クローン病の症状と治療
クローン病は、消化管のあらゆる部位に炎症が生じる慢性炎症性腸疾患(IBD)です。口腔から肛門まで消化管全体に影響する可能性があり、特に小腸と大腸に好発します。指定難病に認定されており、適切な治療と長期的な管理が必要な疾患です。
当院では、消化器内科専門医による診断・治療はもちろん、栄養士と連携した食事指導、最新の生物学的製剤治療まで、患者様一人ひとりに合わせた包括的な治療を提供しています。
1. クローン病の病態
クローン病は、消化管の全層に及ぶ非連続的な炎症を特徴とする疾患です。以下の特徴があります:
- 全層性炎症:粘膜層から漿膜層まで、腸管壁の全層に炎症が及ぶ
- 非連続性病変:病変部と正常部が交互に現れる「とびとび」の炎症(区域性病変)
- 肉芽腫形成:特徴的な組織学的所見
- 好発部位:回腸末端(小腸の末端部)と大腸に多いが、口腔から肛門までどこにでも生じうる
発症には、遺伝的要因、環境要因(食生活、腸内細菌叢の変化など)、免疫系の異常などが複雑に関与していると考えられています。特定の原因は不明ですが、免疫系の異常反応により腸管に慢性的な炎症が引き起こされます。
2. 主な症状
クローン病の症状は、炎症の部位や程度、合併症の有無によって異なります。主な症状には以下のようなものがあります:
消化器症状
- 腹痛:特に右下腹部(回盲部)に多い
- 下痢:血便を伴うこともある
- 腹部膨満感:腸管狭窄による通過障害で起こる
- 肛門部病変:痔瘻、肛門周囲膿瘍、裂肛など(30-40%の患者に発症)
全身症状
- 体重減少:栄養吸収障害や食欲低下による
- 発熱:炎症による
- 倦怠感:栄養不良や貧血による
- 成長障害:小児期発症の場合
腸管外症状
- 関節炎:末梢関節や脊椎関節の炎症
- 皮膚症状:結節性紅斑、壊疽性膿皮症など
- 眼症状:虹彩炎、ぶどう膜炎など
- 肝胆道系疾患:原発性硬化性胆管炎など
3. 検査と診断
クローン病の診断には、複数の検査を組み合わせて行います。当院では以下の検査を実施しています。
内視鏡検査
- 大腸内視鏡検査:大腸の炎症、潰瘍、狭窄などを直接観察し、組織検査も行います
- 上部消化管内視鏡検査:上部消化管(食道、胃、十二指腸)の病変を確認します
- 小腸カプセル内視鏡:小腸の病変を確認するために使用します
- バルーン小腸内視鏡:小腸の詳細な観察が必要な場合に行います
画像検査
- CT検査:腸管壁の肥厚、狭窄、瘻孔、膿瘍などを評価します
- MRエンテログラフィー:放射線被曝なしで小腸病変を評価できる検査です
- 超音波検査:腸管壁の肥厚や膿瘍の評価に有用です
血液・便検査
- 炎症マーカー(CRP、赤沈、白血球数):炎症の活動性を評価します
- 貧血検査:クローン病患者では鉄欠乏性貧血が多くみられます
- 栄養状態の評価:アルブミン、総蛋白、ビタミン・ミネラルなど
- 便中カルプロテクチン:腸管炎症の指標となります
当院では、大腸ドックを含む各種検査を組み合わせ、正確な診断を行っています。検査の詳細については、各検査ページをご参照ください。
4. 治療法
クローン病の治療は、症状の緩和、炎症の鎮静化(寛解導入)、寛解状態の維持を目的としています。治療は主に以下の方法を組み合わせて行います。
栄養療法
クローン病の基本治療の一つです。特に日本では重視されています。
- 成分栄養療法(経腸栄養):エレンタールなどの成分栄養剤を用いた治療
- 食事指導:低脂肪、低残渣食などの食事療法
薬物療法
- 5-ASA製剤(メサラジンなど):軽度から中等度の炎症に使用
- ステロイド薬:中等度から重度の炎症の急性期に短期間使用
- 免疫調節薬(アザチオプリン、6-MPなど):寛解維持に使用
- 生物学的製剤:従来の治療で効果不十分な場合に使用
- 抗TNF-α抗体(インフリキシマブ、アダリムマブなど)
- 抗インテグリン抗体(ベドリズマブ)
- 抗IL-12/23抗体(ウステキヌマブ)
- JAK阻害薬(ウパダシチニブなど):新しいタイプの内服薬
- 抗菌薬:合併症(膿瘍など)の治療に使用
5. 合併症
クローン病には様々な合併症が生じる可能性があります。早期発見・早期治療が重要です。
腸管合併症
- 狭窄:腸管の炎症や瘢痕によって内腔が狭くなり、腸閉塞症状を引き起こす
- 瘻孔:腸管と他の臓器(膀胱、膣、他の腸管など)や皮膚との間に異常な交通路ができる
- 膿瘍:腸管壁の全層性炎症により形成される
- 肛門病変:痔瘻、肛門周囲膿瘍、裂肛など
- 消化管出血:深い潰瘍からの出血
- 癌化:長期罹患例では大腸癌のリスクが上昇
全身合併症
- 栄養障害:消化吸収障害、食事摂取量低下による
- 貧血:鉄欠乏、慢性炎症、ビタミンB12欠乏などによる
- 骨粗鬆症:ステロイド使用、慢性炎症、栄養障害などによる
- 血栓症:炎症による血液凝固亢進状態による
6. 手術の適応
クローン病は基本的に内科的治療が中心ですが、以下のような場合には手術が必要となることがあります。
- 内科的治療抵抗性:十分な内科治療を行っても改善しない場合
- 腸管狭窄:通過障害を引き起こし、日常生活に支障がある場合
- 穿孔:緊急手術の適応となる
- 膿瘍形成:抗菌薬やドレナージで改善しない場合
- 複雑な瘻孔:内科的治療で改善しない複雑な瘻孔
- 大量出血:内視鏡的止血が困難な出血
- 発癌:大腸癌や小腸癌が発見された場合
手術は炎症を完全に取り除くものではなく、合併症の治療や症状の改善を目的としています。手術後も再発予防のための内科的治療の継続が重要です。
主な手術方法
- 腸管切除術:病変部を含む腸管を切除する
- 狭窄形成術:狭窄部を切除せずに拡張する(小腸温存)
- 瘻孔切除術:瘻孔とその周囲の炎症組織を切除する
7. 日常生活での注意点
クローン病と診断された後も、適切な管理を行うことで質の高い生活を送ることが可能です。
食事の工夫
- 規則正しい食事習慣を心がける
- 脂肪の多い食品を控える
- 食物繊維の多すぎる食品は腹部症状を悪化させることがある
- 個人によって悪化させる食品は異なるため、食事日記をつけると効果的
生活習慣
- 禁煙:喫煙はクローン病の活動性を高め、再燃リスクを上げる
- ストレス管理:過度のストレスは症状悪化のきっかけになることも
- 適度な運動:体力維持や骨粗鬆症予防に効果的
- 規則正しい生活:十分な睡眠と休養を取る
医療費助成
クローン病は指定難病に認定されており、医療費助成制度があります。当院では申請に必要な書類作成のサポートも行っていますので、お気軽にご相談ください。