もあります。医師が「終末期」という言葉を使う場合も、その見通しには幅があります。具体的な見通しについては、主治医に直接お尋ねになることが最も正確です。
Q. 「ターミナルケア」と「緩和ケア」は同じことですか?
異なります。緩和ケアは、がんと診断された段階など、比較的早い時期から苦痛を和らげることを目的に行われるものです。ターミナルケアは終末期に特化したケアを指します。緩和ケアはターミナルケアを含む、より広い概念です。
Q. 余命宣告を受けたあと、在宅医療に切り替えることはできますか?
多くの場合、可能です。現在のかかりつけ医・主治医との関係を断つ必要はなく、併診や引き継ぎという形で在宅医療を導入できます。余命宣告を受けた後の選択肢については、余命宣告を受けた家族に、私が考えたい終末期医療のこともご参照ください。
Q. せん妄が出てきた場合、すぐに入院が必要ですか?
せん妄の原因と程度によります。脱水・感染・薬の影響など改善可能な原因がある場合は、原因への対処で回復することがあります。一方、終末期に近い段階でのせん妄は、在宅でも対応できるケースと、入院管理が適切なケースがあります。いずれも医師の診察と判断が前提ですので、変化を感じたらかかりつけ医や訪問診療の医師に相談してください。
Q. 自宅での看取りを望んでいますが、家族だけでは不安です。
その不安はごく自然なことです。在宅医療は医師・訪問看護師・ケアマネジャーなどがチームで関わるものであり、ご家族が一人ですべてを担う体制ではありません。看取りに向けた家族の備えについては、看取り介護で大切なことを知りたい私へ、家族の備えを整理もあわせてご覧ください。
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本記事の監修医師
佐藤 靖郎(さとう やすお)
医師(医学博士)/AIプラスクリニックたまプラーザ 監修医
専門:消化器外科・消化器内視鏡/一般内科/在宅医療・高齢者医療・がん緩和ケア・心不全・呼吸不全
1988年 福島県立医科大学医学部卒業、医師免許取得。1997年 同大学大学院修了、博士号取得。国立国際医療研究センター、東京新宿メディカルセンター、NTT東日本関東病院、横浜市立大学関連病院、国立病院機構横浜医療センター外科医長・救命救急センター副部長、済生会若草病院(横浜市)外科部長・内視鏡センター・診療部長を歴任。丸亀医療センター・佐々木病院副理事長、日立おおみか病院理事を経て現在に至る。
公的役割:厚生労働省「地域連携クリティカルパスモデルの開発」班研究員、全国保健所長会 地域連携パス推進班アドバイザー、神奈川県がん診療連携協議会 地域連携クリティカルパス部会 相談役。
AIプラスクリニックたまプラーザのご案内
ご家族の通院が難しくなってきた、退院後の療養先に迷っている、自宅でどこまで医療が受けられるか知りたい——そうしたご相談を、たまプラーザで承っています。
TEL:045-909-0117(横浜市青葉区)
ご相談の際は、以下をご用意いただくとスムーズです。
- お薬手帳または薬剤情報提供書
- 医療保険証・各種受給者証
- 介護保険証・介護保険負担割合証
- (お持ちであれば)診療情報提供書(紹介状)や退院時サマリー
ご本人が来院できない場合のご相談も承ります。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個々の患者さんの診断・治療を代替するものではありません。症状や治療方針の判断は、必ず主治医にご相談ください。制度・費用は改定される場合があります。最新の情報は各自治体・保険者の窓口でご確認ください。