認知症にならないためにとは?原因・症状・対処を内科医が解説
「最近、物忘れが気になる」「親が認知症になったので自分も心配」――そのような思いを抱える方に向けて、認知症の原因・症状・リスク要因、そして今日から取り組める予防策を内科医の視点でわかりやすく解説します。認知症を完全に防ぐ方法は現時点では存在しませんが、生活習慣の改善によってリスクを下げることができると、複数の研究やガイドラインで示されています。まずは正しい知識を持つことが大切です。
認知症にならないために知っておきたいこと
認知症は「ならない」と言い切れる病気ではない
認知症は年齢や遺伝的素因など、個人では変えられない要因も関与しているため、「絶対に防ぐことができる」とは言い切れません。しかし、厚生労働省や国際的な研究機関の報告によれば、生活習慣に関連するリスク要因を改善することで、発症リスクを一定程度下げる可能性があるとされています。
早めの予防が大切な理由
認知症の病変(とくにアルツハイマー型)は、症状が現れる10〜20年前から脳内で進行していると考えられています。そのため、症状が出てから対策するのではなく、40〜50代のうちから生活習慣を整えておくことが、長期的な脳の健康につながります。
認知症とは何か
認知症で起こる主な症状
認知症とは、脳の細胞が何らかの原因で障害を受け、記憶・判断・言語・行動などの認知機能が持続的に低下し、日常生活に支障をきたす状態を指します。主な症状には以下のものがあります。
- 記憶障害:最近の出来事を忘れる、同じことを何度も話す
- 見当識障害:日付・場所・人の名前がわからなくなる
- 実行機能の低下:段取りが立てられない、計画的な行動が困難になる
- 言語障害:言葉が出てこない、会話のかみ合いが悪くなる
- 行動・心理症状(BPSD):興奮、徘徊、幻覚、うつ状態など
加齢によるもの忘れとの違い
加齢に伴う「もの忘れ」は、ヒントをもらえば思い出せることが多く、日常生活への影響は軽微です。一方、認知症では体験そのものを忘れる(食事をしたこと自体がわからない)、忘れたことの自覚がない、生活全般に支障が出るといった特徴があります。
受診のきっかけになりやすいサイン
- 同じ質問・話を短時間に繰り返す
- 財布や大切なものを「盗まれた」と思い込む
- 料理の手順が突然わからなくなる
- 外出先で帰り道がわからなくなる
認知症の主な原因と種類
アルツハイマー型認知症
最も多い認知症で、全体の約60〜70%を占めます。アミロイドβやタウたんぱくと呼ばれる異常なたんぱく質が脳に蓄積し、神経細胞が徐々に失われることで発症します。記憶障害から始まることが多く、ゆっくりと進行するのが特徴です。
脳血管性認知症
脳梗塞や脳出血などの脳血管障害によって引き起こされます。血管リスクを管理することが、発症・進行の予防につながります。症状が階段状に悪化する傾向があります。
レビー小体型認知症
αシヌクレインという異常たんぱくが神経細胞に蓄積することで発症します。幻視(実際にはいないものが見える)、パーキンソン症状(手の震え・歩行困難)、睡眠中の異常行動などが特徴です。
前頭側頭型認知症
前頭葉・側頭葉が萎縮する認知症で、記憶よりも先に性格変化や行動の異常(万引きなど反社会的行為、同じ行動の繰り返し)が現れることが特徴です。比較的若い年齢で発症することもあります。
認知症のリスクを高める要因
年齢・遺伝・家族歴
加齢は最大のリスク要因です。また、APOE ε4遺伝子などの遺伝因子が関与することも知られていますが、遺伝子を持っているからといって必ず発症するわけではありません。
高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病
中年期の高血圧、糖尿病、脂質異常症はいずれも認知症リスクを高める要因として知られています。これらは適切な治療と管理によってコントロール可能です。
喫煙・過度の飲酒
喫煙は脳血管を傷め、認知症リスクを高めます。過度の飲酒はアルコール性の脳萎縮につながるため、いずれも注意が必要です。
運動不足・肥満・睡眠不足
身体活動の不足や肥満は、生活習慣病を通じて間接的に認知症リスクに関わります。また、睡眠中には脳内の老廃物(アミロイドβなど)が排出される仕組みがあり、慢性的な睡眠不足はその排出を妨げる可能性があります。
難聴や社会的孤立
中年期からの難聴は、認知症の修正可能なリスク要因のひとつとして、Lancet委員会の報告でも注目されています。聞こえにくさを放置せず、必要であれば補聴器の使用を検討することが勧められます。社会的孤立もリスクを高める要因です。
頭部外傷やうつ病との関連
過去の頭部外傷や、中高年以降のうつ病も認知症との関連が報告されています。うつ症状が続く場合は適切な治療を受けることが重要です。
認知症にならないために今日からできる予防策
バランスのよい食事を心がける
地中海食(野菜・魚・オリーブオイル中心)やMIND食(地中海食に葉物野菜・ベリー類を加えたもの)が認知機能の維持と関連するという研究報告があります。塩分・脂質の過剰摂取を控え、野菜・魚・豆類を意識的に取り入れましょう。
週に合った運動を継続する
有酸素運動(ウォーキング・水泳など)が認知症予防に有効との報告が複数あります。厚生労働省の身体活動ガイドラインでは、成人に対して1日60分程度の身体活動が推奨されています。無理なく継続できる運動習慣を見つけることが大切です。
血圧・血糖・脂質を管理する
定期的な健康診断を受け、異常を指摘された場合は放置せずに医療機関で相談しましょう。生活習慣病の早期管理が、脳血管の保護にもつながります。
禁煙し、飲酒は適量を意識する
禁煙はいつ始めても遅くはありません。飲酒は「純アルコール量として1日20g程度まで」を目安に(厚生労働省「健康日本21」参照)、節度ある飲み方を心がけましょう。
睡眠の質を整える
7〜8時間程度の睡眠を確保し、就寝前のスマートフォン使用や過剰なカフェイン摂取を避けましょう。睡眠時無呼吸症候群がある場合は、治療によって睡眠の質が改善します。
人との交流や趣味を保つ
社会的なつながりを維持することは、脳への良い刺激になります。趣味の活動、地域のコミュニティへの参加、家族・友人との会話などを大切にしましょう。
脳を使う習慣をつくる
読書・日記・楽器演奏・語学学習など、考える習慣は脳への適度な刺激となります。特定の「脳トレ」に限らず、日常の中で脳を使う機会を増やすことが重要です。
年齢別に意識したい予防のポイント
40代・50代で始めたい生活習慣の見直し
中年期は生活習慣病が発症しやすい時期です。高血圧・糖尿病・脂質異常症の早期発見と管理、禁煙、適度な運動習慣の定着を意識しましょう。この時期からの取り組みが、20〜30年後の脳の健康に影響します。
60代以降で重要になるチェック項目
聴力の変化、うつ症状、社会参加の減少に注意が必要です。定期的な健診と、かかりつけ医とのコミュニケーションを大切にしましょう。フレイル(虚弱)予防の観点からも、身体活動の維持が重要です。
介護予防も見据えた習慣づくり
認知症は介護が必要になる主な原因のひとつです。地域の介護予防プログラムや市区町村の健康増進事業を積極的に活用することも選択肢のひとつです。
認知症を早く見つけるために気をつけたいこと
家族が気づきやすい変化
本人が自覚しにくい変化として、料理の味が変わった、同じものを何度も買ってくる、約束を忘れる、以前に比べて怒りっぽくなった、などが挙げられます。
もの忘れ以外に注意したい症状
幻視(実在しないものが見える)、急激な性格変化、歩き方の変化(小刻み歩行)、睡眠中の異常な動きなど、記憶以外の症状にも注意が必要です。
受診前に確認しておきたい記録のポイント
- いつ頃から、どのような症状があるか
- 症状の頻度・進行のスピード
- 内服中の薬・持病の有無
- 生活上の困りごとの具体例
これらをメモしておくと、医師への説明がスムーズです。
何科を受診すべきか
まずは内科で相談できるケース
軽度のもの忘れや初期の変化が気になる場合は、まずかかりつけの内科・総合内科への相談から始めることができます。認知機能のスクリーニング検査(MMSE・HDS-Rなど)は内科でも実施可能です。
神経内科・脳神経外科・精神科を受診する目安
症状が進んでいる場合、幻視・パーキンソン症状がある場合、頭部画像検査が必要と判断された場合には、神経内科・脳神経外科・精神科・もの忘れ外来への紹介を検討します。
緊急受診を考えるべき症状
突然の記憶喪失、意識の変動、言語障害、麻痺などの神経症状が急激に現れた場合は、脳卒中など緊急の病態の可能性があるため、速やかに救急受診してください。
認知症の予防と受診で大切なこと
生活改善だけで不安が続く場合の考え方
生活習慣を改善しても不安や症状が続く場合は、自己判断せず医療機関に相談することをお勧めします。早めの相談が、適切な対応の第一歩となります。
診断は医師の評価が必要であること
認知症の診断は、問診・認知機能検査・血液検査・画像検査などを組み合わせて医師が総合的に判断します。インターネットの情報だけで自己判断することは危険です。気になる症状がある場合は、専門家への相談が重要です。
地域の医療機関や健診の活用
定期的な健診の受診、地域包括支援センターへの相談、認知症初期集中支援チームの活用など、地域の医療・福祉資源を積極的に利用しましょう。
よくある質問(FAQ)
認知症は何歳から気をつければよいですか
認知症の予防は40〜50代から意識することが理想的とされています。脳内の変化は症状が出るより数十年前から始まる可能性があるため、若い世代からの生活習慣管理が長期的な予防につながります。
認知症予防にサプリメントは役立ちますか
現時点では、特定のサプリメントが認知症を予防するという十分な科学的根拠は確立されていません。まずはバランスのよい食事・適度な運動・生活習慣病の管理を優先することが、エビデンスに基づいた予防策です。
物忘れが増えたら認知症と考えるべきですか
物忘れには加齢による良性のものから認知症まで幅広い原因があります。「ヒントをもらえば思い出せる」「日常生活に大きな支障がない」場合は加齢変化の可能性もありますが、進行している・日常生活に影響が出ているなど気になる点があれば、医師に相談することをお勧めします。
家族に認知症の人がいると発症しやすいですか
家族歴が認知症リスクに関与することは研究で示されていますが、家族に認知症の人がいるからといって必ず発症するわけではありません。リスクがある方こそ、早めの生活習慣改善と定期的な健診が重要です。
認知症を完全に防ぐ方法はありますか
現時点では、認知症を100%防ぐ方法は存在しません。しかし、Lancet委員会の2024年報告では、14の修正可能なリスク要因(高血圧・糖尿病・難聴・社会的孤立など)への対応によって、認知症の約45%が予防・遅延できる可能性があるとされています。できることから取り組むことが大切です。
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本記事の監修医師
佐藤 靖郎(さとう やすお)
医師(医学博士)/AIプラスクリニックたまプラーザ 監修医
専門:消化器・内科(消化器外科/内視鏡/一般内科)
略歴:
1988年 福島県立医科大学医学部卒業、医師免許取得。1997年 同大学大学院修了、博士号取得。国立国際医療研究センター、東京新宿メディカルセンター、NTT東日本関東病院、横浜市立大学関連病院、国立病院機構横浜医療センター外科医長・救命救急センター副部長、済生会若草病院(横浜市)外科部長・内視鏡センター・診療部長を歴任。丸亀医療センター・佐々木病院副理事長、日立おおみか病院理事を経て現在に至る。
公的役割:
厚生労働省「地域連携クリティカルパスモデルの開発」班研究員、全国保健所長会 地域連携パス推進班アドバイザー、神奈川県がん診療連携協議会 地域連携クリティカルパス部会 相談役。
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