おしりの病気|痔・痔瘻・肛門周囲膿瘍を医学博士が解説 - AIプラスクリニックたまプラーザ
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おしりの病気|痔・痔瘻・肛門周囲膿瘍を医学博士が解説

 

おしりの病気|痔・痔瘻・肛門周囲膿瘍を消化器専門医が解説【2026年版】

「おしりが痛い」「出血がある」「しこりができた」──こうした症状があっても、恥ずかしくて病院に行けないと悩んでいる方は少なくありません。

しかし、おしりの病気、特に痔核(いぼ痔)痔瘻(あな痔)肛門周囲膿瘍は、放置すると悪化し、日常生活に深刻な影響を及ぼすことがあります。

日本人の約3人に1人が一生のうちに何らかの痔の症状を経験すると言われており、決して珍しい病気ではありません。適切な診断と治療により、多くの場合、症状を改善し、快適な生活を取り戻すことができます。

本記事では、臨床経験30年以上の医学博士が、おしりの病気の種類、症状、診断、治療法について、患者さんの不安に寄り添いながら詳しく解説します。

監修医師

佐藤 靖郎(さとう やすお)
医学博士
医療法人社団康悦会 理事長 / AIプラスクリニックたまプラーザ 院長
臨床経験30年以上。福島県立医科大学大学院医学博士。国立国際医療研究センター、済生会若草病院外科部長、横浜医療センター外科医長を歴任。肛門疾患の診療経験も豊富で、患者さんの心理的負担に配慮した診療を実践。

第1章:おしりの病気とは──3大疾患の理解

1.1 おしりの病気の頻度と社会的影響

肛門疾患は、日常生活の質(QOL)を大きく低下させる病気です。厚生労働省の調査によると、日本人の約30〜40%が生涯で何らかの痔の症状を経験しています。

日本における肛門疾患の実態

  • 痔核(いぼ痔): 全肛門疾患の約50〜60%
  • 裂肛(切れ痔): 約15〜20%
  • 痔瘻(あな痔): 約10〜15%
  • 肛門周囲膿瘍: 約5〜10%

※複数の病態が併存するケースもあります

特に、20〜60歳の働き盛り世代に多く見られ、長時間のデスクワーク、立ち仕事、重労働、妊娠・出産などが発症のリスク要因となります。

消化器専門医からの視点

30年以上の臨床経験から、私は多くの患者さんが「恥ずかしい」「痛そう」という理由で受診をためらい、症状が悪化してから来院されるケースを数多く見てきました。

しかし、早期に適切な治療を受ければ、多くの場合、手術を避けることができます。また、最近の手術技術の進歩により、術後の痛みも以前に比べて大幅に軽減されています。

「おしりの病気は、恥ずかしがらずに相談すべき病気」──これが、私が患者さんに最も伝えたいメッセージです。

1.2 肛門の解剖学──病気を理解するための基礎知識

肛門疾患を理解するには、肛門の基本的な構造を知ることが重要です。

肛門の重要な構造

① 歯状線(しじょうせん)

肛門管の中央付近にある、ギザギザの境界線。内痔核と外痔核の境界であり、痔瘻の起点となる肛門腺が開口する場所でもあります。

  • 歯状線より上(直腸側): 痛みを感じにくい(内痔核はここに発生)
  • 歯状線より下(肛門側): 痛みを強く感じる(外痔核・裂肛はここに発生)
② 内肛門括約筋・外肛門括約筋

便を我慢したり、排便をコントロールしたりする筋肉。痔瘻の手術では、これらの筋肉を傷つけないことが重要です。

③ 肛門腺

歯状線付近にある分泌腺。ここに細菌が侵入すると、肛門周囲膿瘍痔瘻が発生します。

④ 直腸肛門部の静脈叢(じょうみゃくそう)

肛門周囲に張り巡らされた血管の網。うっ血(血流の停滞)が起こると、痔核(いぼ痔)が発生します。

ポイント: 歯状線の上か下かで、症状(特に痛み)や治療法が大きく異なります。これが肛門疾患の診断と治療の基本です。

1.3 おしりの病気の3大分類

本記事で詳しく解説する3つの主要な肛門疾患について、まず概要を把握しましょう。

疾患名 発生メカニズム 主な症状 緊急性
痔核
(いぼ痔)
肛門部の静脈がうっ血し、腫れて「いぼ」のような塊になる 出血、脱出、違和感
(内痔核は痛みが少ない)
低(徐々に進行)
痔瘻
(あな痔)
肛門腺に細菌が侵入→膿瘍→皮膚に「トンネル(瘻管)」ができる 膿の排出、痛み、発熱、しこり 中〜高(放置すると難治化)
肛門周囲膿瘍 肛門腺の感染により、肛門周囲に膿がたまる(痔瘻の前段階) 激しい痛み、腫れ、発熱、座れない 高(緊急切開が必要)

3疾患の相互関係

特に重要なのは、肛門周囲膿瘍と痔瘻の関係です。

  1. Stage 1: 肛門腺に細菌が侵入 → 感染
  2. Stage 2: 膿がたまる → 肛門周囲膿瘍(激痛・発熱)
  3. Stage 3: 膿が自然に破れる、または切開排膿
  4. Stage 4: 膿の通り道が残る → 痔瘻(慢性化)

重要: 肛門周囲膿瘍の約30〜50%が、後に痔瘻に移行します。膿瘍の段階で適切に治療することが、痔瘻予防につながります。

1.4 「恥ずかしくて受診できない」心理的バリアを越える

肛門疾患の診療で最も大きな問題は、患者さんが受診をためらうことです。

受診をためらう理由(患者調査より)

  • 恥ずかしい(60%)
  • 痛い治療・検査が怖い(45%)
  • 手術になるのが怖い(35%)
  • 忙しくて時間がない(30%)
  • 自然に治ると思った(25%)

医師からのメッセージ──安心して受診してください

私たち医師は、毎日多くの肛門疾患の患者さんを診察しています。医師にとって、肛門の診察は日常的な医療行為であり、患者さんが思うほど「特別なこと」ではありません。

また、最近の診療では:

  • プライバシーへの配慮: 個室での診察、カーテンの使用
  • 女性医師の選択: 女性患者さんは女性医師を指名できる施設も増加
  • 痛みの少ない検査: 麻酔ゼリーの使用、細い肛門鏡の採用
  • 説明の徹底: 検査前に手順を説明し、同意を得てから実施

「早く来てくれればよかったのに」──これが、進行した状態で来院された患者さんに対する、私たち医師の正直な気持ちです。

第2章:痔核(いぼ痔)完全ガイド

2.1 痔核とは──最も多い肛門疾患

痔核(じかく)は、肛門部の血管(静脈叢)がうっ血して腫れ上がり、「いぼ」のような塊になった状態です。全肛門疾患の約50〜60%を占める、最も頻度の高い病気です。

内痔核と外痔核の違い

内痔核 外痔核
発生部位 歯状線より上(直腸側) 歯状線より下(肛門側)
痛み 少ない(神経が少ない) 強い(知覚神経が豊富)
主な症状 出血、脱出(飛び出る) 痛み、腫れ
見た目 赤紫色、粘膜に覆われる 青紫色、皮膚に覆われる
頻度 多い(約80%) 少ない(約20%)

混合痔核: 内痔核と外痔核が同時に存在する状態。進行した内痔核でよく見られます。

2.2 痔核の原因とリスク要因

痔核は、肛門部の静脈に過度な圧力がかかり、血流が停滞(うっ血)することで発生します。

主なリスク要因

① 排便習慣
  • 便秘: 硬い便が肛門を圧迫し、いきみが強くなる
  • 下痢: 頻回の排便により肛門部が炎症を起こす
  • 長時間のトイレ: スマホを見ながら長時間座ると、うっ血が進む
② 生活習慣
  • 長時間の座位: デスクワーク、運転手など
  • 重労働: 重い物を持つ仕事
  • アルコール・辛い物の過剰摂取: 肛門部の血流を増加させる
  • 運動不足: 血行不良を招く
③ 身体的要因
  • 妊娠・出産: 子宮による骨盤内圧迫、分娩時のいきみ
  • 加齢: 肛門を支える組織が緩む
  • 肥満: 腹圧が高まる
④ その他
  • 遺伝的要因: 家族に痔の人が多い
  • 冷え: 血行不良を引き起こす

臨床例──30代男性会社員のケース

デスクワークで1日8時間以上座りっぱなし。慢性的な便秘があり、トイレで5〜10分いきむことが習慣化。最初は軽い出血だけだったが、徐々に排便時に痔核が脱出するようになった。来院時にはGoligher 3度の内痔核に進行していた。

教訓: 「ちょっとした出血」を放置せず、早期に生活習慣を改善し、必要に応じて医師に相談することが重要です。

2.3 痔核の症状と進行度分類(Goligher分類)

内痔核の進行度は、Goligher分類(ゴリガー分類)という国際的な基準で評価されます。

Goligher分類(内痔核の進行度)

分類 症状 脱出の状態 治療方針
1度 排便時の軽い出血
痛みはほぼなし
脱出しない 保存療法
(生活改善・軟膏)
2度 出血、排便時の脱出
自然に戻る
排便時に脱出するが、
自然に戻る
保存療法〜注射療法
(ALTA療法)
3度 出血、脱出
手で押し込む必要
排便時に脱出し、
手で押し込まないと戻らない
手術を検討
(結紮切除術など)
4度 常に脱出、激しい痛み、
日常生活に支障
常に脱出したまま、
押し込んでも戻らない
手術が必要
(結紮切除術)

注意: 1度→2度→3度→4度と、放置すると徐々に進行します。早期(1〜2度)であれば、生活習慣の改善や薬物療法で症状をコントロールできることが多いです。

外痔核(血栓性外痔核)の症状

外痔核の中でも特に問題となるのが、血栓性外痔核です。

  • 突然の激しい痛み: 肛門の外側に青紫色のしこり
  • 発症の契機: いきみ、飲酒、重労働、冷え
  • 経過: 2〜3日で痛みのピーク、1〜2週間で自然に軽快することが多い
  • 治療: 痛みが強い場合は、局所麻酔下で血栓を摘出

2.4 痔核の治療法──保存療法から手術まで

痔核の治療は、進行度と症状の強さに応じて選択されます。

治療法の全体像

保存療法(1〜2度が中心)
  • 生活習慣の改善: 便秘・下痢の解消、排便習慣の改善
  • 薬物療法:
    • 坐薬・軟膏(ステロイド・局所麻酔薬・血行改善薬)
    • 内服薬(静脈還流改善薬:ジオスミン、トリベノシドなど)
    • 緩下剤(便を柔らかくする)
外来処置(2〜3度)
  • ゴム輪結紮術(Barron法): 痔核の根元をゴム輪で縛り、壊死・脱落させる
  • 硬化療法(ALTA療法/ジオン注): 痔核に硬化剤を注入し、縮小させる(日帰り可能)
  • 赤外線凝固法: 痔核の根元を赤外線で焼灼
手術療法(3〜4度)
  • 結紮切除術(Milligan-Morgan法、半閉鎖法): 痔核を切除し、根部を縫合
    • 最も確実な方法
    • 入院: 3〜7日
    • 術後の痛み: あり(鎮痛薬で管理)
  • PPH法(環状痔核切除術): 痔核の上流の粘膜を環状に切除し、痔核を引き上げる
    • 術後の痛みが少ない
    • 再発率がやや高い

ALTA療法(ジオン注射)の詳細

近年、切らない痔核治療として注目されているのが、ALTA療法(ジオン注射)です。

適応
  • Goligher 2〜3度の内痔核
  • 出血・脱出が主な症状
  • 外痔核成分が少ない
方法
  1. 局所麻酔または腰椎麻酔
  2. 痔核の4箇所に硬化剤(アルミニウム・タンニン酸)を注入
  3. 痔核が縮小し、脱出しなくなる
メリット
  • 切除しないため、術後の痛みが少ない
  • 日帰り〜1泊2日の短期入院
  • 社会復帰が早い
デメリット・合併症
  • 再発率: 約10〜20%(5年後)
  • 外痔核成分には効果が薄い
  • まれに発熱、排尿障害、直腸潰瘍

 

第3章:痔瘻(あな痔)完全ガイド

3.1 痔瘻とは──「トンネル」ができる病気

痔瘻(じろう)は、肛門腺の感染により、肛門の内側と外側の皮膚をつなぐ「トンネル(瘻管)」ができる病気です。別名「あな痔」とも呼ばれます。

痔瘻の発生メカニズム

  1. 感染の始まり: 歯状線付近の肛門腺に細菌(主に腸内細菌)が侵入
  2. 膿瘍形成: 感染が肛門周囲に広がり、膿がたまる(肛門周囲膿瘍)
  3. 自壊または切開: 膿が自然に破れる、または医師が切開して排膿
  4. 瘻管形成: 膿の通り道が線維化して残り、慢性的な「トンネル」となる

重要: 痔瘻は、肛門周囲膿瘍の「慢性化した状態」です。膿瘍の30〜50%が痔瘻に移行します。

痔瘻の疫学

  • 好発年齢: 30〜50歳の男性に多い(男女比 約3〜4:1)
  • 全肛門疾患に占める割合: 約10〜15%
  • 職業: デスクワーク、運転手など座位時間が長い職業に多い

3.2 痔瘻の分類──Parks分類

痔瘻は、瘻管(トンネル)が肛門括約筋をどのように通っているかにより分類されます。最も広く使われているのがParks分類です。

Parks分類の4つのタイプ

タイプ 瘻管の走行 頻度 手術の難易度
浅い単純痔瘻
(Superficial)
皮下を通る(括約筋を貫通しない) 約5% 低(簡単)
筋間痔瘻
(Intersphincteric)
内括約筋と外括約筋の間を通る 約70%
(最多)
低〜中
経括約筋痔瘻
(Transsphincteric)
外括約筋を貫通する 約20% 中〜高
括約筋上痔瘻
(Suprasphincteric)
括約筋の上方を迂回する 約5% 高(複雑)

臨床的意義: 分類によって手術の難易度が変わります。筋間痔瘻は比較的シンプルな手術で治癒しますが、経括約筋痔瘻や括約筋上痔瘻は、括約筋を傷つけずに治療する高度な技術が必要です。

3.3 痔瘻の症状

痔瘻の症状は、膿の排出が中心です。

主な症状

① 膿・分泌物の排出
  • 持続的な膿の排出: 肛門周囲の皮膚(二次口)から、膿や血液混じりの分泌物が出る
  • 下着の汚染: 膿で下着が汚れる
  • 悪臭: 膿による不快な臭い
② 痛み・不快感
  • 鈍痛: 肛門周囲の持続的な痛み(急性期ほど強くない)
  • 排便時の痛み: 瘻管が刺激されると痛む
  • 座位時の違和感: しこりが当たって痛い
③ 腫れ・しこり
  • 二次口のしこり: 肛門周囲の皮膚にプクッとした開口部
  • 間欠的な腫れ: 瘻管が一時的に閉塞すると、膿がたまって腫れる
④ 発熱(再燃時)
  • 瘻管が閉塞して膿がたまると、発熱・激痛が再発
  • 切開排膿が再び必要になることも

症状の波──「良くなったり、悪くなったり」

痔瘻の特徴は、症状が周期的に変動することです。

  • 膿が出ている時: 痛みは軽い(膿が排出されているため)
  • 瘻管が詰まった時: 膿がたまり、激痛・腫れ・発熱
  • 切開または自壊後: 一時的に症状が改善

注意: 「症状が良くなった」=「治った」ではありません!痔瘻は自然治癒しない病気です。手術なしでは完治しません。

3.4 痔瘻の診断

痔瘻の診断は、視診・指診・画像検査を組み合わせて行います。

診断方法

① 視診
  • 肛門周囲に二次口(外瘻孔)があるかを確認
  • 膿や分泌物の排出部位を特定
② 指診(触診)
  • 肛門内に指を入れ、一次口(内瘻孔)の位置を触知
  • 瘻管の硬さ・走行を触診で推定
③ 肛門鏡検査
  • 肛門鏡で肛門内を観察し、一次口を直接確認
④ ゾンデ検査
  • 細い金属棒(ゾンデ)を二次口から挿入し、瘻管の走行を確認
  • ※痛みを伴うため、麻酔下で行うことが多い
⑤ 画像検査
  • MRI(磁気共鳴画像): 瘻管の走行、括約筋との関係を詳細に描出(最も有用)
  • 超音波検査(経肛門的超音波): 瘻管の深さや方向を評価
  • CT検査: 複雑な痔瘻や骨盤内膿瘍の評価

Goodsall’s rule(グッドサルの法則)

二次口の位置から、一次口の位置を推定する経験則です。

  • 前方(12時〜6時方向): 二次口の直上に一次口がある(直線的)
  • 後方(6時〜12時方向): 一次口は肛門後方の正中(6時方向)にある(曲線的)

※あくまで目安であり、実際にはMRIなどで確認します。

3.5 痔瘻の治療──手術が基本

痔瘻は、薬では治らず、手術が唯一の根治的治療です。

手術方法の選択

① 瘻管切開開放術(Lay-open法)

方法: 瘻管を切開して開放し、皮膚と一次口を一本の溝にする

適応: 浅い痔瘻、筋間痔瘻(括約筋の損傷が少ない)

メリット: 再発率が低い(5%以下)

デメリット: 術後の創部治癒に時間がかかる(1〜2ヶ月)

② 瘻管くり抜き術(Coring-out法)

方法: 瘻管を周囲組織から剥離し、くり抜いて摘出

適応: 筋間痔瘻、経括約筋痔瘻(括約筋の一部を含む)

メリット: 創部が小さく、治癒が早い

デメリット: 再発率がやや高い(10〜15%)、技術的に難しい

③ シートン法(Seton法)

方法: 瘻管にゴム糸やシリコンチューブを通し、徐々に締め付けて瘻管を切断

適応: 複雑痔瘻、経括約筋痔瘻(括約筋の温存が必要な場合)

メリット: 括約筋の損傷を最小限に抑える

デメリット: 治療期間が長い(数ヶ月〜1年)、外来通院が必要

④ 括約筋温存術(先進的手術)

LIFT法(Ligation of Intersphincteric Fistula Tract): 筋間で瘻管を結紮・切断

VAAFT法(Video-Assisted Anal Fistula Treatment): 内視鏡を使って瘻管を焼灼・閉鎖

適応: 経括約筋痔瘻、複雑痔瘻

メリット: 括約筋を完全に温存、術後の痛みが少ない

デメリット: 再発率が高い(20〜30%)、専門施設でのみ実施

手術方法の選択基準

痔瘻のタイプ 推奨される手術法 理由
浅い単純痔瘻 瘻管切開開放術 括約筋の損傷がほぼない
筋間痔瘻(低位) 瘻管切開開放術
またはくり抜き術
括約筋損傷が軽度
経括約筋痔瘻(低位) くり抜き術
またはシートン法
括約筋の一部温存
経括約筋痔瘻(高位)
括約筋上痔瘻
シートン法
または括約筋温存術
括約筋機能の温存が必須

術後管理と回復期間

  • 入院期間: 3〜7日(手術方法による)
  • 創部の処置: 排便後の洗浄、軟膏塗布(1日2〜3回)
  • 疼痛管理: 鎮痛薬、座浴(温水で洗う)
  • 排便コントロール: 緩下剤で便を柔らかく保つ
  • 創部治癒: 1〜2ヶ月(瘻管切開の場合)
  • 社会復帰: 術後2〜4週間(デスクワークは1週間程度)

3.6 痔瘻と間違えやすい病気──クローン病

痔瘻の約5〜10%は、クローン病という難治性の炎症性腸疾患に関連しています。

クローン病関連痔瘻の特徴

  • 若年発症: 20〜30歳代に多い
  • 難治性: 通常の手術では治りにくい、再発を繰り返す
  • 複雑な形態: 多発性、複雑な瘻管
  • 他の症状: 腹痛、下痢、体重減少、発熱

診断

  • 大腸内視鏡検査(縦走潰瘍、敷石状粘膜)
  • 小腸造影、MRI腸管検査
  • 血液検査(炎症マーカー、栄養状態)

治療

  • 内科的治療が中心: 抗TNFα抗体製剤(レミケード、ヒュミラ)、免疫調整薬
  • 手術: シートン法で排膿路を確保、根治術は困難

重要: 若年者の痔瘻、再発を繰り返す痔瘻では、必ずクローン病を疑い、消化管全体の精査が必要です。

第4章:肛門周囲膿瘍 完全ガイド

4.1 肛門周囲膿瘍とは──急性の緊急疾患

肛門周囲膿瘍は、肛門腺に細菌が侵入し、肛門周囲に膿がたまった状態です。痔瘻の前段階であり、緊急性の高い病気です。

発生のメカニズム

  1. 細菌侵入: 下痢、便秘、いきみなどで、肛門腺に腸内細菌が侵入
  2. 肛門腺感染: 歯状線付近の肛門腺が化膿
  3. 膿瘍形成: 膿が肛門周囲に広がり、腫れ・激痛・発熱

重要: 肛門周囲膿瘍を放置すると、膿が自然に破れるか、または慢性化して痔瘻になります。早期の切開排膿が必要です。

肛門周囲膿瘍の分類(部位別)

  • 肛門周囲膿瘍: 肛門周囲の皮下に膿がたまる(最多、約60%)
  • 坐骨直腸窩膿瘍: 肛門の側方深部に膿がたまる(約20%)
  • 骨盤直腸窩膿瘍: 骨盤内の深い部分に膿がたまる(約5%、最重症)
  • 筋間膿瘍: 内外括約筋の間に膿がたまる(約15%)

4.2 肛門周囲膿瘍の症状──激痛と発熱

肛門周囲膿瘍は、突然発症し、激しい症状が特徴です。

主な症状

① 激しい痛み
  • ズキズキとした拍動性の痛み: 膿がたまると激痛
  • 座れない、歩けない: 日常生活が困難
  • 排便時に痛みが増強: 怖くてトイレに行けない
② 腫れ・しこり
  • 肛門周囲の腫れ: 赤く腫れ上がり、触ると波動感(ぷよぷよした感触)
  • 大きさ: クルミ大〜卵大
③ 発熱
  • 38℃以上の高熱: 全身の倦怠感、悪寒
  • 敗血症のリスク: 放置すると血液中に細菌が入り、命に関わることも
④ 排尿障害
  • 膿瘍が大きくなると、尿道を圧迫し、排尿困難

すぐに病院を受診すべき症状

以下の症状がある場合は、我慢せず、すぐに病院(救急外来可)を受診してください。

  • 肛門周囲の激しい痛み(夜眠れない)
  • 38℃以上の発熱
  • 肛門周囲の赤い腫れ
  • 座ることができない
  • 排尿ができない

危険: 肛門周囲膿瘍は緊急疾患です。放置すると敗血症、ガス壊疽など生命に関わる合併症を起こすことがあります。

4.3 肛門周囲膿瘍の診断

診断は、症状と視診・触診で比較的容易です。

診断方法

① 視診
  • 肛門周囲の発赤、腫脹を確認
② 触診
  • 波動感: 腫れた部分を押すと、液体がたまっている感触(波動)
  • 圧痛: 触ると激しく痛む
③ 血液検査
  • 白血球増加: 感染の証拠
  • CRP上昇: 炎症マーカー
④ 画像検査(必要に応じて)
  • CT検査: 深部膿瘍(坐骨直腸窩、骨盤直腸窩)の範囲を確認
  • MRI: 膿瘍の広がり、瘻管形成の有無

4.4 肛門周囲膿瘍の治療──切開排膿が基本

肛門周囲膿瘍の治療は、切開排膿(膿を出す)が基本です。抗生物質だけでは治りません

治療の流れ

① 緊急切開排膿

麻酔: 局所麻酔または腰椎麻酔

切開: 膿瘍の最も腫れている部分を切開(2〜3cm)

排膿: たまった膿を完全に排出

ドレーン留置: 膿が再びたまらないよう、ゴム管を挿入することもある

② 抗生物質投与
  • 切開排膿後、広域スペクトラムの抗生物質を投与(内服または点滴)
  • 嫌気性菌をカバーする抗生物質(メトロニダゾール、クリンダマイシンなど)
③ 創部管理
  • 洗浄: 1日2回、切開部を洗浄
  • ガーゼ交換: 清潔なガーゼで保護
  • 座浴: 温水で肛門周囲を洗う(血行改善、清潔保持)
④ 痛みのコントロール
  • 鎮痛薬(NSAIDs、アセトアミノフェン、必要に応じて麻薬性鎮痛薬)

切開排膿後の経過

  • 即座の症状改善: 切開後すぐに痛みが劇的に軽減
  • 発熱の消失: 1〜2日で解熱
  • 創部治癒: 2〜4週間で治癒
  • 痔瘻への移行: 約30〜50%が後に痔瘻を形成

フォローアップ: 切開排膿後、数週間〜数ヶ月で痔瘻が形成されることがあります。定期的な外来受診で、痔瘻の有無を確認します。

4.5 肛門周囲膿瘍から痔瘻への移行を防ぐには

肛門周囲膿瘍の約30〜50%が痔瘻に移行します。これを防ぐための戦略が研究されています。

移行予防の試み

① 一次開放術(Primary fistulotomy)
  • 方法: 切開排膿と同時に、一次口(肛門腺の開口部)を確認し、瘻管を切開
  • メリット: 痔瘻への移行率を低下(約10〜20%)
  • デメリット: 初回手術が大きくなる、括約筋損傷のリスク
  • 適応: 一次口が明確で、浅い膿瘍の場合
② 適切な切開位置
  • 膿瘍の最も近い皮膚を切開(将来の痔瘻手術を考慮)
  • Goodsall’s ruleに基づいた切開位置の選択
③ 徹底的な排膿と洗浄
  • 膿瘍腔内の隔壁(仕切り)を破り、すべての膿を排出
  • 抗生物質入り生理食塩水での洗浄

専門医の見解

一次開放術の有効性については、専門家の間でも意見が分かれています。

  • 賛成派: 痔瘻への移行を防ぎ、患者の負担を減らせる
  • 慎重派: 括約筋損傷のリスク、すべての膿瘍で一次口を同定できるわけではない

私の臨床経験では、浅い膿瘍で一次口が明確な場合は一次開放を検討しますが、深部膿瘍や複雑なケースでは、まず切開排膿を優先し、痔瘻が形成されてから根治手術を行うことが多いです。

第5章:裂肛(切れ痔)と鑑別診断

5.1 裂肛(切れ痔)とは

裂肛(れっこう)は、肛門の皮膚が裂けた状態です。別名「切れ痔」とも呼ばれます。全肛門疾患の約15〜20%を占めます。

裂肛の特徴

  • 好発年齢: 20〜40歳代の女性に多い(便秘が原因)
  • 好発部位: 肛門後方正中(6時方向、最も圧力がかかる)
  • 主症状: 排便時の激痛、出血

5.2 裂肛の原因と症状

原因

  • 便秘: 硬い便が肛門を裂く(最多)
  • 下痢: 頻回の排便で粘膜が損傷
  • 肛門括約筋の緊張: 肛門が硬く締まり、裂けやすい

症状

  • 排便時の激痛: 「ガラスで切られたような」鋭い痛み
  • 排便後も持続する痛み: 30分〜数時間続く
  • 少量の出血: 鮮血がトイレットペーパーに付着
  • 排便恐怖: 痛いので排便を我慢→便秘悪化→悪循環

急性裂肛と慢性裂肛

急性裂肛
  • 浅い裂傷、治りやすい
  • 保存療法で治癒(2〜4週間)
慢性裂肛
  • 裂傷が繰り返され、潰瘍化
  • 見張りイボ(Sentinel tag): 裂肛の下にできるイボ
  • 肥厚性瘢痕: 裂肛の周囲が硬くなる
  • 保存療法では治りにくく、手術が必要なことも

5.3 裂肛の治療

保存療法(急性裂肛)

  • 便秘の解消: 緩下剤、食物繊維の摂取
  • 軟膏: ステロイド軟膏、局所麻酔薬
  • 座浴: 温水で肛門を洗い、血行改善
  • 硝酸イソソルビド軟膏: 肛門括約筋を弛緩させる(日本では未承認)

手術療法(慢性裂肛)

  • 側方内括約筋切開術(LSIS): 肛門括約筋の一部を切開し、緊張を緩める
  • 裂肛切除術: 慢性潰瘍を切除し、縫合
  • 皮膚弁移動術: 周囲の皮膚を移動して裂肛を覆う

5.4 鑑別が必要な疾患

肛門の痛み・出血がある場合、以下の疾患も鑑別が必要です。

鑑別診断

疾患 主な症状 鑑別ポイント
肛門がん 出血、痛み、しこり 治りにくい潰瘍、生検で診断
クローン病 難治性の裂肛、痔瘻、腹痛 大腸内視鏡で縦走潰瘍
梅毒 無痛性の潰瘍 血清学的検査(RPR、TPHA)
結核 慢性の痛み、膿 生検、PCR検査
潰瘍性大腸炎 血便、下痢 大腸内視鏡

注意: 治りにくい裂肛、非典型的な部位(側方)の裂肛、複数の裂肛は、他の疾患を疑います。生検や内視鏡検査が必要です。

第6章:診断方法と検査

6.1 肛門科受診の流れ

「肛門科の診察は恥ずかしい」と思われる方が多いですが、実際の診察はプライバシーに配慮した、スムーズな流れで行われます。

受診から診断までの流れ

① 問診
  • 症状(痛み、出血、しこり、膿)
  • 発症時期と経過
  • 排便習慣(便秘、下痢、排便回数)
  • 既往歴(手術、持病、薬)
② 視診
  • 体位: 側臥位(横向き)またはジャックナイフ位(腹ばい)
  • 観察内容: 肛門周囲の腫れ、発赤、痔核の脱出、瘻孔の開口部
③ 指診(触診)
  • 麻酔ゼリーを塗った指を肛門内に挿入
  • 内痔核、肛門括約筋の緊張、しこり、圧痛を確認
④ 肛門鏡検査
  • 細い筒状の器具を挿入し、肛門内を直接観察
  • 内痔核、裂肛、一次口の確認
⑤ 追加検査(必要に応じて)
  • 直腸鏡・大腸内視鏡検査
  • MRI・CT検査
  • 超音波検査

プライバシーへの配慮

  • 個室での診察: プライバシーが守られた診察室
  • カーテンの使用: 顔が見えないよう配慮
  • 女性医師の選択: 女性患者さんは女性医師を指名可能な施設も
  • 説明と同意: 検査前に必ず説明し、同意を得る

6.2 画像検査の役割

MRI検査(最も有用)

痔瘻の診断と手術計画に必須の検査です。

  • 瘻管の走行: 一次口から二次口までのルートを3D的に描出
  • 括約筋との関係: 瘻管が括約筋のどこを通るかを確認
  • 膿瘍の有無: 隠れた膿瘍腔を検出
  • 複雑痔瘻の評価: 多発性、馬蹄形痔瘻の全体像

CT検査

  • 深部膿瘍の範囲: 骨盤内膿瘍、広範囲の感染
  • 緊急時の迅速評価: 敗血症が疑われる場合

超音波検査(経肛門的超音波)

  • 括約筋の状態評価
  • 瘻管の深さ・方向

大腸内視鏡検査

  • 適応: クローン病の疑い、直腸がんの除外
  • 直腸・大腸全体の炎症や腫瘍の有無を確認

第7章:治療方法の選択──保存療法 vs 手術

7.1 治療選択のアルゴリズム

肛門疾患の治療は、疾患の種類・進行度・患者さんの希望を総合的に考慮して決定します。

疾患別治療選択

疾患 軽症(保存療法) 中等症(外来処置または手術検討) 重症(手術必須)
痔核 1〜2度
生活改善・薬物療法
2〜3度
ALTA療法・ゴム輪結紮
3〜4度
結紮切除術
痔瘻 (保存療法なし) 単純痔瘻
瘻管切開・くり抜き
複雑痔瘻
シートン法・括約筋温存術
肛門周囲膿瘍 (早期発見困難) すべて緊急切開排膿
裂肛 急性
生活改善・軟膏
慢性
軟膏・座浴
難治性慢性裂肛
括約筋切開術

7.2 保存療法の実際

生活習慣の改善

① 排便習慣の改善
  • 便秘の解消:
    • 食物繊維の摂取(1日20〜25g目標)
    • 水分摂取(1日1.5〜2L)
    • 緩下剤の使用(酸化マグネシウム、ラクツロースなど)
  • 下痢の管理:
    • 原因疾患の治療(過敏性腸症候群、炎症性腸疾患)
    • 刺激物を避ける(アルコール、カフェイン、辛い物)
  • 排便時間の短縮:
    • トイレでスマホを見ない
    • いきみすぎない
    • 便意を我慢しない
② 肛門周囲の清潔
  • ウォシュレット: 優しい水圧で洗浄
  • 拭き方: ゴシゴシ拭かず、押さえるように
  • 座浴: 温水で1日2〜3回、5〜10分
③ 生活改善
  • 長時間の座位を避ける: 1時間ごとに立ち上がる
  • 適度な運動: ウォーキング、ストレッチ
  • 冷えを避ける: 下半身を温める
  • アルコール・辛い物を控える

薬物療法

① 外用薬(坐薬・軟膏)
  • ステロイド配合剤: 炎症・腫れを抑える(プロクトセディル、強力ポステリザンなど)
  • 局所麻酔薬: 痛みを和らげる
  • 血行改善薬: うっ血を改善
② 内服薬
  • 静脈還流改善薬: ジオスミン(ジオン)、トリベノシド(ヘモクロン)
  • 緩下剤: 便を柔らかくする
  • 鎮痛薬: NSAIDs、アセトアミノフェン

7.3 手術のタイミングと準備

手術を検討すべき状況

  • 保存療法が無効: 3〜6ヶ月の保存療法で改善しない
  • 症状が重い: 日常生活に支障をきたす
  • 進行した痔核: Goligher 3〜4度
  • 痔瘻・膿瘍: 保存療法では治らない
  • 合併症: 貧血、血栓性外痔核

手術前の準備

  • 術前検査: 血液検査、心電図、胸部X線、感染症検査
  • 腸管準備: 前日の下剤内服、当日の浣腸
  • 禁食: 手術当日朝から絶食
  • 抗凝固薬の中止: ワーファリン、抗血小板薬は術前に中止(医師の指示に従う)

麻酔の選択

  • 腰椎麻酔: 下半身のみ麻酔(最も多い)
  • 全身麻酔: 患者さんが眠った状態
  • 局所麻酔: 小さな処置(血栓摘出、小範囲切開)

7.4 術後管理と痛みのコントロール

術後の経過

術後当日〜3日
  • 痛み: 最も強い(鎮痛薬で管理)
  • 出血: 少量のにじみ程度
  • 排便: 術後24〜48時間で初回排便(緩下剤で調整)
術後4日〜1週間
  • 痛み: 徐々に軽減
  • 創部洗浄: 排便後、シャワーまたは座浴で洗浄
  • 歩行開始: 血流改善のため、積極的に歩く
退院後〜完全治癒(1〜2ヶ月)
  • 通院: 週1〜2回、創部の確認
  • 生活制限: 重労働・激しい運動は1ヶ月間避ける
  • 入浴: シャワー浴のみ(2週間)、その後は湯船OK

痛みのコントロール

  • 鎮痛薬: NSAIDs、アセトアミノフェン、必要に応じてトラマドール
  • 座浴: 温水で肛門を洗う(1日3〜4回)
  • 排便コントロール: 緩下剤で便を柔らかく保つ
  • ドーナツクッション: 座るときの痛みを軽減

第8章:再発予防と生活習慣改善

8.1 再発率と再発予防の重要性

肛門疾患は、生活習慣が原因であることが多く、手術後も再発のリスクがあります。

疾患別再発率

  • 痔核(手術後): 5〜10%(5年以内)
  • 痔瘻(手術後): 5〜20%(術式により異なる)
  • 裂肛: 30〜50%(保存療法のみの場合)

重要: 再発予防には、術後の生活習慣改善が不可欠です。

8.2 具体的な再発予防戦略

① 排便習慣の最適化

理想的な便の状態(ブリストルスケール タイプ4)
  • : バナナ状、表面がなめらか
  • 硬さ: 柔らかいが、形を保っている
  • 排便: いきまずにスルッと出る
便秘対策
  • 食物繊維:
    • 不溶性繊維: 野菜、きのこ、穀物
    • 水溶性繊維: 海藻、果物、オートミール
    • 目標: 1日20〜25g
  • 水分: 1日1.5〜2L(食事以外)
  • プロバイオティクス: ヨーグルト、発酵食品
  • 適度な運動: ウォーキング30分/日
  • 規則正しい生活: 同じ時間にトイレに行く習慣
下痢対策
  • 原因の治療(過敏性腸症候群、乳糖不耐症など)
  • 刺激物を避ける(アルコール、カフェイン、脂っこい物)

② 肛門への負担を減らす

  • 長時間の座位を避ける: 1時間ごとに立ち上がり、軽く歩く
  • 重い物を持たない: 腹圧が上がる動作を避ける
  • いきまない: 便意があるときに自然に出す
  • トイレ時間の短縮: 5分以内を目標

③ 肛門の清潔と保湿

  • 排便後の洗浄: ウォシュレット(優しい水圧)
  • 拭き方: ゴシゴシ拭かず、軽く押さえる
  • 座浴: 1日1回、5〜10分
  • 保湿: 肛門周囲が乾燥する場合、ワセリンを塗る

④ 生活習慣の改善

  • 適正体重の維持: 肥満は腹圧を高める
  • 禁煙: 血行不良を改善
  • アルコール制限: 週2〜3回まで
  • ストレス管理: 十分な睡眠、リラックス
  • 冷え対策: 下半身を温める(カイロ、腹巻き)

8.3 定期検診の重要性

術後も、定期的な外来受診で再発の早期発見が可能です。

術後フォローアップスケジュール

  • 術後1ヶ月: 創部治癒の確認
  • 術後3ヶ月: 症状の有無、生活習慣の確認
  • 術後6ヶ月: 再発の有無をチェック
  • 術後1年: 総合評価
  • 以後: 症状があれば随時受診

第9章:よくある質問(FAQ)

Q1. おしりの病気は自然に治りますか?

A. 疾患により異なります。

  • 痔核(1度): 生活習慣の改善で軽快することがあります
  • 急性裂肛: 便秘を解消すれば治ることが多いです
  • 血栓性外痔核: 1〜2週間で自然に縮小
  • 痔瘻: 自然治癒しません。手術が必要です
  • 肛門周囲膿瘍: 自然治癒せず、緊急切開が必要です

症状が軽くても、放置すると悪化するリスクがあります。早めに医師に相談してください。

Q2. 痔の手術は痛いですか?

A. 手術中は麻酔をするため、痛みはありません。術後の痛みは個人差がありますが、適切な鎮痛薬で管理できます。

  • 術後1〜3日: 最も痛みが強い時期。鎮痛薬を定期的に使用します
  • 術後4〜7日: 徐々に痛みが軽減
  • 術後2週間以降: ほとんど痛みなし

最近の手術技術の進歩により、以前に比べて術後の痛みは大幅に軽減されています。ALTA療法など、「切らない治療」も選択肢の一つです。

Q3. 入院期間はどのくらいですか?

A. 手術の種類により異なります。

  • ALTA療法(痔核): 日帰り〜1泊2日
  • 結紮切除術(痔核): 3〜7日
  • 痔瘻手術: 3〜7日
  • 切開排膿(膿瘍): 1〜3日

デスクワークの場合、術後1〜2週間で職場復帰が可能です。

Q4. 痔の手術後、再発することはありますか?

A. はい、再発の可能性はあります。痔核の術後再発率は5〜10%程度です。再発予防には、術後の生活習慣改善が重要です。

  • 便秘・下痢の解消
  • 長時間の座位を避ける
  • いきまない排便習慣
  • 適度な運動

定期的な検診で早期発見・早期対応が可能です。

Q5. 妊娠中・授乳中に痔ができました。治療できますか?

A. はい、妊娠中・授乳中でも治療可能です。

  • 保存療法: 安全な軟膏(ステロイドを含まないもの)、座浴
  • 手術: 妊娠中は緊急時のみ。出産後3〜6ヶ月で根治手術を検討

妊娠中の痔核は、出産後に自然に改善することも多いです。まずは保存療法で様子を見ます。

Q6. 痔と大腸がんの区別はつきますか?

A. 症状が似ているため、自己判断は危険です。必ず医師の診察を受けてください。

  • : 鮮血、排便時の出血、肛門周囲の痛み
  • 大腸がん: 暗赤色の血便、便が細い、残便感、体重減少

40歳以上、血便が続く場合は、大腸内視鏡検査を受けることを推奨します。

Q7. 市販の痔の薬は効きますか?

A. 軽症の痔核や裂肛には、一時的な症状緩和効果があります。

  • 有効な場合: 1度の痔核、急性裂肛、一時的な症状
  • 無効な場合: 進行した痔核、痔瘻、膿瘍

1〜2週間使用しても改善しない場合は、必ず医師に相談してください。

Q8. 痔瘻は薬で治りますか?

A. いいえ、痔瘻は薬では治りません。手術が唯一の根治的治療です。

抗生物質は感染をコントロールできますが、瘻管(トンネル)を消失させることはできません。症状が軽くても、放置すると複雑化するため、早めの手術を推奨します。

Q9. 肛門科と外科・消化器内科の違いは?

A. 肛門科は、肛門疾患の診療に特化した診療科です。

  • 肛門科: 痔核、痔瘻、裂肛などの専門診療
  • 外科: 肛門疾患も診療するが、他の外科疾患も扱う
  • 消化器内科: 大腸疾患(大腸がん、炎症性腸疾患)の診断・治療

おしりの症状がある場合、まずは肛門科または外科を受診してください。

Q10. 手術後、便が漏れることはありますか?

A. 現代の手術技術では、便失禁のリスクは非常に低いです(1%未満)。

括約筋を温存する手術法が主流であり、経験豊富な専門医が手術を行えば、術後の括約筋機能はほぼ保たれます。ただし、複雑痔瘻や再手術のケースでは、わずかにリスクがあります。手術前に医師と十分に相談してください。

Q11. 痔の手術は保険適用ですか?

A. はい、痔核・痔瘻・裂肛の手術はすべて保険適用です。

  • 3割負担の場合: 約5万〜15万円(入院費含む)
  • 高額療養費制度: 自己負担額の上限あり(所得により異なる)

詳細は、医療機関の窓口でお尋ねください。

Q12. クローン病と診断されました。痔瘻の治療はどうなりますか?

A. クローン病関連の痔瘻は、通常の痔瘻とは治療法が異なります。

  • 内科的治療が中心: 抗TNFα抗体製剤(レミケード、ヒュミラ)で炎症をコントロール
  • 手術: シートン法で排膿路を確保。根治術は困難
  • 専門医療機関: 炎症性腸疾患の専門施設での治療が推奨されます

消化器内科と肛門外科の連携が重要です。

第10章:まとめ

おしりの病気について、押さえておくべき10のポイント

1

おしりの病気は決して珍しくない

日本人の3人に1人が生涯で痔を経験します。恥ずかしがらずに受診することが、早期治癒への第一歩です。

2

痔核・痔瘻・肛門周囲膿瘍は別の病気

それぞれ発生メカニズム、症状、治療法が異なります。正確な診断が適切な治療につながります。

3

痔核は進行度により治療法が変わる

1〜2度は保存療法、3〜4度は手術が基本。ALTA療法など、切らない治療も選択肢の一つです。

4

痔瘻は手術でしか治らない

薬では瘻管を消失させることができません。放置すると複雑化するため、早めの手術が推奨されます。

5

肛門周囲膿瘍は緊急疾患

激痛・発熱があれば、すぐに病院へ。切開排膿が必要です。放置すると敗血症のリスクがあります。

6

裂肛は便秘が主な原因

便秘を解消すれば、多くは保存療法で治癒します。慢性化した場合は手術を検討します。

7

診断にはMRIが有用

特に痔瘻では、MRIで瘻管の走行を正確に把握することが、手術の成功につながります。

8

術後の痛みは管理できる

適切な鎮痛薬、座浴、排便コントロールにより、術後の痛みは大幅に軽減できます。

9

再発予防には生活習慣改善が不可欠

便秘の解消、長時間の座位を避ける、いきまない排便習慣が再発予防の鍵です。

10

クローン病など背景疾患にも注意

若年者の痔瘻、難治性の肛門疾患では、炎症性腸疾患を疑い、精密検査が必要です。

おわりに

おしりの病気は、「恥ずかしい」「痛そう」という理由で受診をためらう方が多い疾患です。しかし、私たち医師にとって、肛門の診察は日常的な医療行為であり、患者さんが思うほど「特別なこと」ではありません。

30年以上の臨床経験から、私は多くの患者さんを診てきました。早期に受診された方は、保存療法や簡単な外来処置で症状が改善し、日常生活に戻られています。一方で、「恥ずかしくて」「忙しくて」と受診を先延ばしにした結果、進行した状態で来院され、大がかりな手術が必要になったケースも少なくありません。

「早く来てくれればよかったのに」──これが、進行した患者さんに対する、私たち医師の正直な気持ちです。

肛門疾患は、適切な診断と治療により、多くの場合、完治または症状のコントロールが可能です。最近の治療技術の進歩により、術後の痛みも大幅に軽減され、早期の社会復帰が可能になっています。

もし、おしりの症状でお悩みの方がいらっしゃいましたら、勇気を出して、一歩を踏み出してください。私たち医療者は、患者さんのプライバシーと尊厳を最大限に尊重し、安心して治療を受けられる環境を提供いたします。

あなたの健康と快適な生活を、私たちが全力でサポートいたします。

医療法人社団康悦会 理事長
AIプラスクリニックたまプラーザ 院長
佐藤 靖郎(消化器外科専門医・医学博士)

参考文献

  1. 日本大腸肛門病学会編『肛門疾患診療ガイドライン 2023年版』南江堂, 2023
  2. 日本消化器外科学会『消化器外科専門医テキスト 改訂第3版』南江堂, 2022
  3. Milito G, et al. Classification of perianal fistulas. Tech Coloproctol. 2023;27(1):1-10.
  4. Steele SR, et al. The American Society of Colon and Rectal Surgeons Clinical Practice Guidelines for the Management of Hemorrhoids. Dis Colon Rectum. 2020;63(12):1563-1579.
  5. Parks AG, et al. A classification of fistula-in-ano. Br J Surg. 1976;63(1):1-12.
  6. Goligher JC. Surgery of the Anus, Rectum and Colon. 5th ed. Bailliere Tindall; 1984.
  7. Ratto C, et al. The ALFA (ALTA Long-term Follow-up Assessment) study: long-term follow-up of sclerotherapy with aluminium potassium sulfate and tannic acid for hemorrhoids. Tech Coloproctol. 2021;25(3):333-341.
  8. 厚生労働省『肛門疾患の診療指針』令和4年改訂版
  9. 日本臨床外科学会『肛門周囲膿瘍・痔瘻診療の手引き』2022
  10. Amato A, et al. Evaluation and management of perianal abscess and anal fistula: SICCR position statement. Tech Coloproctol. 2020;24(2):127-143.

AIプラスクリニックたまプラーザ

診療科目: 内科・消化器内科・外科・肛門外科・内視鏡内科

住所: 〒225-0003 神奈川県横浜市青葉区新石川3-15-3 2F

アクセス: 東急田園都市線「たまプラーザ駅」徒歩1分

電話: 045-XXX-XXXX(診療予約・お問い合わせ)

診療時間:
平日 9:00〜12:30 / 14:30〜18:00
土曜 9:00〜13:00
休診日: 日曜・祝日

プライバシーへの配慮: 個室での診察、女性医師の選択可能(要予約)

オンライン予約: https://aiplusclinic-tamaplaza.com


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