家族性大腸腺腫症(FAP)は、大腸粘膜に多数の腺腫性ポリープが発生する遺伝性疾患です。一般的には100個以上のポリープが大腸全体にわたって確認される場合にFAPと診断されます。10〜20代の若い時期からポリープが出現しはじめ、適切な管理を受けなければ中年期までに大腸がんを発症するリスクが非常に高いとされています。
一般的な大腸ポリープは、加齢や生活習慣を背景に単発または少数が生じるケースが多く見られます。一方、FAPでは遺伝子の変異を原因として大腸全体に数百〜数千個のポリープが密生することが特徴です。発症年齢が若く、放置した場合のがん化リスクが極めて高い点で、通常のポリープとは異なる管理が求められます。
FAPの主な原因は、5番染色体に位置するAPC遺伝子の変異です。APC遺伝子は本来、大腸の細胞増殖を抑える働きをもつがん抑制遺伝子ですが、この遺伝子に異常が生じると細胞の増殖が制御されにくくなり、多数のポリープが形成されると考えられています。
FAPは常染色体優性遺伝(別名:常染色体顕性遺伝)の形式をとります。変異のある遺伝子を一方の親から受け継ぐだけで発症する可能性があり、親がFAPの場合、子どもへの遺伝確率は理論上50%とされています。兄弟姉妹や子どもへの影響を考慮し、家族全体での評価が重要です。
FAPの約20〜30%は家族歴のない「新規変異(de novo変異)」によるものとされています。家族に同様の疾患がなくても、内視鏡検査で多数のポリープが確認された場合にはFAPを視野に入れた評価が必要です。
FAPでは大腸全体に腺腫性ポリープが密生するため、内視鏡で観察するとポリープ同士が重なり合っているように見えることもあります。腺腫は10代から徐々に出現し、20〜30代には顕著になるケースが多いとされています。
ポリープが多数形成されていても、初期の段階では自覚症状がほとんどみられないことがあります。そのため、症状がないからといって異常がないとは限らず、定期的な検査による早期発見が大切です。
ポリープが大きくなったり数が増えたりすると、便に血が混じる(血便・便潜血)、腹痛、下痢や便秘などの症状があらわれることがあります。ただし、こうした症状は他の消化器疾患でもみられるため、症状だけでFAPを判断することは難しく、専門的な検査が必要です。
FAPでは大腸以外にも、胃や十二指腸のポリープ、網膜色素上皮の病変(CHRPE)、骨腫、軟部組織の腫瘍(デスモイド腫瘍)など多彩な病変が合併することがあります。これらを総称して「ガードナー症候群」と呼ぶこともあります。
FAPにおける最大のリスクは大腸がんへの進展です。適切な管理を受けない場合、40歳代までにほぼ全例で大腸がんを発症するとされており、早期からの継続的なサーベイランスと治療方針の検討が欠かせません。
FAPでは十二指腸(とくに乳頭部周辺)にポリープが発生しやすく、一部は十二指腸がんのリスクとなります。胃にもポリープがみられることがあるため、上部消化管の定期的な評価も重要です。
デスモイド腫瘍は腹腔内や腹壁に発生する線維性腫瘍で、FAPに合併することがあります。悪性ではないものの、周囲の臓器を圧迫するなどの問題が生じる場合があり、管理が必要です。
大腸内視鏡検査で100個以上のポリープが確認された場合、FAPの可能性を念頭に置いた評価が勧められます。
若年(特に20〜30代)での大腸がんやポリープの発見は、遺伝性疾患のサインである可能性があります。大腸がんの症状と検査・予防の基本をわかりやすく解説もあわせてご参照ください。
親や兄弟姉妹にFAPまたは若年発症の大腸がんがある場合は、症状がなくても早期から内視鏡検査や遺伝学的検査を受けることが推奨されます。
大腸内視鏡検査はFAPの診断において最も基本的な検査です。ポリープの数・分布・形態を直接確認できます。詳しくは内視鏡検査とは?種類・対象疾患・受ける目安を解説をご参照ください。
胃・十二指腸のポリープ合併を確認するために、上部消化管内視鏡(胃カメラ)も定期的に実施されます。
APC遺伝子の変異を確認する遺伝学的検査は、診断の確定や家族への影響を評価するうえで重要です。遺伝外来や専門医のもとで、遺伝カウンセリングと組み合わせて行われることが一般的です。
FAPが診断された場合、血縁者(特に1親等)にも内視鏡検査や遺伝学的検査を検討することが推奨されます。一人の診断が家族全体の予防につながることがあります。
ポリープの数・サイズ・がん化の有無を定期的に内視鏡で確認することが管理の基本です。フォローの間隔は病変の状態や年齢によって異なり、担当医と相談のうえ決定されます。
一部の症例ではセレコキシブなど非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)によるポリープの増加抑制効果が研究されています。ただし、薬物療法だけでがんを予防することはできないとされており、内視鏡管理・外科的治療との組み合わせが前提です。
ポリープの数が非常に多い場合や、がん化が疑われる場合には、大腸を切除する手術(結腸全摘術など)が検討されることがあります。手術の時期や術式は年齢・病変の状態・患者さんの希望などを踏まえて専門医と十分に相談して決定されます。
手術後も残存した直腸や回腸の病変、十二指腸・その他の腸管外病変のフォローが継続して必要です。術後も定期的な内視鏡検査と専門的な管理を続けることが大切です。
自覚症状がない時期でも、ポリープは進行することがあります。定期検査を継続することが長期的な健康管理の基本です。
FAPは家族性疾患であるため、血縁者に対して情報を共有することが早期発見につながる場合があります。かかりつけ医や遺伝カウンセラーとともに、家族への伝え方を相談することも大切です。
FAPをもつ方が妊娠・出産を考える際には、子どもへの遺伝の可能性について遺伝カウンセラーや専門医に相談することが勧められます。将来の治療計画も含め、早めに専門家へ相談するとよいでしょう。
- 大腸内視鏡検査で多数のポリープを指摘された
- 若年(20〜40代)で血便・便潜血・腹痛が続いている
- 家族にFAPや若年発症の大腸がんがいる
- FAPの診断を受けた、または強く疑われている
- 遺伝的リスクについて詳しく知りたい
- 手術の時期や術式について判断に迷っている
診断直後には、ポリープの分布・サイズ・がん化の有無の評価、上部消化管の合併病変の確認、家族への情報提供の方法について担当医と確認することが重要です。
FAPの管理は一律ではなく、年齢・ポリープの状態・遺伝子変異の部位・家族構成などを考慮して個別に決定されます。焦らず、担当医と丁寧に相談しながら方針を決めることが大切です。
FAPは長期にわたる管理が必要な疾患です。消化器内科・外科・遺伝外来など複数の専門家と連携しながら、継続的にフォローを受けることが推奨されます。
ポリープは10〜20代から出現しはじめることが多く、症状が現れる前の段階で家族歴を背景に検査を受けた結果、10〜30代で診断されるケースが少なくありません。症状が出てから見つかる場合は、すでにポリープが進行していることもあります。
常染色体優性遺伝の形式をとるため、変異をもつ親から子どもへ遺伝する確率は理論上50%とされています。ただし、実際の発症の有無や重症度は個人差があります。遺伝についての詳細は遺伝カウンセラーや遺伝外来への相談をお勧めします。
あります。FAPの約20〜30%は家族歴のない新規変異(de novo変異)によるとされています。家族歴がないからといってFAPを否定できるわけではなく、多数のポリープを指摘された場合は専門的な評価を受けることが大切です。
多数のポリープがあるからといって、必ずしもFAPとは限りません。MUTYH関連ポリポーシスなど別の遺伝性疾患や、炎症性腸疾患に伴うポリープなど、鑑別が必要な疾患が存在します。診断には内視鏡所見・病理検査・遺伝学的検査を組み合わせた専門的な評価が必要です。
まずは消化器内科・消化器外科を受診し、内視鏡検査による評価を受けることをお勧めします。遺伝的な問題や家族への影響については、遺伝外来や遺伝カウンセラーへの相談も選択肢の一つです。ご不安な点はお気軽にご相談ください。
たまプラーザで内科・消化器の気になる症状がある方へ。家族性大腸腺腫症をはじめ、大腸ポリープや消化器疾患に関する受診の目安・検査についてお気軽にご相談ください。