「食後になると腹痛が起きる」「何を食べたらよいかわからない」──過敏性腸症候群(IBS)をお持ちの方から、こうした声をよくお聞きします。
IBSでは、食べ物の種類・量・食べ方が症状に関係することがあります。ただし、「これだけ食べれば改善する」という万能な食品は存在せず、個人差が非常に大きいことが特徴です。本記事では、一般的に比較的取り入れやすい食べ物や、控えめにしたほうがよいとされる食品を整理し、自己判断だけに頼りすぎない食事の基本的な考え方をご紹介します。
なお、症状の診断や具体的な食事指導は、必ず医師の診察を前提としてください。過敏性腸症候群については、別途詳しい解説もご参照ください。
IBSは、腸の動きや知覚が過敏になることで、腹痛・腹部不快感・下痢・便秘・腹部膨満感などが繰り返し起こる病態です。大腸内視鏡検査などで構造的な異常が見つからないにもかかわらず、症状が続くことが特徴です。
日本消化器病学会のガイドラインでは、IBSは「脳腸相関」が深くかかわる疾患として位置づけられており、ストレスや生活習慣、食事の影響を受けやすいとされています。
IBSは便の状態によって主に4つに分類されます。
食べ物の選び方はタイプによって異なるため、自分の症状パターンを把握しておくことが大切です。
IBSでは、「何を食べるか」だけでなく「どう食べるか」も重要です。早食いや食べ過ぎ、長時間の空腹、脂っこい食事、アルコールなどが症状に関係することがあります。ゆっくりよく噛んで食べること、一度の食事量を適度にとどめることが、症状の軽減につながることがあります。
食べたもの・食事の時間・症状(腹痛の程度、便の状態など)を記録する「食事日記」は、自分のパターンを把握するうえで役立ちます。数週間記録を続けると、特定の食品や食べ方と症状の関係が見えてくることがあります。記録をもとに医師や管理栄養士に相談すると、より的確なアドバイスが得られやすくなります。
以下は、消化への負担が比較的少ないとされる食材の例です。あくまで一般的な目安であり、個人差があることをご理解ください。
消化しやすい主食として、白米・おかゆ・うどん・食パン(耳なし)などが挙げられます。玄米や全粒粉パンは食物繊維が豊富ですが、便通タイプによっては腹部膨満感につながることもあるため、体調に合わせて量を調整することが大切です。
脂質が少なく消化しやすいたんぱく質として、豆腐・卵・白身魚・鶏むね肉(皮なし)などが一般的に取り入れやすいとされています。調理法は、蒸す・煮る・茹でるなど油を多く使わない方法が望ましいです。
生野菜は食物繊維が豊富な一方、腸への刺激となることがあります。煮る・蒸す・スープにするなど、加熱してやわらかくした野菜から少量ずつ試すことで、消化への負担を抑えやすくなります。
果物は種類によって含まれる糖質(フルクトースなど)の量が異なり、人によって腹部症状を起こしやすいものがあります。バナナや熟したりんご(少量)は比較的試しやすいとされていますが、症状を確認しながら少量ずつ取り入れることが大切です。
こまめな水分補給は腸の動きを整えるうえで重要です。水や麦茶など刺激の少ない飲み物が基本です。冷たすぎる飲み物は腸を急激に刺激することがあるため、常温か温かいものが望ましい場合があります。カフェイン含有飲料(コーヒー・紅茶・エナジードリンクなど)は、下痢を誘発しやすい方は量を控えることを検討してください。
脂っこい食事・香辛料・アルコール・冷たい飲み物などを控え、消化のよいものを少量ずつ食べる工夫が大切です。温かいスープや白米など、胃腸への刺激が少ない食品が比較的向いているとされます。
水溶性食物繊維(オートミール、海藻、熟した果物など)と十分な水分を意識することが、便を柔らかくするうえで役立ちます。不溶性食物繊維(ごぼう・こんにゃくなど)は過剰に摂りすぎると腹部膨満感につながることがあるため、バランスを意識してください。
ガスが増えやすい食品(豆類・炭酸飲料・キャベツ・玉ねぎなど)や、食べるスピードが速すぎることが原因になる場合があります。ゆっくり食べること、一度の食事量を控えめにすることも見直す価値があります。
揚げ物・こってりした料理・バターや生クリームを多用した食事は、腸の蠕動(ぜんどう)運動を刺激し、下痢を誘発しやすい方もいます。
唐辛子・コショウ・からしなど刺激の強い調味料は、腸粘膜を刺激することがあるとされています。症状に応じて使用量を調整してください。
コーヒーや紅茶に含まれるカフェインは腸の蠕動を促進するため、下痢型の方では症状を悪化させる可能性があります。アルコールも腸への刺激になり得るため、摂取量に注意が必要です。
牛乳・豆類・玉ねぎ・小麦製品・りんご・はちみつなどは、後述する「低FODMAP食」の視点でも注目される食品です。ただし、これらを一律に除外する必要はなく、個人差を前提に症状と照らし合わせながら判断することが重要です。過敏性腸症候群と食べ物の関係については、さらに詳しい解説も参考になります。
低FODMAP食は、腸内で発酵しやすい特定の糖質(発酵性オリゴ糖・二糖類・単糖類・ポリオール)を一時的に制限し、症状の改善を試みる食事アプローチです。海外の研究ではIBSへの有効性を示す報告があり、近年注目されています。
低FODMAP食は制限する食品が多岐にわたるため、自己流で長期間厳格に続けると栄養不足や食生活の著しい偏りにつながる可能性があります。実施する場合は、医師や管理栄養士の指導のもとで段階的に行うことが望ましいとされています。
食事の間隔が不規則になると腸のリズムが乱れやすくなります。毎日なるべく決まった時間に食事をとることで、腸の動きを安定させる助けになることがあります。
IBSは「脳腸相関」が深く関わるとされており、ストレスや不安が腸の過敏性を高めることがあります。十分な睡眠・適度な運動・リラクゼーションなど、心身のバランスを整える生活習慣が、腸活につながる場合があります。腸活に役立つ食べ物の情報もあわせてご参照ください。
子どもは成長に必要な栄養素を確保しながら食事を調整する必要があります。自己判断で食品を大きく制限すると、エネルギー不足や特定の栄養素の不足につながるおそれがあります。体重の増加が鈍い、学校生活に支障が出ている、症状が長期間続くなどの場合は、小児科または消化器科を受診することをお勧めします。
食べ物を固定しすぎると栄養が偏る可能性があります。体調を見ながら少しずつ取り入れる食品を広げていく柔軟な姿勢が大切です。
乳酸菌・プロバイオティクスがIBSに関係するとする研究報告はありますが、効果は製品や個人差によって異なります。乳糖不耐症の傾向がある方では、ヨーグルトが腹部症状を悪化させることもあるため、少量から試し、症状が悪化するようであれば中断することも選択肢のひとつです。整腸剤の活用については過敏性腸症候群の整腸剤おすすめ情報もご参考ください。
水溶性食物繊維(オートミール・海藻・ペクチンを含む果物など)は便通を整えやすい傾向がありますが、不溶性食物繊維(ごぼう・こんにゃくなど)を過剰に摂ると、下痢型では症状が悪化したり、腹部膨満感が増したりすることがあります。自分の便通タイプを把握したうえで調整することが重要です。
脂っこさが少なく、辛すぎない料理を選ぶことが基本的な考え方です。うどん・そば(辛みなし)・焼き魚定食・茶碗蒸しなど、比較的シンプルな調理のメニューが選びやすいです。量を食べ過ぎないこと、食べるスピードをゆっくりにすることも意識してみてください。
サプリメントはあくまで食事の補助的な位置づけです。自己判断でのサプリのみによる症状改善には限界があり、過剰摂取のリスクもあります。必要性については医師や管理栄養士にご相談ください。
以下のような症状が見られる場合は、IBSとは別の疾患(大腸癌・炎症性腸疾患など)の可能性も否定できないため、速やかに消化器科を受診することをお勧めします。
- 血便・粘血便
- 体重の著明な減少
- 発熱を伴う腹痛
- 夜間に症状で目が覚める
- 貧血の症状(めまい・倦怠感など)
- 症状が急速に悪化している
食事の見直しを数週間続けても腹痛・下痢・便秘などで日常生活に支障が出ている場合は、消化器内科・消化器外科にご相談ください。生活習慣の改善に加えて、薬物療法や専門的な食事指導が症状の安定に役立つ場合があります。
IBSに「おすすめの食べ物」はありますが、それ単独で症状がすべて解決するわけではありません。食べる内容・食べ方・生活リズム・ストレス管理を組み合わせて、自分に合ったバランスを少しずつ見つけていくことが大切です。
また、症状が長引く場合や生活への支障が続く場合は、自己判断のみで対処するのではなく、専門医への相談を検討されることをお勧めします。
佐藤 靖郎(さとう やすお)
医師(医学博士)/AIプラスクリニックたまプラーザ 理事長
専門:消化器外科
福島県立医科大学大学院 外科学修了。NTT東日本関東病院や国立病院機構横浜医療センター等で外科医長・救命救急センター副部長を歴任。厚生労働省の地域連携クリティカルパスモデル開発の班研究員、神奈川県がん診療連携協議会相談役などを務める。
腹部症状や腸の不調でお悩みの方、「IBSかもしれない」とご心配な方は、消化器外科専門医にお気軽にご相談ください。受診にあたっての詳細は診療案内・受診のご案内をご覧ください。
- Web予約:https://ai-tamaplaza.reserve.ne.jp/sp/index.php
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