腸閉塞の症状を知っておこう|腹痛・嘔吐・お腹の張りのサインと受診の目安
腸閉塞(イレウス)は、腸の中の内容物が正常に流れなくなる状態です。放置すると重篤な合併症につながる可能性があるため、早期に適切な判断をすることが重要です。本記事では、消化器外科専門医の視点から、腸閉塞の主な症状・原因・受診の目安を、一般の方にもわかりやすくご説明します。なお、本記事はあくまでも医学的な解説を目的としており、個々の症状の診断・治療は必ず医師の診察のもとで行われる必要があります。
腸閉塞(イレウス)とは何か、どんな症状で気づくのか
腸閉塞(イレウス)とは、何らかの原因により小腸や大腸の中で食物・消化液・ガスなどの移動が妨げられる病態です。腸の内容物が通過できなくなると、腸の上側に内容物が溜まり、腹痛・嘔吐・腹部膨満といった症状が現れます。
腸閉塞は比較的よくみられる外科的緊急疾患のひとつであり、日本の消化器外科領域においても重要な病態として位置づけられています。過去に開腹手術を受けたことがある方は特に注意が必要ですが、手術歴がない方にも起こることがあります。
腸閉塞でみられる主な症状
腸閉塞では、複数の症状が組み合わさって現れることが多いとされています。以下に代表的な症状を整理します。
腹痛の特徴
腸閉塞で最もよくみられる症状のひとつが腹痛です。腸が閉塞すると、腸管がたまった内容物を送り出そうと収縮するため、差し込むような痛みや波のある(周期的な)痛みが起こることがあります。これを「疝痛(せんつう)」と呼びます。一方、腸管の血流が障害される状態(絞扼性)では、持続する強い痛みがみられることがあります。痛みの性質の変化は受診を判断する手がかりになります。
吐き気・嘔吐
食事の有無に関わらず、吐き気や嘔吐が起こることがあります。閉塞が上部の腸(小腸の上側)ほど早期から嘔吐が現れやすく、嘔吐物に胆汁(黄緑色)が混じることもあります。嘔吐が繰り返されると脱水になる可能性があり、注意が必要です。
お腹の張り(腹部膨満)
閉塞した部位の手前に腸内容物やガスが溜まるため、お腹が張った感じ(腹部膨満)が生じます。目で見てわかるほどお腹が膨れることもあります。閉塞の部位が下部(大腸側)に近いほど、腹部膨満が目立ちやすい傾向があります。
便秘・排ガス停止
便が出ない、またはガス(おなら)が出ないという症状は、腸閉塞の重要なサインのひとつです。特に以前は排便・排ガスがあったのに突然止まった場合には注意が必要です。便秘と混同されやすいですが、腸閉塞では腹痛や嘔吐などの症状を伴うことが多い点が特徴です。
食欲低下・全身症状
症状が進行すると、食欲がなくなる、だるさを感じる、嘔吐が続くことによる脱水症状(口の渇き・尿量の減少など)が現れることがあります。これらは腸閉塞の重症化を示すサインである場合があるため、見逃さないようにすることが大切です。
腸閉塞の種類と、症状の違い
腸閉塞は大きく「機械的閉塞」と「機能的閉塞」に分類されます。機械的閉塞はさらに「単純性」と「絞扼性」に分けられます。
単純性イレウス
腸管の内腔が物理的に閉塞している状態ですが、腸管の血流は保たれているものです。手術後の癒着などが原因となることが多く、腹痛・嘔吐・腹部膨満が徐々に現れることがあります。比較的症状の進行が緩やかな場合がありますが、早期受診が重要であることに変わりありません。
絞扼性イレウス
腸管が捻れたり締め付けられたりすることで血流が障害される状態で、腸管壊死に至る可能性があります。激しい腹痛が持続し、症状が急速に悪化することがあるため、緊急対応が必要となる場合があります。発熱・頻脈・腹膜炎の徴候を伴うこともあり、診断が急がれる病態です。
麻痺性イレウス
腸管自体に物理的な閉塞はなく、腸の蠕動(ぜんどう)運動が低下することで起こるタイプです。開腹手術後、電解質異常、特定の薬剤(鎮痛薬・抗コリン薬など)、腹腔内の炎症などが関係することがあります。腹痛は比較的軽度なこともありますが、腹部膨満・排ガス停止は認めます。
腸閉塞の原因としてよくあるもの
手術後の癒着
腸閉塞の原因として最も頻度が高いのが手術後の癒着です。開腹手術を受けた後、腸管同士や腸管と腹壁が癒着し、腸の通過が妨げられることがあります。手術から数年後に発症することもあるため、過去に腹部の手術を受けた方は注意が必要です。詳しくは腸閉塞の解説もご参照ください。
ヘルニア
鼠径(そけい)ヘルニアや腹壁ヘルニアなどで、ヘルニア嚢に腸管が入り込んで戻らなくなる「嵌頓(かんとん)」を起こすと、腸閉塞の原因となります。急激な痛みとヘルニアの部位の硬さや圧痛が特徴的なサインです。
腫瘍や炎症
大腸がんなどの悪性腫瘍が腸管の内腔を閉塞させることがあります。特に大腸がんは進行すると便秘や血便などの症状に続いて腸閉塞を起こす可能性があります。また、クローン病などの炎症性腸疾患が原因となる場合もあります。
便秘や薬剤の影響
慢性的な便秘が著しく悪化すると、大腸内に便が詰まった状態(糞便性イレウス)になることがあります。また、オピオイド系鎮痛薬・抗コリン薬・一部の精神科薬なども腸の蠕動を抑制し、麻痺性イレウスの誘因となることがあります。
自宅で判断の参考にしやすいポイント
すぐ受診を考えたい症状
以下のような症状がみられる場合には、できるだけ早く医療機関を受診することをお勧めします。
- 急に始まった強い腹痛、または波のある腹痛が繰り返される
- 嘔吐が繰り返されて止まらない
- お腹が張って苦しい
- 便もガスも出ない状態が続いている
様子を見すぎないほうがよい症状
次のような症状を伴う場合は特に注意が必要です。早急な受診を検討してください。
- 腹痛が徐々に強くなる、または持続する
- 発熱がある
- 血便がみられる
- 冷汗をかく、顔色が悪い、ぐったりしている
腸閉塞が疑われるときの受診先と検査
受診先の目安
症状が軽度で緊急性が低いと判断される場合は、消化器内科または消化器外科への受診が適しています。症状が強い場合・夜間や休日の場合は、救急外来への受診を迷わずご検討ください。
医療機関で行う診察
受診の際には、問診(いつから・どのような痛みか・排便排ガスの有無など)と腹部の聴診・触診が行われます。過去の手術歴・既往疾患・内服薬の情報も診断の重要な手がかりとなるため、お伝えください。
主な検査
- 血液検査:白血球・CRP(炎症反応)・電解質・腎機能などを確認します。
- 腹部X線検査:腸管内のガス像や液面(ニボー像)を確認します。
- 腹部CT検査:閉塞の部位・原因・血流障害の有無を詳しく評価するために有用です。
腸閉塞の治療の考え方
治療方針は原因・種類・重症度によって異なります。
保存的治療
単純性イレウスで比較的状態が安定している場合は、絶飲食・点滴による水分・電解質補正、胃管(鼻から胃・腸に入れるチューブ)による腸管内の減圧などが行われることがあります。
手術が検討される場合
絞扼性イレウスが疑われる場合、保存的治療で改善が得られない場合、原因となる腫瘍や壊死腸管がある場合には、外科的手術が必要となることがあります。手術の方法は腹腔鏡手術や開腹手術など、病状によって異なります。
入院管理の意義
腸閉塞は外来のみの対応では診きれないことも多く、脱水・電解質異常・腸管虚血などのリスクを管理するため、入院のもとで経過を観察することが重要な場合があります。
再発予防や日常生活で気をつけたいこと
便秘を放置しない
慢性的な便秘は腸閉塞のリスク因子となり得ます。便通に異常を感じたら、早めに消化器科へご相談ください。
既往手術歴がある人の注意
腹部の手術を受けたことがある方は、癒着性腸閉塞が起こる可能性があります。腹痛・嘔吐・腹部膨満・排ガス停止などの症状が現れた場合は、自己判断で様子をみすぎず、早めに受診してください。
生活上の注意
腸閉塞と診断された後の食事・生活についての指導は、担当医の指示を最優先にしてください。市販のサプリメントや民間療法による自己判断の対応は、症状を悪化させる可能性もあるため、医師へご相談のうえで判断することをお勧めします。
よくある質問
腸閉塞は自然に治ることがありますか
軽度の単純性イレウスでは症状が軽快することがありますが、自己判断で「治った」と判断することは危険を伴う場合があります。放置によって悪化するリスクもあるため、症状が疑われる場合は医師の診察を受けることが重要です。
便秘と腸閉塞はどう見分けますか
単純な便秘では、腹痛があっても嘔吐や腹部膨満が強く現れることは少なく、排ガスが完全に止まることもあまりありません。腸閉塞では腹痛・嘔吐・腹部膨満・排ガス停止が組み合わさって現れやすいとされています。症状の判断に迷う場合は、早めに受診することをお勧めします。
食事はどうすればよいですか
腸閉塞が疑われる状況では、無理に食事や水分を摂ろうとせず、まず医療機関への受診を優先してください。受診前の食事・飲水については医師の指示に従うことが大切です。
市販薬を使ってもよいですか
原因が不明な腹痛・嘔吐がある場合、市販の下剤・整腸剤・鎮痛薬を自己判断で使用することは避けてください。特に下剤は腸閉塞によっては状態を悪化させることがあり、鎮痛薬は症状を分かりにくくする場合があります。まず受診し、医師の判断を仰いでください。
子どもや高齢者でも起こりますか
腸閉塞は年齢を問わず起こり得ます。乳幼児では腸重積(ちょうじゅうせき)、高齢者では便秘や大腸がんに関連した腸閉塞が起きやすいとされています。特に高齢者では症状の訴えが不明確なことがあるため、周囲の方も日頃から体調の変化に注意することが大切です。
受診の目安
すぐに救急受診を考える症状
- 激しい腹痛が突然起こった・または持続している
- 嘔吐が繰り返されて止まらない
- お腹が急激に張ってきた
- 冷汗が出る、顔色が悪い、意識がぼんやりする
- 発熱を伴う強い腹痛がある
できるだけ早く医療機関を受診したい症状
- 便もガスも数日間出ていない
- 食事が摂れない、または摂ると嘔吐する
- 腹痛が断続的に続いている
- 以前に腹部手術を受けており、上記のような症状がある
まとめ
腸閉塞(イレウス)は、腹痛・嘔吐・お腹の張り・便やガスが出ないといった症状が組み合わさって現れることが特徴です。原因や種類によって症状の現れ方や重症度は異なりますが、自己判断での様子見は危険を伴う可能性があります。過去に腹部の手術を受けた方や、大腸がんなどの消化器疾患をお持ちの方は特に注意が必要です。気になる症状があれば、早めに消化器科への受診をご検討ください。
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本記事の監修医師
佐藤 靖郎(さとう やすお)
医師(医学博士)/AIプラスクリニックたまプラーザ 理事長
専門:消化器外科
福島県立医科大学大学院 外科学修了。NTT東日本関東病院や国立病院機構横浜医療センター等で外科医長・救命救急センター副部長を歴任。厚生労働省の地域連携クリティカルパスモデル開発の班研究員、神奈川県がん診療連携協議会相談役などを務める。
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