ディスペプシアとは?|内科医がわかりやすく解説
「みぞおちが痛い」「食後に胃がもたれる」「なんとなく胃の調子が悪い」——こうした症状をまとめて表す医学用語がディスペプシアです。検査をしても明らかな異常が見つからないケースも多く、「機能性ディスペプシア(FD)」として診断・治療されることがあります。本記事では、ディスペプシアの意味・症状・原因・診断・治療・日常生活での注意点まで、消化器内科の観点からわかりやすく解説します。
ディスペプシアとは何か
ディスペプシアの意味と「胃の不調」との関係
ディスペプシア(dyspepsia)はギリシャ語に由来する医学用語で、「消化不良」や「みぞおちを中心とした上腹部の不快な症状群」を指します。一般的に「胃の不調」と呼ばれる状態の多くがこれに相当し、痛み・もたれ・膨満感・吐き気などが組み合わさって現れるのが特徴です。
機能性ディスペプシアとの違い
ディスペプシアは「症状の総称」であり、原因の有無によって大きく二つに分類されます。
- 器質性ディスペプシア:胃潰瘍・胃炎・胃がん・逆流性食道炎など、検査で原因となる病変が見つかるもの。
- 機能性ディスペプシア(FD):内視鏡などで明らかな異常が見当たらないにもかかわらず、上腹部症状が慢性的に続くもの。
日本消化器学会のガイドラインでは、機能性ディスペプシアは「症状の原因となる器質的・全身性・代謝性疾患がなく、慢性的に上腹部症状を呈する疾患」と定義されています。
ディスペプシアでみられやすい症状
みぞおちの痛み・不快感
食事の前後を問わず、みぞおち(上腹部中央)に鈍痛や焼けるような不快感が生じることがあります。これを心窩部痛(しんかぶつう)と呼び、機能性ディスペプシアの主要な症状の一つです。
胃もたれ・早期満腹感・食後の膨満感
少量しか食べていないのにすぐ満腹感を感じる「早期満腹感」や、食後に胃が重く感じる「胃もたれ」、お腹が張る「膨満感」もよくみられます。これらは胃の動き(蠕動運動)の低下が関係していることがあります。
吐き気・げっぷ・食欲不振
吐き気やげっぷ、食欲の低下が続く場合もディスペプシアの症状として現れることがあります。症状が重なって日常生活の質(QOL)に影響することも少なくありません。
ディスペプシアの主な原因
胃酸や胃の動きの異常
胃酸の分泌過多や、胃から十二指腸への食べ物の送り出し(胃排出能)の低下が症状に関係するとされています。
ストレスや自律神経の影響
心理的なストレスや不安・緊張は自律神経のバランスを乱し、胃の知覚過敏や運動機能の低下を招くことがあります。機能性ディスペプシアでは、脳と腸の相互作用(脳腸相関)が重要な役割を果たすと考えられています。
食生活・生活習慣との関係
脂肪分の多い食事、早食い、過食、不規則な食事時間、睡眠不足、運動不足なども症状を悪化させる要因となります。
胃炎・胃潰瘍・逆流性食道炎など他の病気が隠れることもある
類似症状の背景に、ピロリ菌感染による慢性胃炎・胃潰瘍、逆流性食道炎、さらには胃がんなどが隠れている場合があります。症状が続く場合は自己判断せず、医師の診察を受けることが重要です。なお、逆流性食道炎との関連については食道裂孔ヘルニアとは?原因・症状・治し方まで内科医が解説【たまプラーザ】もあわせてご参照ください。
ディスペプシアの診断で行うこと
問診で確認する内容
症状の種類・出現時期・持続期間・食事との関係・生活習慣・ストレスの有無・服用中の薬などを詳しく伺います。
必要に応じて行う検査
- 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ):胃炎・潰瘍・がんなどの器質的疾患を除外するために重要です。
- ピロリ菌検査:感染の有無を確認します。
- 血液検査・腹部超音波検査:貧血・炎症反応・膵胆道疾患などを確認します。
「機能性ディスペプシア」と診断される条件
日本消化器学会のガイドラインに基づき、①上腹部症状が慢性的(6か月以上前から症状があり、直近3か月間続いている)に存在し、②内視鏡等の検査で症状を説明できる器質的疾患が認められない場合に、機能性ディスペプシアと診断されます。
受診の目安
早めに内科・消化器内科を受診した方がよい症状
- みぞおちの痛みや不快感が2〜3週間以上続く
- 胃もたれや食欲不振が改善しない
- 市販薬を使っても症状が繰り返す
緊急性を考えるべき症状
以下の症状がある場合は速やかに受診してください。
- 突然の強い腹痛
- 黒い便(タール便)や血便
- 繰り返す嘔吐・血を吐く
- 急激な体重減少・黄疸
何科を受診すればよいか
内科・消化器内科が適切です。症状や経過によって専門的な検査や治療が必要と判断された場合には、消化器専門医への相談もご検討ください。受診の判断に迷う場合はお気軽にご予約・お問い合わせよりご相談ください。
ディスペプシアの治療と対処
生活習慣の見直し
食事の内容・量・食べ方の改善が基本となります。詳細は後述の「日常生活で気をつけたいこと」をご参照ください。
薬物療法
症状に応じて、以下のような薬剤が使用されることがあります(いずれも医師の判断のもとで処方されます)。
- プロトンポンプ阻害薬(PPI):胃酸分泌を抑制し、心窩部痛・胸焼けに有効。PPIについてはppiとは?原因・症状・対処を内科医が解説【たまプラーザ】で詳しく解説しています。
- 消化管運動機能改善薬:胃の蠕動を促し、もたれ・膨満感・早期満腹感を改善。
- ピロリ菌除菌療法:感染が確認された場合に行い、症状の改善が期待できることがあります。
- 抗不安薬・抗うつ薬:脳腸相関へのアプローチとして、少量使用されることがあります。
ストレスケアと再発予防
ストレスの軽減は治療と再発予防の両面で重要です。認知行動療法やリラクゼーション法が有用とされる場合もあります。
日常生活で気をつけたいこと
食事で意識したいポイント
- 1回の食事量を減らし、ゆっくりよく噛んで食べる
- 脂肪分・刺激物(唐辛子・香辛料)の多い食事を控える
- 空腹を長時間続けない
- 食後すぐに横にならない
アルコール・喫煙・カフェインとの付き合い方
アルコールや喫煙は胃粘膜を刺激し、症状を悪化させる可能性があります。カフェインも胃酸分泌を促進するため、過剰な摂取は控えることが望ましいとされています。
睡眠・運動・ストレス管理
十分な睡眠と適度な有酸素運動(ウォーキングなど)は、自律神経のバランスを整え、消化機能の安定に寄与します。また、腹式呼吸とは?原因・症状・対処を内科医が解説【たまプラーザ】で紹介されているような腹式呼吸も、ストレス緩和の一助となります。
ディスペプシアと似た症状を起こす病気
胃炎・胃潰瘍
ピロリ菌感染や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の使用が主な原因です。内視鏡で確認できます。
胃がん
初期は無症状のことも多く、胃もたれ・食欲不振・体重減少などがみられることがあります。定期的な検診・内視鏡検査が重要です。
胆のう・膵臓の病気
胆石症・急性膵炎などでも上腹部の痛みや吐き気が生じます。腹部超音波検査や血液検査で鑑別します。
過敏性腸症候群 など
腹痛と便通異常(下痢・便秘)が特徴ですが、ディスペプシア症状を合併することもあります。上腹部症状だけでなく、排便との関連にも注意が必要です。
よくある質問(FAQ)
ディスペプシアは自然に治りますか?
一時的なストレスや食べ過ぎが原因の場合、生活習慣の改善で症状が落ち着くことがあります。ただし、慢性的に症状が続く場合や増悪する場合は、背景にある疾患の確認のためにも医師への相談をお勧めします。
市販薬で様子を見てもよいですか?
胃腸薬や制酸薬で一時的に症状が和らぐことはありますが、2〜3週間以上続く場合は自己判断に頼らず、受診して原因を確認することが大切です。
検査で異常がないのに症状が続くのはなぜですか?
機能性ディスペプシアでは、胃の知覚過敏や蠕動運動の異常、脳腸相関の乱れなど、内視鏡では見えにくい機能的な問題が症状の背景にあると考えられています。「異常がない=気のせい」ではなく、適切な治療の対象となります。
ディスペプシアは再発しますか?
機能性ディスペプシアは慢性に経過しやすく、症状が改善しても生活習慣の乱れやストレスで再燃することがあります。日常的な予防対策を続けることが大切です。
食べてはいけないものはありますか?
「絶対に食べてはいけない」食品はありませんが、脂肪分の多い食事・アルコール・カフェイン・香辛料・炭酸飲料などは症状を誘発・悪化させやすいとされています。個人差もありますので、ご自身の症状との関連を確認しながら調整してみてください。
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本記事の監修医師
佐藤 靖郎(さとう やすお)
医師(医学博士)/AIプラスクリニックたまプラーザ 監修医
専門:消化器・内科(消化器外科/内視鏡/一般内科)
略歴
1988年 福島県立医科大学医学部卒業、医師免許取得。1997年 同大学大学院修了、博士号取得。国立国際医療研究センター、東京新宿メディカルセンター、NTT東日本関東病院、横浜市立大学関連病院、国立病院機構横浜医療センター外科医長・救命救急センター副部長、済生会若草病院(横浜市)外科部長・内視鏡センター・診療部長を歴任。丸亀医療センター・佐々木病院副理事長、日立おおみか病院理事を経て現在に至る。
公的役割
厚生労働省「地域連携クリティカルパスモデルの開発」班研究員、全国保健所長会 地域連携パス推進班アドバイザー、神奈川県がん診療連携協議会 地域連携クリティカルパス部会 相談役。
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