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胃潰瘍の症状を医学博士が徹底解説|腹痛・吐血から無症状まで完全ガイド

胃潰瘍の症状を医学博士が徹底解説|腹痛・吐血から無症状まで完全ガイド

著者: 医学博士  佐藤靖郎

福島県立医科大学大学院医学博士、臨床経験30年以上、がん診療連携パスの第一人者

最終更新日: 2026年1月28日

はじめに

「みぞおちが痛い」「空腹時に胃が痛む」「黒い便が出た」――このような症状でお悩みではありませんか?

胃潰瘍(Gastric Ulcer)は、胃の粘膜が深く傷つき、筋層にまで達する潰瘍(えぐれた傷)ができる疾患です。消化性潰瘍の一つで、十二指腸潰瘍とともに非常に多くの方が罹患しています。

📊 胃潰瘍の実態データ

  • 有病率: 日本人の生涯罹患率 約10%(約1,000万人が経験)
  • 年間発症者: 約50~100万人
  • 男女比: 男性が女性の約2~3倍
  • 発症年齢: 40~60代に多い(近年は高齢化傾向)
  • 主要原因: ピロリ菌感染(約70~80%)、NSAIDs(約10~20%)
  • 合併症発生率: 出血 15~20%、穿孔 2~5%
  • 再発率: ピロリ菌除菌なしで約50~70%/年

医学博士として30年以上の臨床経験を持つ私が、胃潰瘍の典型的症状、合併症の危険サイン、ピロリ菌との関係、最新の診断・治療法まで、エビデンスに基づいて徹底解説します。

胃潰瘍とは?

定義

胃潰瘍は、胃の粘膜に生じる深い傷(潰瘍)で、粘膜下層から筋層にまで達する欠損を指します。

🔍 胃壁の構造

胃壁は内側から外側に向かって以下の層で構成されています:

  1. 粘膜層(最も内側)
    • 胃酸や粘液を分泌
    • びらん:粘膜層のみの浅い傷
  2. 粘膜下層
  3. 筋層
    • 潰瘍:粘膜下層~筋層に達する深い傷
  4. 漿膜層(最も外側)

※ 潰瘍が筋層を貫通し、漿膜まで達すると穿孔(せんこう)という重篤な合併症になります

胃潰瘍と十二指腸潰瘍の違い

項目 胃潰瘍 十二指腸潰瘍
発生部位 胃(特に胃角部・前庭部) 十二指腸球部
好発年齢 40~60代 20~40代
痛みの時期 食後30分~2時間 空腹時、夜間
食事の影響 食後に悪化 食事で改善
男女比 男性 2~3:女性 1 男性 3~4:女性 1
悪性化 稀にあり(胃がん) ほぼなし

胃潰瘍の分類

Sakita分類(活動期分類)

内視鏡所見による潰瘍の活動性・治癒段階の分類:

ステージ 所見 特徴
A1(活動期) 潰瘍底に壊死物質付着 急性期、出血リスク高
A2(活動期) 壊死物質減少、白苔形成 活動期、炎症強い
H1(治癒期) 潰瘍底が清浄化 治癒開始
H2(治癒期) 潰瘍縮小、赤色瘢痕 治癒進行中
S1(瘢痕期) 白色瘢痕、周囲粘膜集中 治癒完了
S2(瘢痕期) 瘢痕が平坦化 完全治癒

胃潰瘍の原因

胃潰瘍は、胃粘膜の「攻撃因子」と「防御因子」のバランス崩壊によって発症します。

⚖️ 攻撃因子 vs 防御因子

攻撃因子(胃粘膜を傷つける)

  • 胃酸(塩酸)
  • ペプシン(消化酵素)
  • ピロリ菌
  • NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)
  • ストレス

防御因子(胃粘膜を守る)

  • 粘液(ムチン)
  • 重炭酸イオン(胃酸を中和)
  • 粘膜血流
  • プロスタグランジン

攻撃因子 > 防御因子 の状態が続くと潰瘍が形成される

主要原因

1. ヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobacter pylori)感染

  • 原因の70~80%を占める
  • 作用機序:
    • ピロリ菌が胃粘膜に感染→慢性炎症→粘膜の防御機能低下
    • ウレアーゼ産生→アンモニア生成→粘膜障害
    • 胃酸分泌の増加
  • 感染率: 日本人の40代以上で約50~70%(若年層は低下傾向)
  • 除菌の重要性: 除菌により再発率が約90%減少

2. NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)

  • 原因の10~20%を占める
  • 代表的な薬剤: アスピリン、イブプロフェン、ロキソプロフェン(ロキソニン)、インドメタシンなど
  • 作用機序: プロスタグランジン合成阻害→胃粘膜の防御機能低下→潰瘍形成
  • リスク因子:
    • 長期使用(特に高齢者)
    • 高用量
    • ピロリ菌感染との併存
    • 抗凝固薬(ワーファリンなど)との併用

3. ストレス

  • 急性ストレス潰瘍: 重症疾患(熱傷、頭部外傷、敗血症など)、手術後
  • 慢性ストレス: 精神的ストレスが持続→胃酸分泌増加、粘膜血流低下
  • 関連記事: ストレスと胃痛の関係

4. その他の要因

  • 喫煙: 粘膜血流低下、治癒遅延、再発率上昇
  • 過度な飲酒: 胃粘膜刺激、胃酸分泌増加
  • 不規則な食生活: 過食、早食い、刺激物
  • 遺伝的要因: 家族歴がある人はリスク増加
  • 血液型O型: 胃潰瘍のリスクが約1.3倍(統計的関連)

リスク因子

リスク因子 リスク増加
ピロリ菌感染 約3~6倍
NSAIDs長期使用 約4~5倍
喫煙 約2倍
過度な飲酒 約1.5~2倍
高齢(65歳以上) リスク増加
家族歴 約2~3倍

胃潰瘍の症状

典型的症状

1. 心窩部痛(上腹部痛)

胃潰瘍の最も代表的な症状

  • 場所: みぞおち(心窩部)の痛み
  • 性質:
    • 鈍痛、キリキリする、重苦しい
    • ズキズキする、差し込むような痛み
  • 出現時期: 食後30分~2時間に多い(胃潰瘍の特徴)
    • 食事が胃に入る→胃酸分泌増加→潰瘍部を刺激→痛み
  • 持続時間: 数十分~数時間
  • 頻度: 胃潰瘍患者の約60~70%に出現

2. 腹部不快感・膨満感

3. 悪心・嘔吐

  • 吐き気、嘔吐
  • 食欲不振

4. 胸やけ・呑酸

  • 胃酸が食道に逆流する症状
  • 胃潰瘍と逆流性食道炎が合併することもある
  • 関連記事: 逆流性食道炎の症状

5. 体重減少

  • 食後の痛みを恐れて食事量が減少
  • 食欲不振

⚠️ 重要:無症状の胃潰瘍

胃潰瘍患者の約20~30%症状がない(無症候性潰瘍)ことがあります。特に以下の場合に多い:

  • 高齢者(痛覚が鈍くなる)
  • NSAIDs服用者(痛みを感じにくい)
  • 糖尿病患者(神経障害)

→ 症状がなくても、突然の合併症(出血、穿孔)で発見されることがあり、注意が必要です

症状の経過

  • 急性期: 激しい痛み、悪心・嘔吐
  • 慢性期: 症状が軽くなったり悪化したりを繰り返す
  • 季節性: 春・秋に悪化しやすい(季節変化、ストレス)

胃潰瘍の合併症

胃潰瘍の合併症は生命に関わることがあり、早期発見・治療が極めて重要です。

1. 出血(消化管出血)

胃潰瘍の最も頻度の高い合併症(約15~20%)

症状

  • 吐血(とけつ):
    • 鮮紅色の血(大量出血、動脈性)
    • コーヒー残渣様(黒褐色の血、胃酸で変色)
  • 黒色便(タール便、下血):
    • 便が真っ黒でタール状(血液が消化された)
    • 悪臭を伴う
  • 貧血症状: めまい、ふらつき、動悸、息切れ、顔色不良
  • ショック: 血圧低下、頻脈、冷や汗(大量出血時)

対応

  • 🚨 吐血・黒色便があれば、すぐに救急車を呼ぶ
  • 緊急内視鏡検査で止血術(クリッピング、焼灼術など)
  • 輸血、輸液

2. 穿孔(せんこう、Perforation)

潰瘍が胃壁を貫通し、胃の内容物が腹腔に漏れ出る重篤な合併症(約2~5%)

症状

  • 激しい腹痛: 突然の、耐え難い上腹部痛
  • 腹膜刺激症状: 腹部全体が板のように硬くなる(板状硬)
  • 発熱
  • ショック: 血圧低下、頻脈、冷や汗

対応

  • 🚨 医療機関へ緊急搬送
  • 緊急手術(穿孔部の縫合閉鎖、胃切除術など)
  • 抗生物質投与

3. 幽門狭窄(ゆうもんきょうさく)

潰瘍の瘢痕化により、胃の出口(幽門)が狭くなる合併症

症状

  • 嘔吐: 食後数時間経ってから、大量の食物残渣を吐く
  • 腹部膨満感
  • 体重減少

対応

  • 内視鏡的バルーン拡張術
  • 手術(幽門形成術、胃切除術)

4. 悪性化(胃がん)

  • 胃潰瘍の約1~5%は実は胃がんが潰瘍を形成している
  • 特に50歳以上、長期に治癒しない潰瘍は要注意
  • 必ず生検(組織検査)で悪性を除外

🚨 緊急受診が必要な危険サイン

  • 吐血(赤い血、コーヒー残渣様)
  • 黒色便(タール便)
  • 激しい腹痛(突然の、耐え難い痛み)
  • 腹部の硬直(板状硬)
  • ショック症状(血圧低下、冷や汗、意識障害)
  • めまい、ふらつき(貧血)

→ これらの症状がある場合は、ただちに救急車を呼び、医療機関を受診してください

胃潰瘍の診断

診断のステップ

  1. 問診・身体診察
  2. 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ) ★最も重要
  3. ピロリ菌検査
  4. その他の検査(必要に応じて)

1. 問診・身体診察

  • 症状(腹痛の部位、性質、出現時期など)
  • 既往歴、内服薬(NSAIDsなど)
  • 生活習慣(喫煙、飲酒、食事、ストレス)
  • 家族歴
  • 腹部の触診(圧痛の有無、腹膜刺激症状)

2. 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)

胃潰瘍の確定診断に必須の検査

利点

  • ✅ 潰瘍を直接観察できる
  • ✅ 潰瘍の大きさ、深さ、部位、数を評価
  • 生検(組織採取)で悪性(胃がん)を除外
  • ✅ ピロリ菌検査(迅速ウレアーゼ試験、組織診)
  • ✅ 出血潰瘍の止血術も可能

内視鏡所見

  • 形状: 円形~楕円形、辺縁が盛り上がる
  • 潰瘍底: 白苔、壊死物質、出血
  • 周囲粘膜: 発赤、浮腫

生検(組織検査)

  • 必須: すべての胃潰瘍で実施(胃がんの除外)
  • 潰瘍辺縁から複数箇所(通常4~6箇所)採取

3. ピロリ菌検査

胃潰瘍と診断されたら、必ずピロリ菌検査を実施

内視鏡検査時の検査(侵襲的)

  • 迅速ウレアーゼ試験: 生検組織を試薬に入れ、色の変化でピロリ菌を判定(15~30分)
  • 組織診(病理検査): 顕微鏡でピロリ菌を確認
  • 培養検査: 菌を培養(時間がかかる)

内視鏡を使わない検査(非侵襲的)

  • 尿素呼気試験: 特殊な薬を飲み、呼気を検査(感度・特異度が高い)
  • 便中抗原検査: 便からピロリ菌抗原を検出
  • 血液・尿中抗体検査: ピロリ菌に対する抗体を測定(過去の感染も陽性になる)

4. その他の検査

血液検査

  • 貧血: ヘモグロビン、赤血球数(出血の評価)
  • 炎症マーカー: CRP、白血球数(穿孔時に上昇)
  • 肝機能・腎機能

腹部X線検査

  • 穿孔が疑われる場合、腹腔内遊離ガスを確認

腹部CT検査

  • 穿孔、腹膜炎の評価
  • 周囲臓器への浸潤(がんの疑い)

上部消化管造影検査(バリウム検査)

  • 現在はあまり行われない(内視鏡が主流)
  • 内視鏡が困難な場合の代替

胃潰瘍の治療法

治療の基本方針

  1. 薬物療法(酸分泌抑制薬)
  2. ピロリ菌の除菌(陽性の場合)
  3. 原因薬剤の中止(NSAIDsなど)
  4. 生活習慣の改善
  5. 合併症の治療(出血、穿孔時)

1. 薬物療法

プロトンポンプ阻害薬(PPI)

第一選択薬

  • 代表的な薬剤: オメプラゾール(オメプラール)、ランソプラゾール(タケプロン)、ラベプラゾール(パリエット)、エソメプラゾール(ネキシウム)、ボノプラザン(タケキャブ)
  • 作用: 胃酸分泌を強力に抑制(約90%抑制)
  • 投与期間:
    • 通常の胃潰瘍: 6~8週間
    • 大きな潰瘍: 12週間
  • 治癒率: 約80~90%

H2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)

  • 代表的な薬剤: ファモチジン(ガスター)、ラニチジン
  • 作用: 胃酸分泌を中等度に抑制(約60~70%)
  • 適応: 軽度の潰瘍、PPIの副作用がある場合

粘膜保護薬

  • 代表的な薬剤: スクラルファート、レバミピド(ムコスタ)、テプレノン(セルベックス)
  • 作用: 胃粘膜を保護、修復促進
  • 適応: PPIとの併用

制酸薬

  • 胃酸を中和(症状緩和に有効)
  • 根本治療ではない

2. ピロリ菌の除菌療法

ピロリ菌陽性の胃潰瘍患者には必ず除菌治療を実施

除菌の重要性

  • ✅ 潰瘍の再発率を約90%減少(除菌なしで50~70%/年 → 除菌後5~10%/年)
  • ✅ 胃がんのリスク減少

除菌療法の実際

一次除菌(7日間)

  • PPI + アモキシシリン(抗生物質) + クラリスロマイシン(抗生物質)
  • 1日2回、7日間服用
  • 成功率: 約70~80%

二次除菌(一次除菌失敗時、7日間)

  • PPI + アモキシシリン + メトロニダゾール(抗生物質)
  • 1日2回、7日間服用
  • 成功率: 約90~95%

除菌判定

  • 除菌治療終了後、4週間以上経過してから判定
  • 尿素呼気試験または便中抗原検査で確認

除菌の副作用

  • 下痢、軟便(約10~20%)
  • 味覚異常、口内炎
  • 発疹(アレルギー)

3. NSAIDsの対応

  • 可能なら中止(主治医と相談)
  • 中止困難な場合:
    • PPIを併用(予防効果)
    • COX-2選択的阻害薬への変更(セレコキシブなど、胃粘膜障害が少ない)

4. 生活習慣の改善

食事

  • 避けるべき食品:
    • 刺激物(香辛料、唐辛子、カレー)
    • 酸性食品(柑橘類、トマト、酢)
    • 脂肪分の多い食事(揚げ物)
    • カフェイン(コーヒー、紅茶、緑茶)
    • アルコール
    • 炭酸飲料
  • 推奨される食事:
    • 消化の良い食品(お粥、うどん、白身魚、豆腐)
    • 規則正しい食事(1日3食)
    • ゆっくりよく噛む
    • 腹八分目
  • 関連記事: 胃に優しい食べ物

禁煙

  • 喫煙は潰瘍の治癒を遅らせ、再発率を上昇させる
  • 必ず禁煙

飲酒

  • 治療中は禁酒
  • 治癒後も適量(日本酒1合、ビール中瓶1本程度/日まで)

ストレス管理

  • 十分な睡眠(7~8時間)
  • 適度な運動(ウォーキング、ヨガなど)
  • リラクゼーション(深呼吸、瞑想)

5. 合併症の治療

出血

  • 緊急内視鏡検査で止血術
    • クリッピング(金属クリップで止血)
    • 焼灼術(熱凝固)
    • 局注法(エピネフリン注入)
  • 輸血、輸液
  • PPI静脈投与
  • 内視鏡で止血困難な場合→緊急手術

穿孔

  • 緊急手術
    • 穿孔部の縫合閉鎖
    • 大網充填術
    • 胃切除術(広範囲の場合)
  • 抗生物質投与(腹膜炎予防・治療)

幽門狭窄

  • 内視鏡的バルーン拡張術
  • 手術(幽門形成術、胃空腸吻合術)

6. 手術療法

現在は薬物療法が主流で、手術は

手術適応

  • 薬物療法で治癒しない難治性潰瘍
  • 合併症(穿孔、大量出血、幽門狭窄)
  • 悪性(胃がん)が疑われる

手術術式

  • 胃切除術(幽門側胃切除、胃全摘術)
  • 迷走神経切離術

 

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