食道ヘルニアとは?原因・症状・対処を内科医が解説
「食道ヘルニア」は、胃の一部が横隔膜の上に飛び出してしまう状態のことで、医学的には「食道裂孔ヘルニア」と同じ意味で使われることがほとんどです。胸やけや呑酸(のどに酸っぱいものが上がる感じ)などの症状が現れやすく、逆流性食道炎を引き起こす原因にもなります。本記事では、食道ヘルニアの原因・症状・対処法について、わかりやすく解説します。
食道ヘルニアとは?まずはどんな病気かを理解する
食道裂孔ヘルニアとの違い・同じ意味で使われる理由
「食道ヘルニア」と「食道裂孔ヘルニア」という言葉は、一般的にほぼ同じ状態を指します。正式な医学用語は「食道裂孔ヘルニア(しょくどうれっこうヘルニア)」であり、「食道ヘルニア」はその略称・通称として広く使われています。
食道裂孔ヘルニアについて詳しくは、親ページ「食道裂孔ヘルニアとは?原因・症状・治し方まで内科医が解説【たまプラーザ】」もあわせてご参照ください。
どんな仕組みで起こる病気か
人体では、胸腔(きょうくう)と腹腔(ふくくう)を仕切る「横隔膜(おうかくまく)」という筋肉のまくがあります。食道はこの横隔膜にある「食道裂孔(しょくどうれっこう)」という孔(あな)を通って胃につながっています。通常は胃が腹腔内に収まっていますが、この孔が緩んだり広がったりすることで、胃の一部が胸腔側へ押し上げられた状態が「食道裂孔ヘルニア(食道ヘルニア)」です。
食道ヘルニアの主な原因
加齢による体の変化
加齢によって横隔膜や食道周囲の筋肉・靭帯が緩むことが、食道裂孔ヘルニアの主な原因のひとつです。特に中高年以降に発症が増えます。
腹圧の上昇
肥満・妊娠・重い物をよく持ち上げる習慣・慢性的な咳・便秘などにより腹腔の内圧(腹圧)が上がると、胃が横隔膜の上方向に押し出されやすくなります。
姿勢・体型の影響
猫背・前かがみの姿勢、長時間座ったままの前屈姿勢なども、胃への圧力を高め、ヘルニア形成に関与すると考えられています。
生まれつきの要因
生まれつき食道裂孔が大きい方もおり、若年層でも発症する場合があります。体質的要因とされ、家族内での発症もしばしば認められます。
食道ヘルニアの症状
胸やけ・呑酸(どんさん)
胃酸や胃の内容物が食道へ逆流することで、胸のあたりが焼けるように痛む「胸やけ」や、酸っぱいものが喉まで上がってくる「呑酸」が代表的症状です。
呑酸・喉の違和感
呑酸が強い場合、酸による刺激で喉の不快感・ヒリヒリ感・声がれなどを感じることがあります。喉の違和感について詳しく知りたい方は、喉の違和感についての記事もご参照ください。
胸痛・つかえ感
食道が圧迫される刺激により、胸の奥の痛みや食べ物がつかえる感じ(嚥下困難)が現れることがあります。
咳・喘息のような症状
胃酸が食道経由で気道に到達すると、慢性的な咳や喘息に似た症状、夜間の咳き込みなどが生じる場合があります。
無症状の場合もある
食道裂孔ヘルニアがあっても、まったく自覚症状がない方もいます。健康診断の胃カメラ検査で偶然見つかるケースもあります。
食道ヘルニアのタイプ(滑脱型・傍食道型)
滑脱型ヘルニア(最も多いタイプ)
胃と食道のつなぎ目(噴門部)が縦隔側へずれ上がるタイプで、食道裂孔ヘルニアの多くを占めます。逆流症状を起こしやすい特徴があります。
傍食道型ヘルニア
食道ではなく、胃の一部が食道の横から胸腔内に入り込むタイプで、頻度は低いものの、嵌頓(かんとん)すると緊急対応が必要になる場合があります。
混合型
滑脱型と傍食道型の特徴を併せ持つタイプで、大きなヘルニアや複雑な病態として扱われます。手術適応の判断が重要になります。
検査と診断はどう行う?
胃カメラ(内視鏡検査)でわかること
胃内視鏡検査(胃カメラ)は、食道裂孔ヘルニアの確認に有用な検査です。食道・胃のつなぎ目の状態や、逆流性食道炎の有無・程度を直接観察できます。
バリウム検査や画像検査で確認すること
上部消化管造影(バリウム検査)では、胃の形状や逆流の様子を確認することができます。また、CT検査でヘルニアの大きさや範囲を把握することもあります。
診断は医師の診察が前提であること
食道ヘルニアの診断は、症状の聴取・身体診察・画像検査など総合的な判断のもと、医師が行います。自己判断で決めることはできませんので、気になる症状がある場合は消化器内科・内科への受診をご検討ください。
食道ヘルニアの対処法・治療法
生活習慣の見直しでできること
食後すぐに横にならない、腹圧のかかる動作を避ける、体重をコントロールするといった生活習慣の改善が、症状緩和の基本となります。
薬物療法で行うこと
逆流性食道炎を伴う場合には、胃酸の分泌を抑える薬(プロトンポンプ阻害薬:PPI)が処方されることがあります。PPI(プロトンポンプ阻害薬)について詳しくはこちらもご参照ください。薬の種類や用量は症状・検査結果をもとに医師が判断します。
手術が検討されるのはどんな場合か
薬物療法や生活習慣の改善でも症状が改善しない重症例、または胃がかなりの範囲で胸腔内に入り込んでいるような場合は、外科的治療(腹腔鏡手術など)が検討されることがあります。手術の適応は専門医が総合的に判断します。
日常生活で気をつけたいこと
食事の工夫
一度に大量に食べると胃が膨らみ腹圧が上がるため、腹八分目を意識した量と、脂っこい食事・刺激物を控えることが症状悪化予防に役立ちます。
姿勢・就寝時の工夫
食後すぐに横にならないこと、就寝時は上半身を少し起こす(枕やリクライニングの活用)ことで、夜間の逆流症状を軽減できます。
体重管理と腹圧コントロール
適正体重の維持、腹筋を過度に鍛えるような運動を見直す、重い物を持ち上げる際に腹圧をかけすぎないなど、腹圧コントロールが予防のポイントです。
⚠ 注意が必要な症状(医療機関の受診をご検討ください)
- 胸やけ・呑酸が2週間以上続く、市販薬で改善しない
- 体重が急激に減っている
- 飲み込みにくい・つかえる感じが続く
- 黒い便・血便が出る
- 長引く咳・声のかすれがある
食道ヘルニアと逆流性食道炎・バレット食道の関係
逆流性食道炎を起こしやすい理由
胃の一部が胸腔側に上がっていると、下部食道括約筋の機能が低下しやすく、胃酸が食道へ逆流しやすくなります。これが繰り返されると食道の粘膜に炎症が起こり、逆流性食道炎へと進行します。
バレット食道について
長期間の逆流により食道粘膜が胃の粘膜に似た性質に変化した状態を「バレット食道」と呼びます。バレット食道は食道腺がんのリスク因子の一つとされています。
定期的な検査の大切さ
食道ヘルニアがあり逆流症状が長く続いている方は、定期的な胃カメラでの経過観察が推奨されます。早期発見・早期対応により、重症化や合併症のリスクを抑えられます。
よくある質問(FAQ)
食道ヘルニアは自然に治りますか?
一度生じた食道裂孔ヘルニアが、自然に元に戻ることは基本的にありません。ただし、生活習慣の改善や薬物療法により症状をコントロールすることは可能です。
症状がない場合でも治療は必要ですか?
無症状で大きな合併症がなければ、すぐに治療が必要とは限りません。ただし、将来的な逆流症状や合併症のリスクを考慮し、定期的な経過観察は有用です。
食道ヘルニアはがんと関係がありますか?
食道ヘルニアそのものが直接がんになるわけではありません。ただし、長期間の逆流性食道炎からバレット食道を経て食道腺がんのリスクが上昇するとされています。逆流症状が続く場合は、定期的な内視鏡検査で経過を観察することが重要です。
何科を受診すればよいですか?
消化器内科または内科への受診をお勧めします。胸やけ・呑酸・つかえ感といった症状がある場合は、まず内科・消化器内科にご相談ください。
まとめ
食道ヘルニア(食道裂孔ヘルニア)は、胃の一部が横隔膜の上にはみ出す状態で、胸やけ・呑酸・つかえ感などの逆流症状を起こしやすい病気です。加齢・腹圧・姿勢・体質などが複合的に関与し、多くの場合、生活習慣の見直しと薬物療法で症状をコントロールできます。気になる症状が続く場合は、無理に我慢せず、消化器内科・内科へご相談ください。
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本記事の監修医師
佐藤 靖郎(さとう やすお)
医師(医学博士)/AIプラスクリニックたまプラーザ 監修医
専門:消化器・内科(消化器外科/内視鏡/一般内科)
略歴:
1988年 福島県立医科大学医学部卒業、医師免許取得。1997年 同大学大学院修了、博士号取得。国立国際医療研究センター、東京新宿メディカルセンター、NTT東日本関東病院、横浜市立大学関連病院、国立病院機構横浜医療センター外科医長・救命救急センター副部長、済生会若草病院(横浜市)外科部長・内視鏡センター・診療部長を歴任。丸亀医療センター・佐々木病院副理事長、日立おおみか病院理事を経て現在に至る。
公的役割:
厚生労働省「地域連携クリティカルパスモデルの開発」班研究員、全国保健所長会 地域連携パス推進班アドバイザー、神奈川県がん診療連携協議会 地域連携クリティカルパス部会 相談役。
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