膵臓がんで下痢が続くときの原因と対処法
膵臓がんとは|症状・検査・治療・生活までを医師監修で解説する総合ガイド › 膵臓がんの副作用・合併症ケア|押さえておきたい要点を医師監修で解説 › (本記事)
膵臓がんの治療中や経過観察中に「下痢が続く」という訴えは少なくありません。下痢は膵臓がんそのものによる消化機能の変化、抗がん剤の副作用、胆道の閉塞など、複数の原因が重なって生じることがあります。原因によって適切な対処法が異なるため、自己判断で市販薬を使い続けることは推奨されません。まずは症状の特徴を整理し、受診の目安を知ることが大切です。本記事では、膵臓がんで下痢が続くときの主な原因・自宅でできる工夫・受診すべき状況を、公的情報とガイドラインに基づいて解説します。
膵臓がんで下痢が続くのはなぜ?まず知っておきたいこと
下痢は「膵臓がんそのもの」だけで起こるとは限らない
膵臓癌で下痢が続く場合、その原因は一つではありません。膵臓の機能低下による消化吸収障害、抗がん剤や支持療法の副作用、胆道閉塞に伴う胆汁の流れの変化、感染症や他の消化器疾患の併発など、多くの要因が絡み合って症状が現れます。「膵臓がんだから下痢になって当然」と見過ごすことなく、どのような原因でなぜ起きているかを主治医と一緒に整理することが重要です。
治療中に起こる下痢と、がんによる消化機能の変化の違い
治療中の下痢(特に抗がん剤による下痢)は、治療開始後に急に出現し、次の投与サイクルと関連することが多い傾向があります。一方、膵臓がんによる消化機能の変化で生じる下痢は、脂っぽい便・消化されていない食物が混じる便など、より緩やかに出現することが特徴のひとつです。どちらの下痢かによって対処法が変わるため、いつから・どんな便が・何回出るかを記録しておくと受診時に役立ちます。
膵臓がんで下痢が続く主な原因
膵外分泌機能の低下で消化酵素が足りなくなる
膵臓は食物を分解するための消化酵素(アミラーゼ・リパーゼ・トリプシンなど)を分泌しています。腫瘍によって膵管が閉塞したり、膵臓自体の機能が低下したりすると、脂肪・たんぱく質・炭水化物の分解が不十分になります。その結果として脂肪便(脂性便・油っぽい便)や下痢、体重減少が生じやすくなります。この状態を「膵外分泌機能不全」といいます。
胆汁の流れが妨げられて脂肪の消化吸収に影響する
膵頭部(膵臓の頭側)にできたがんが総胆管を圧迫すると、胆汁の流れが妨げられます(胆道閉塞)。胆汁は脂肪の消化吸収を助ける働きがあるため、胆汁の流れが悪くなると脂肪便・下痢・黄疸が起こることがあります。黄疸(皮膚や白目が黄色くなる、尿が濃くなる)を伴う下痢は早急な評価が必要です。
食事量低下や体重減少で栄養状態が崩れる
がんによる食欲低下や消化機能の変化が続くと、腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)のバランスが乱れ、下痢が起こりやすくなります。また、栄養状態の悪化は腸粘膜の維持能力を低下させ、症状を悪化させる場合があります。
抗がん剤や支持療法の副作用で下痢が起こることがある
ゲムシタビンやフッ化ピリミジン系薬剤(S-1など)、オキサリプラチンを含むFOLFIRINOX療法などは、消化管粘膜への影響から下痢を引き起こすことがあります。また、オピオイド系鎮痛薬を便秘対策のために緩下剤で管理している場合、調整が難しくなることもあります。抗がん剤治療中の下痢は「グレード分類」により重症度を評価し、必要に応じて減量・休薬・薬剤調整が行われます。
感染症や他の消化器疾患が隠れている場合もある
膵臓がん患者さんは免疫機能が低下していることが多く、感染性腸炎(細菌・ウイルス・クロストリジウム・ディフィシルなど)を合併するリスクが高まります。抗菌薬の使用後に急に下痢が悪化した場合は、偽膜性腸炎(クロストリジウム・ディフィシル感染)の可能性もあるため注意が必要です。
下痢のときに一緒に見ておきたい症状
便の回数・性状・脂っぽさ・色の変化
| 便の特徴 | 考えられる主な原因 |
|---|---|
| 油っぽい・水に浮く・悪臭 | 膵外分泌機能不全、脂肪吸収障害 |
| 白っぽい・灰色がかった便 | 胆道閉塞(胆汁の流れが妨げられている) |
| 黒い便(タール便) | 消化管出血(上部消化管) |
| 赤い血が混じる便 | 消化管出血(下部消化管) |
| 水様性の便が急に増える | 感染性腸炎、薬剤の副作用 |
腹痛、発熱、吐き気、食欲低下、脱水の有無
発熱を伴う下痢は感染症や胆管炎の可能性があります。強い腹痛・吐き気・38℃以上の発熱が重なるときは速やかに受診してください。
体重減少や黄疸がある場合は注意が必要
体重が短期間に著しく減少している場合や、皮膚・白目が黄色い(黄疸)、尿が濃い茶色になっているときは、消化吸収障害や胆道閉塞の評価が優先されます。
自宅でできる対処法
水分補給のコツと脱水を防ぐ工夫
下痢が続くと水分・電解質(ナトリウム・カリウムなど)を失います。常温または温かい水・お茶・経口補水液(ORS)を少量ずつこまめに飲むことが基本です。冷たい飲み物は腸を刺激することがあるため、できるだけ避けましょう。
消化にやさしい食事のとり方
- 消化のよいもの(おかゆ、柔らかく炊いたご飯、豆腐、白身魚、バナナなど)を少量ずつ、1日5〜6回に分けてとる
- よく噛んでゆっくり食べる
- 食事の直後に横にならない(逆流を防ぐ)
脂っこい食事や刺激物を控える目安
膵外分泌機能が低下している場合、脂肪分の多い食事は下痢を悪化させる可能性があります。揚げ物・脂身の多い肉・バター・生クリームなどは控え、調理法は蒸す・茹でる・煮るを中心にしましょう。アルコール・香辛料・カフェインも腸を刺激するため注意が必要です。
市販薬を自己判断で使う前に確認したいこと
抗がん剤治療中の下痢に市販の止痢薬(ロペラミドなど)を自己判断で使用することは推奨されません。感染性腸炎の場合は薬の種類によって悪化するリスクがあります。また、抗がん剤の副作用で起きる下痢は医療機関での適切な薬剤管理が必要です。まず主治医または担当看護師・薬剤師に相談してください。
受診・相談の目安
以下のいずれかに当てはまる場合は、自己判断で様子を見ずに医療機関に連絡・相談してください。
下痢が数日以上続く、または回数が増えている
1日に4回以上の下痢が2〜3日続く、または急に回数が増えているときは受診を検討してください。
血便、黒い便、強い腹痛、発熱、ぐったりする
これらは消化管出血・腸炎・胆管炎などのサインである可能性があり、早急な評価が必要です。
水分がとれない、尿が少ない、めまいがある
脱水が進んでいるサインです。特に高齢の方や体力が低下している方は悪化しやすいため、早めに連絡してください。
抗がん剤治療中で下痢が悪化したとき
抗がん剤治療中の下痢は「グレード2以上(日常生活に支障をきたす程度)」になった場合、ガイドラインでは治療の調整が検討されます。自己判断での継続は避け、必ずがん治療担当医・看護師に相談してください。
すぐに主治医へ連絡したほうがよいケース
- 38℃以上の発熱と下痢が同時にある
- 黄疸(皮膚・白目が黄色い)が急に現れた、または悪化した
- 意識がぼんやりする、立ち上がれないほどのめまいがある
- 1日10回以上の激しい下痢がある
受診のご予約・お問い合わせはこちらからご相談ください。
病院で行う主な確認と治療
便性状や食事内容、治療歴の確認
いつから・どんな便が・何回出るか、現在の治療薬と開始時期、食事内容などを問診します。記録しておくと診察がスムーズです。
必要に応じた血液検査・便検査・画像検査
脱水・低栄養・炎症の程度は血液検査(電解質・アルブミン・CRPなど)で評価します。感染が疑われる場合は便培養検査を行います。胆道閉塞が疑われるときは腹部超音波検査やCT検査が行われることがあります。
消化酵素補充や整腸、止痢薬の調整
膵外分泌機能不全が原因の場合は、消化酵素補充療法(消化酵素製剤の内服)が有効なことがあります。整腸薬(プロバイオティクスを含む製剤)や、感染でない下痢に対する止痢薬の調整も必要に応じて行います。
原因に応じて感染症や胆道閉塞なども評価する
感染性腸炎と診断された場合は原因菌に応じた抗菌薬治療が行われます。胆道閉塞がある場合は内視鏡的・経皮的なドレナージ(胆汁の通り道を確保する処置)が検討されます。
当院での診療から
膵臓がん治療中の下痢に対する相談の進め方
当院は消化器内視鏡センターを備え、鎮静下での胃・大腸内視鏡検査を日常的に実施しています。膵臓がん治療中に下痢が続いてご相談にいらした場合は、まず現在の治療内容・便の性状・食事状況・体重変化を詳しくお聞きします。消化管出血や感染が疑われる際は内視鏡的な評価も速やかに行える体制です。
症状・治療内容に合わせた生活指導と薬の見直し
消化酵素製剤の適否・整腸薬の選択・食事内容のアドバイスを、現在かかっているがん専門施設の治療方針と整合性をとりながら提案します。早期がんを疑う新たな所見が見つかった場合は基幹病院へ速やかに紹介し、地域連携クリティカルパスを活用した術後フォロー・在宅緩和ケアにも対応しています。
受診時に持参するとよい情報
- 現在内服中の薬のリスト(お薬手帳)
- 抗がん剤のレジメン名(治療スケジュール)がわかるもの
- 直近の採血結果・紹介状(お持ちであれば)
- 下痢の回数・便の特徴・体重変化のメモ
公的情報からみる膵臓がんと消化症状の考え方
国立がん研究センターの情報で確認できること
国立がん研究センター がん情報サービスでは、膵臓がんの症状・検査・治療に関する基本情報を公開しています。消化吸収障害や体重減少が膵臓がんの主な症状のひとつとして記載されており、診断・治療の全体像を把握するうえで信頼できる情報源です。
ガイドラインで重視される評価と対応
Mindsガイドラインライブラリ(日本医療機能評価機構)に収載されている各種ガイドラインでは、抗がん剤による下痢のグレード評価と適切な対応(減量・休薬・支持療法の組み合わせ)が整理されています。治療中の下痢については、重症度に応じた医療的判断が求められます。
統計情報は個人の予後を示すものではない
国立がん研究センターが公表している生存率などの統計データは集団全体の傾向を示したものです。個々の患者さんの状態・治療内容・合併症の有無によって経過は異なります。統計上の数値が個人の予後に直接当てはまるわけではありません。ご不明な点は必ず主治医にご確認ください。
よくある質問(FAQ)
膵臓がんで下痢が続くのは初期症状ですか?
下痢が膵臓がんの初期から現れることはありますが、下痢のみで早期に診断されるケースは多くありません。膵臓がんの症状(腹痛・体重減少・黄疸・背部痛など)は病期が進んでから気づかれることが多く、「下痢が続くから膵臓がんに違いない」と自己診断することは適切ではありません。持続する下痢は消化器科を受診し、原因を専門医に評価してもらうことが大切です。
膵臓がんの下痢は脂っぽい便として出ますか?
膵外分泌機能が低下した場合、脂肪の消化吸収が障害され、油が浮いたような便・水に浮く便・悪臭の強い便(脂肪便・脂性便)が出ることがあります。ただし、すべての患者さんにこの症状が出るわけではなく、下痢の性状は原因によってさまざまです。気になる便の変化があれば医師に伝えてください。
抗がん剤中の下痢は我慢してよいですか?
我慢することは推奨されません。抗がん剤による下痢はグレード(重症度)に応じた医療的判断が必要であり、重症化すると脱水・電解質異常・治療の継続困難につながることがあります。「少し下痢になる程度は仕方ない」と感じていても、1日4回以上・日常生活に支障が出る場合は担当医・看護師に連絡してください。
下痢止めを飲んでも大丈夫ですか?
市販の下痢止め(ロペラミド含有薬など)を抗がん剤治療中に自己判断で使用することは推奨されません。感染性腸炎が原因の場合、下痢止めが症状を悪化させることがあります。使用する場合は必ず主治医・薬剤師に相談したうえで判断してください。
何日続いたら病院に相談すべきですか?
2〜3日以上下痢が続く、1日4回以上の下痢が1日でも出る、発熱・血便・強い腹痛を伴う、水分がとれないといった状況ではすみやかに相談してください。抗がん剤治療中であれば、1日でも下痢が続く場合は早めに担当医へ連絡することを推奨します。
関連記事
参考文献・出典
本記事の監修医師
佐藤 靖郎(さとう やすお)
医師(医学博士)/AIプラスクリニックたまプラーザ 監修医
専門:消化器・内科(消化器外科/内視鏡/一般内科)
略歴
1988年 福島県立医科大学医学部卒業、医師免許取得。1997年 同大学大学院修了、博士号取得。国立国際医療研究センター、東京新宿メディカルセンター、NTT東日本関東病院、横浜市立大学関連病院、国立病院機構横浜医療センター外科医長・救命救急センター副部長、済生会若草病院(横浜市)外科部長・内視鏡センター・診療部長を歴任。丸亀医療センター・佐々木病院副理事長、日立おおみか病院理事を経て現在に至る。
公的役割
厚生労働省「地域連携クリティカルパスモデルの開発」班研究員、全国保健所長会 地域連携パス推進班アドバイザー、神奈川県がん診療連携協議会 地域連携クリティカルパス部会 相談役。
AIプラスクリニックたまプラーザのご案内
たまプラーザで内科・消化器の気になる症状がある方へ。下痢・腹痛・体重減少など、気になる消化器症状の受診の目安や検査についてお気軽にご相談ください。
TEL:045-909-0117(横浜市青葉区・たまプラーザ)
初診の際は、保険証・お薬手帳・(お持ちであれば)健診結果や紹介状をご用意いただくとスムーズです。ご予約はWebまたはお電話で承ります。
AIプラスクリニックたまプラーザ
たまプラーザで内科・消化器の気になる症状がある方へ。下痢・腹痛・体重減少など、気になる消化器症状の受診の目安や検査についてお気軽にご相談ください。
免責事項
本記事は一般的な医学情報の提供を目的としており、個別の診断・治療方針を示すものではありません。症状や治療についての判断は、必ず主治医・専門医にご相談ください。記載内容は公開時点の公的情報・診療ガイドラインに基づいており、最新情報は国立がん研究センター「がん情報サービス」等でご確認ください。