萎縮性胃炎とは|原因・症状・治療・定期検査のポイントをわかりやすく解説
「胃カメラで萎縮性胃炎と言われたけれど、どういう状態なのだろう」「放置しても大丈夫なのか」——そのような疑問や不安をお持ちの方に向けて、萎縮性胃炎の意味・原因・症状・診断・治療・経過観察について、医学的根拠に基づいてわかりやすくご説明します。
なお、症状の有無にかかわらず、診断・治療の方針は必ず医師の診察のもとで判断されるものです。本記事はあくまで情報提供を目的としており、自己診断・自己治療を推奨するものではありません。
萎縮性胃炎とは
萎縮性胃炎とは、胃の粘膜が慢性的な炎症によって繰り返しダメージを受け、粘膜が薄くなった(萎縮した)状態を指します。「慢性胃炎」の中でも、粘膜の組織学的な変化が進んだ段階として位置づけられることが多く、内視鏡や病理検査によって確認されます。
「慢性胃炎」という言葉は症状の慢性化や持続する炎症状態を広く指すのに対し、「萎縮性胃炎」はそのなかでも胃の粘膜腺組織が失われた状態をより具体的に示す用語です。混同されやすいため、主治医に「どの段階にあるか」を確認することが大切です。
胃のしくみと萎縮が起こる仕組み
胃の内壁は粘膜で覆われており、胃酸やペプシン(消化酵素)を分泌する腺(胃腺)が多数存在しています。また、粘膜表面は粘液を分泌して胃酸から自らを守るしくみを持っています。
この粘膜に慢性的な炎症が続くと、胃腺の細胞が徐々に失われていきます。失われた部分が腸の粘膜に似た細胞(腸上皮化生)に置き換わることもあります。こうした変化が蓄積されていくのが萎縮性胃炎の基本的な病態です。
萎縮性胃炎でみられやすい変化
- 胃酸分泌の低下:胃腺が減少することで、胃酸やペプシンの分泌量が低下することがあります。
- 粘膜の菲薄化:粘膜が薄くなり、内視鏡で血管が透けて見えることがあります。
- 腸上皮化生:胃の粘膜が腸の細胞に似た組織に置き換わる変化で、内視鏡や病理検査で確認されることがあります。
主な原因
ヘリコバクター・ピロリ感染
萎縮性胃炎の最も重要な原因とされているのが、ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)感染です。ピロリ菌は胃の酸性環境でも生存できる細菌で、長期間にわたって胃粘膜に炎症を引き起こし、萎縮を進行させることが知られています(日本ヘリコバクター学会ガイドライン参照)。
感染経路は主に幼少期の経口感染と考えられており、上下水道が整備される前の時代に育った世代では感染率が高い傾向があります。除菌治療後も、すでに生じた粘膜の萎縮が完全に元の状態に戻るわけではないことがあるため、治療後も適切な経過観察が重要です。
加齢や生活習慣との関係
加齢とともに胃粘膜は変化しやすくなる傾向があります。また、喫煙・過度の飲酒・不規則な食習慣・ストレスなども胃粘膜に影響を与える可能性が指摘されています。ただし、これらが単独で萎縮性胃炎を引き起こすというよりも、ピロリ菌感染との複合的な関与が考えられています。
自己免疫性胃炎との違い
萎縮性胃炎の一部には、「自己免疫性胃炎(A型胃炎)」と呼ばれる種類があります。これは自身の免疫が胃の壁細胞を攻撃することで生じるもので、ピロリ菌が関与しない場合に鑑別が必要です。胃体部を中心とした萎縮、ビタミンB12吸収障害に伴う貧血(悪性貧血)を起こす可能性があり、一般的なピロリ菌関連の萎縮性胃炎とは病態・対応が異なります。自己免疫性胃炎が疑われる場合は、専門的な評価が必要です。
症状
よくある症状
萎縮性胃炎に特有の症状はなく、以下のような消化器系の不定愁訴として現れることがあります。
- 胃もたれ・重い感じ
- みぞおちの不快感・鈍い痛み
- 食欲低下
- げっぷ・膨満感
- 吐き気
これらの症状は機能性ディスペプシアやびらん性胃炎など他の疾患でも見られることが多く、症状だけで萎縮性胃炎と判断することはできません。
症状が出にくい場合もある
萎縮性胃炎は自覚症状がほとんどない状態で進行することもあります。健康診断の胃透視(バリウム検査)や内視鏡検査で初めて指摘されるケースも少なくありません。「症状がないから大丈夫」と判断することなく、定期的な検査を活用することが大切です。
診断方法
胃内視鏡検査でわかること
胃内視鏡(胃カメラ)は、萎縮性胃炎の診断において中心的な役割を担います。粘膜の菲薄化・発赤・血管透見像・腸上皮化生の有無などを直接確認できるほか、疑わしい部分の組織を採取して病理検査(生検)を行うことも可能です。
ピロリ菌検査
ピロリ菌の有無を調べる検査には、主に以下の方法があります。
- 呼気検査(尿素呼気試験):特殊な薬剤を飲んで呼気を採取する非侵襲的な方法
- 便中抗原検査:便にピロリ菌の抗原が含まれているか調べる
- 血液検査(抗体検査):血液中の抗体を測定する
- 内視鏡時の検査:迅速ウレアーゼ試験や培養・組織検査
これらは診断の補助として用いられ、どの検査を行うかは医師が状況に応じて判断します。
血液検査や病理検査
血液検査では貧血(鉄欠乏性貧血・ビタミンB12欠乏性貧血)や、栄養状態の変化を確認することができます。自己免疫性胃炎が疑われる場合には、抗壁細胞抗体や内因子抗体の測定が行われることもあります。内視鏡時に採取した組織の病理検査では、萎縮の程度や腸上皮化生の有無、異型細胞の有無などを詳しく評価します。
治療・対応
ピロリ菌陽性の場合の除菌治療
ピロリ菌への感染が確認された場合、医師の判断のもとで除菌治療が検討されます。除菌治療は一般的に抗菌薬と胃酸分泌抑制薬を組み合わせて一定期間服用する方法がとられます(詳細は担当医にご確認ください)。自己判断での薬の使用は避け、必ず医師に相談してください。
除菌後の経過観察
除菌が成功した後も、すでに生じた粘膜の萎縮や腸上皮化生がただちに消失するわけではないとされています。そのため、除菌後も定期的な内視鏡検査による経過観察が推奨されることがあります。どのような頻度で検査を受けるかは、年齢・萎縮の程度・他のリスク因子などを踏まえて医師と相談しながら決めていきましょう。
ピロリ菌陰性・自己免疫性胃炎の場合
ピロリ菌が陰性であっても萎縮性胃炎が認められる場合や、自己免疫性胃炎が疑われる場合は、原因に応じた専門的な評価が必要です。ビタミンB12欠乏がある場合には補充が検討されることもあります。
生活上の注意点
特定の食品を一律に禁止する必要はありませんが、症状に応じて以下の点を意識することが一助となる場合があります。
- 香辛料・酸味の強い食品・炭酸飲料などの刺激物は症状が強い時期は量を加減する
- 喫煙は胃粘膜への影響が指摘されているため、禁煙が勧められます
- 過度の飲酒は胃粘膜を刺激する可能性があります
- 規則正しい食事リズムを心がける
これらはあくまで一般的な生活上の工夫であり、治療の代替にはなりません。
放置するとどうなるか
胃がんとの関係
萎縮性胃炎、特に腸上皮化生を伴う場合は、胃がんのリスクが高まることがあるとする研究が報告されています(日本胃癌学会・日本消化器病学会のガイドラインでも言及あり)。ただし、萎縮性胃炎が必ず胃がんに進行するわけではなく、個人差が大きいことも重要です。不安を必要以上に高める必要はありませんが、適切な経過観察を続けることが大切です。スキルス性胃がんのような特殊な病型の存在も念頭に、異常を感じたら早めに受診することをお勧めします。
貧血・栄養障害との関係
胃酸の低下は鉄分の吸収に影響を与え、鉄欠乏性貧血につながる場合があります。また自己免疫性胃炎では内因子(ビタミンB12の吸収に必要なタンパク質)が失われることで、ビタミンB12欠乏性貧血(悪性貧血)や末梢神経障害が生じることがあります。
定期検査の重要性
どのくらいの間隔で確認するか
経過観察の間隔は一律ではなく、年齢・萎縮の程度・腸上皮化生の有無・ピロリ菌除菌歴・その他のリスク因子などを総合的に考慮して決められます。一般的には1〜3年に1回程度の内視鏡検査が推奨される場合もありますが、具体的な間隔は主治医にご相談ください。
経過観察で見るポイント
- 自覚症状の変化(新たな症状の出現、体重減少など)
- 内視鏡所見(萎縮の範囲・程度・新たな病変の有無)
- 病理検査(腸上皮化生の程度・異型の有無)
- 血液検査(貧血・栄養状態)
受診の目安
早めに受診したい症状
以下のような症状がある場合は、早めに消化器内科・胃腸内科を受診することをお勧めします。
- 黒色便(タール便)や血便
- 食事がほとんどとれない、または飲み込みにくい
- 急激な体重減少
- 繰り返す嘔吐
- 貧血の症状(立ちくらみ・強い倦怠感)
- みぞおちの強い痛みが続く
また、逆流性胃炎のような逆流症状が重なる場合も、早めに専門医に相談されることをお勧めします。
健診で異常を指摘された場合
胃透視(バリウム検査)や健診の内視鏡で「萎縮性胃炎の疑い」などと記載があった場合は、消化器内科で精密検査(胃内視鏡検査・ピロリ菌検査)を受けることを検討してください。「経過観察でよい」と言われた場合でも、次回検査の時期や受診のタイミングについて医師に確認しておくことが大切です。
よくある質問
萎縮性胃炎は治りますか?
萎縮性胃炎によって生じた粘膜の萎縮や腸上皮化生は、ピロリ菌を除菌しても完全に元に戻ることは難しい場合があるとされています。ただし、除菌によって炎症の進行が抑制されることが期待されます。「治る・治らない」というよりも、「進行を抑えながら定期的に経過を見ていく」という考え方が適切です。詳しくは担当医にご相談ください。
ピロリ菌を除菌すれば安心ですか?
除菌はリスクの低減に役立つとされていますが、除菌後も萎縮や腸上皮化生が残ることがあるため、定期的な内視鏡検査は引き続き推奨される場合があります。「除菌したので完全に安心」とは言い切れない部分があるため、医師の指示に従って経過観察を続けることが重要です。
食事で気をつけることはありますか?
塩分の多い食事・喫煙・過度の飲酒は胃粘膜に悪影響を与える可能性が指摘されています。一方で、特定の食品をすべて禁止する必要はなく、症状に応じて刺激物の量を調整する程度の工夫が現実的です。食事の内容や量については、担当医や管理栄養士にご相談ください。
サプリメントや市販薬で対応できますか?
市販の胃薬で一時的に症状が和らぐことはあっても、萎縮性胃炎の原因治療にはなりません。ピロリ菌感染や自己免疫性胃炎など、原因の確認と適切な医療的対応が優先されます。自己判断での長期的な市販薬の使用は、症状の変化を見えにくくする場合があるため、まず医師に相談されることをお勧めします。
胃カメラは毎回必要ですか?
経過観察の方法は個別に判断されます。症状・これまでの内視鏡所見・萎縮の程度・ピロリ菌の治療歴・年齢・その他のリスク因子によって、次回検査の時期や必要性が異なります。「毎年必ず必要」とも「不要」とも一概には言えないため、担当医と相談しながら計画を立てることが大切です。
まとめ
萎縮性胃炎は、慢性的な炎症によって胃の粘膜が薄くなった状態であり、最大の原因はヘリコバクター・ピロリ感染です。自覚症状が乏しいことも多く、内視鏡検査によって初めて発見されるケースも少なくありません。ピロリ菌が確認された場合には除菌治療が検討されますが、除菌後も定期的な内視鏡での経過観察が推奨される場合があります。自己免疫性胃炎など原因が異なる場合は、それぞれに応じた専門的な評価が必要です。「症状がないから大丈夫」と放置せず、適切な頻度で医師の管理のもとで経過を確認することが、長期的な健康管理において重要なポイントです。
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本記事の監修医師
佐藤 靖郎(さとう やすお)
医師(医学博士)/AIプラスクリニックたまプラーザ 理事長
専門:消化器外科
福島県立医科大学大学院 外科学修了。NTT東日本関東病院や国立病院機構横浜医療センター等で外科医長・救命救急センター副部長を歴任。厚生労働省の地域連携クリティカルパスモデル開発の班研究員、神奈川県がん診療連携協議会相談役などを務める。
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