左上腹部(みぞおちの左側から左わき腹にかけての領域)の痛みは、胃や膵臓、大腸など複数の臓器が集まる部位の不調によって起こります。原因は多岐にわたるため、痛みの性質・場所・持続時間・伴う症状を整理することが受診の際に役立ちます。本記事では、左上腹部の痛みに関する原因・症状・対処法を、消化器専門医の監修のもとわかりやすく解説します。
腹部の痛み全般については、親ピラー記事「お腹痛いとは?原因・症状・治し方まで内科医が解説【たまプラーザ】」もあわせてご参照ください。
左上腹部には、以下の臓器が位置しています。
- 胃:食物を消化する袋状の臓器
- 膵臓(すいぞう):消化酵素とインスリンを分泌する臓器(胃の裏側に位置)
- 脾臓(ひぞう):免疫・血液の管理に関わる臓器(左わき腹の奥)
- 大腸(下行結腸・脾彎曲部):食物の水分を吸収する
- 左腎臓・左尿管:背部寄りに位置
- 肋骨・肋間神経・筋肉:腹部外から痛みが生じることも
痛みの出方によって、ある程度の鑑別が可能です。突然の激痛は緊急性が高い疾患を示す場合があり、鈍い持続痛や食事との関係がある痛みは消化器疾患を示唆することがあります。ただし、自己判断には限界があるため、気になる症状が続く場合は医師への相談が大切です。
胃炎・胃潰瘍・十二指腸潰瘍は、左上腹部から中央(みぞおち)の痛みとして現れることが多く、空腹時や食後に悪化するケースがあります。ヘリコバクター・ピロリ菌感染や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の使用が関与することがあります。機能性ディスペプシアもこの部位の不快感・痛みの原因として近年注目されています。
急性膵炎・慢性膵炎では、左上腹部から背中にかけての強い痛みが生じることがあります。急性膵炎はアルコールや胆石が主な原因とされ、緊急対応が必要になる場合があります。日本消化器病学会のガイドラインでも膵炎の早期診断・治療の重要性が示されています。
脾腫(ひしゅ)や脾梗塞では左上腹部の鈍痛・違和感が起こる場合があります。感染症(伝染性単核球症など)や血液疾患が背景にあることもあります。
大腸の左側(下行結腸・脾彎曲部)に便が滞ると、左上腹部の張り・鈍痛が生じることがあります。過敏性腸症候群(IBS)や炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎)も鑑別に上がります。
腎盂腎炎・尿路結石は左側の腰背部から左脇腹にかけての痛みとして現れます。尿路結石では突然の激しい痛みが特徴です。
肋間神経痛や帯状疱疹(水痘・帯状疱疹ウイルスによる神経炎)、筋肉・肋骨の疲労や損傷でも左上腹部に痛みが出ることがあります。また、左心不全や狭心症が腹部症状として現れる場合があるため、注意が必要です。
胃炎・胃潰瘍、機能性ディスペプシアなど、消化器疾患が関連することが多いです。
胃・十二指腸の病気や膵炎が疑われます。
膵臓の病変(膵炎・膵がん)が疑われます。早めの受診が勧められます。
胃潰瘍では食後痛、十二指腸潰瘍では空腹時や夜間痛が出やすいとされています。
腹膜刺激症状(腹膜炎など)や筋肉・肋骨の問題が考えられます。腹部を押すと非常に強い反跳痛がある場合は緊急性が高い可能性があります。
胃炎・膵炎・腸閉塞などで起こります。繰り返す嘔吐は脱水につながるため注意が必要です。
膵炎・腎盂腎炎・腸炎・脾膿瘍などの感染症・炎症性疾患で現れます。
大腸の病気(IBS、炎症性腸疾患)などで見られます。
胃炎・逆流性食道炎・機能性ディスペプシアに多い症状です。
黒色便(タール便)は胃・十二指腸からの出血を示す場合があります。すみやかに受診してください。
膵臓の病気や肝・胆道疾患で皮膚・白目が黄色くなることがあります。
意図しない体重減少は、悪性疾患(胃がん・膵がんなど)を考慮する必要がある場合があります。
消化管穿孔・急性膵炎・腸閉塞・大動脈解離などの緊急疾患が疑われます。
循環不全やショック状態のサインの可能性があります。救急を呼ぶことを検討してください。
消化管出血の可能性があります。速やかに受診が必要です。
膵炎・腸炎・腎盂腎炎などの重症化が疑われます。
腹膜炎など緊急を要する状態のサインのことがあります。
原因にかかわらず、悪化する一方の痛みは受診の目安です。
原因がはっきりしない左上腹部痛には、内科または消化器内科への受診が適切です。問診・触診に加え、必要に応じて血液検査・腹部エコー・内視鏡検査などを組み合わせて原因を探ります。
上記「すぐに受診すべき症状」に当てはまる場合は、救急外来への受診や救急車の利用を迷わず検討してください。
痛みの部位・性質・持続時間・食事との関係・既往歴などを確認します。
炎症反応(CRP、白血球数)、膵酵素(アミラーゼ、リパーゼ)、肝機能、腎機能などを評価します。
腎・尿路疾患や膵炎の評価に用います。
被曝なしで胆嚢・膵臓・腎臓・脾臓・大腸などを確認できる検査です。
より詳細な臓器評価が可能で、膵炎・腫瘍・腸閉塞などの診断に有用です。
胃炎・潰瘍・大腸の炎症・腫瘍などを直接確認できます。組織検査(生検)も同時に行えます。
軽度の痛みで発熱・嘔吐・血便などを伴わない場合は、一時的に安静にして経過を見ることもあります。ただし、半日〜1日以上続く場合は受診を検討してください。
市販の胃薬(制酸薬、H2ブロッカーなど)は一時的な症状緩和に使われますが、NSAIDs(イブプロフェンなど)は胃への負担となる場合があります。症状の原因が不明なまま市販薬で対処を続けることは、診断の遅れにつながる可能性があります。
消化の良い食事(おかゆ・うどん・豆腐など)を少量ずつ摂り、脂肪分の多い食事・アルコール・刺激物は控えるようにしてください。膵炎が疑われる場合は絶食が必要なこともあるため、医師の指示に従ってください。
- 痛みが始まった時間・きっかけ
- 痛みの場所・広がり・性質(鋭い・鈍い・締め付けるなど)
- 食事との関係
- 発熱・嘔吐・下痢・血便などの有無
- 常用薬・既往歴
不規則な食事・過食・飲酒・喫煙は胃や膵臓への負担を高めます。生活習慣の見直しが症状改善の助けになることがあります。
ストレスや睡眠不足は自律神経を乱し、胃腸の動きに影響します。機能性ディスペプシアや過敏性腸症候群はその代表例です。詳しくは「腹痛の治し方・治療法|内科医がわかりやすく解説【たまプラーザ】」もご参照ください。
定期的な受診・検査(ピロリ菌検査・内視鏡検査など)や、生活習慣の改善、ストレスマネジメントが再発予防につながります。
左上腹部の痛みは、胃・膵臓・大腸・腎臓・脾臓・神経など多くの臓器が関わる可能性があります。痛みの性質・持続時間・伴う症状を記録し、気になる場合は内科・消化器内科を受診することが大切です。特に、突然の激しい痛み・吐血・血便・高熱・意識の変化を伴う場合は、速やかに医療機関を受診してください。
胃や十二指腸の問題は多くのケースで関わりますが、膵臓・大腸・腎臓・脾臓など他の臓器が原因のこともあります。症状だけで断定することは難しいため、検査による確認が重要です。
軽度の痛みで他の症状(発熱・嘔吐・血便など)がない場合は、1〜2日程度様子を見ることもありますが、数日以上続く場合や繰り返す場合は受診をお勧めします。
安静を保ち、消化の良い食事を少量摂り、アルコール・脂肪分の多い食事・刺激物を避けることが基本です。無理に食べようとせず、水分補給を心がけてください。
痛みが半日以上続く場合、または軽い痛みであっても1週間以上繰り返す場合は受診を検討してください。痛みが悪化したり、他の症状が加わった場合はより早めの受診が望まれます。
突然の激しい痛み・吐血・大量の血便・冷や汗・意識の変化・腹部の著しい硬さを伴う場合は、夜間・休日を問わず救急受診を検討してください。
問診と触診でおおよその見当をつけることはできますが、胃潰瘍・膵炎・腫瘍などを正確に診断するには血液検査・腹部エコー・内視鏡検査・CTなどが必要になることが多いです。気になる痛みが続く場合は、検査を受けることが診断と適切な治療への近道です。
佐藤 靖郎(さとう やすお)
医師(医学博士)/AIプラスクリニックたまプラーザ 監修医
専門:消化器・内科(消化器外科/内視鏡/一般内科)
略歴: 1988年 福島県立医科大学医学部卒業、医師免許取得。1997年 同大学大学院修了、博士号取得。国立国際医療研究センター、東京新宿メディカルセンター、NTT東日本関東病院、横浜市立大学関連病院、国立病院機構横浜医療センター外科医長・救命救急センター副部長、済生会若草病院(横浜市)外科部長・内視鏡センター・診療部長を歴任。丸亀医療センター・佐々木病院副理事長、日立おおみか病院理事を経て現在に至る。
公的役割: 厚生労働省「地域連携クリティカルパスモデルの開発」班研究員、全国保健所長会 地域連携パス推進班アドバイザー、神奈川県がん診療連携協議会 地域連携クリティカルパス部会 相談役。
たまプラーザで内科・消化器の気になる症状がある方へ。左上腹部の痛みが続く場合や、受診の目安・検査についてお気軽にご相談ください。
TEL:045-909-0117(横浜市青葉区・たまプラーザ)
初診の際は、保険証・お薬手帳・(お持ちであれば)健診結果や紹介状をご用意いただくとスムーズです。ご予約はWebまたはお電話で承ります。