胃痛の原因とは|医学博士が解説する症状別の対処法と検査【2026年版】
第1章 胃痛とは|定義と分類
1.1 胃痛の定義
胃痛とは、上腹部(特にみぞおち周辺)に感じる痛みや不快感の総称です。医学的には「心窩部痛(しんかぶつう)」とも呼ばれ、胃や十二指腸、食道などの上部消化管の疾患により引き起こされることが多い症状です。
30年以上の消化器外科臨床経験から申し上げると、胃痛は極めて頻度の高い症状であり、日本人の約3割が年に1回以上の胃痛を経験しています。その原因は、ストレスによる一過性のものから、胃潰瘍や胃がんのような重篤な疾患まで多岐にわたります。
1.2 胃痛の頻度と疫学
日本における胃痛の疫学データ:
- 年間有病率:成人の約30%が年に1回以上の胃痛を経験
- 性別:女性にやや多い傾向(男性約25%、女性約35%)
- 年齢:40歳以上で器質的疾患(胃潰瘍、胃がん等)の頻度が増加
- 受診率:胃痛を経験した人のうち、実際に医療機関を受診するのは約20〜30%
特に注目すべきは、胃痛を経験しても「ストレスだろう」「市販薬で様子を見よう」と自己判断して受診しない人が多いという事実です。しかし、胃痛の背後には胃潰瘍や胃がんなどの重篤な疾患が隠れていることがあり、早期受診が重要です。
1.3 胃痛の分類
胃痛は、その性質や原因により以下のように分類されます:
痛みの性質による分類
- 鈍痛:重い、鈍い痛み(慢性胃炎、機能性ディスペプシア)
- 鋭痛:鋭い、刺すような痛み(胃潰瘍、十二指腸潰瘍)
- 灼熱痛:焼けるような痛み(逆流性食道炎、胃酸過多)
- 圧迫痛:押されるような痛み(胃拡張、胃アトニー)
- 痙攣痛:締め付けられるような痛み(胃痙攣、ストレス性)
時間帯による分類
- 空腹時痛:空腹時に出現、食事で軽減(十二指腸潰瘍)
- 食後痛:食後30分〜1時間で出現(胃潰瘍、慢性胃炎)
- 夜間痛:夜間〜早朝に出現(十二指腸潰瘍、逆流性食道炎)
- 持続痛:時間帯に関係なく持続(胃がん、膵炎)
原因による分類
- 器質的胃痛:明確な病変がある(胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がん等)
- 機能性胃痛:明確な病変がない(機能性ディスペプシア、ストレス性胃痛)
1.4 胃痛のメカニズム
胃痛が生じるメカニズムは、原因により異なります:
炎症・潰瘍による胃痛
胃粘膜の炎症や潰瘍形成により、胃酸が粘膜下組織や神経終末を刺激し、痛みが生じます。特に胃潰瘍では、食事により胃酸分泌が促進されるため、食後に痛みが増悪します。
胃酸過多による胃痛
胃酸分泌が過剰になると、胃粘膜が刺激され、灼熱痛や鈍痛が生じます。ストレス、カフェイン、アルコール、喫煙などが胃酸分泌を促進します。
胃運動機能異常による胃痛
胃の蠕動運動が亢進すると痙攣痛、低下すると圧迫痛や膨満感が生じます。ストレスや自律神経の乱れが主な原因です。
内臓知覚過敏による胃痛
機能性ディスペプシアでは、通常では痛みを感じない程度の刺激でも痛みを感じる「内臓知覚過敏」が関与しています。
1.5 胃痛の臨床的意義
胃痛は、以下の点で臨床的に重要な症状です:
- 悪性疾患の可能性:胃がんの初発症状として胃痛が出現することがある
- 緊急性の判断:胃・十二指腸潰瘍穿孔は緊急手術が必要
- QOLへの影響:慢性的な胃痛は生活の質を著しく低下させる
- 鑑別診断の重要性:心筋梗塞や膵炎など、胃以外の疾患でも上腹部痛が出現
消化器専門医として30年以上診療してきた経験から申し上げると、「たかが胃痛」と軽視することは極めて危険です。特に40歳以上で初めての胃痛、または胃痛のパターンが変化した場合は、必ず胃カメラ検査による精査が必要です。
1.6 胃痛と心窩部痛の違い
医学的には以下のように区別されます:
- 心窩部痛(しんかぶつう):みぞおち(剣状突起下)を中心とした痛み。医学用語として正確
- 胃痛:一般的な表現。厳密には胃由来の痛みを指すが、臨床現場では上腹部痛全般を含む
- 上腹部痛:みぞおちから左右季肋部を含む広い範囲の痛み
本記事では、患者さんにとって分かりやすい「胃痛」という表現を使用しますが、実際には胃以外の疾患(十二指腸、膵臓、胆のう等)による痛みも含みます。
第2章 胃痛の部位と原因疾患の関係
2.1 みぞおち(心窩部)の痛み
特徴
みぞおちは、胸骨の下端(剣状突起)のすぐ下の部位です。胃痛の中で最も頻度が高く、胃や十二指腸の疾患で典型的に出現する部位です。
主な原因疾患
- 胃潰瘍:食後30分〜1時間で出現する鈍痛〜鋭痛
- 十二指腸潰瘍:空腹時や夜間に出現する鋭痛、食事で軽減
- 急性胃炎:突然の鈍痛、吐き気を伴うことが多い
- 慢性胃炎:持続的な鈍痛、膨満感
- 機能性ディスペプシア:食後の膨満感、早期満腹感、心窩部痛
- 胃がん:持続的な鈍痛、体重減少を伴う(進行例)
- 逆流性食道炎:灼熱痛(胸やけ)、食後や就寝時に増悪
2.2 左上腹部(左季肋部)の痛み
特徴
左肋骨の下縁部分の痛みです。胃の上部〜噴門部、膵臓の体尾部、脾臓の疾患で出現します。
主な原因疾患
- 胃体部の潰瘍・がん:持続的な痛み
- 膵炎:激しい持続痛、背中に抜ける放散痛
- 脾腫:鈍痛、圧迫感
- 脾梗塞:突然の鋭痛
2.3 右上腹部(右季肋部)の痛み
特徴
右肋骨の下縁部分の痛みです。肝臓、胆のう、十二指腸、膵頭部の疾患で出現します。
主な原因疾患
- 胆石症・胆のう炎:右上腹部の激痛、発熱、黄疸
- 十二指腸潰瘍:空腹時痛、右寄りのみぞおち痛
- 肝炎・肝膿瘍:鈍痛、発熱
- 膵頭部がん:持続痛、黄疸、体重減少
2.4 上腹部全体の痛み
特徴
上腹部全体に広がる痛みは、びまん性の炎症や、膵炎などの後腹膜疾患で出現します。
主な原因疾患
- 急性膵炎:上腹部全体の激痛、背中に抜ける放散痛
- 胃・十二指腸潰瘍穿孔:突然の激痛、板状硬(腹膜刺激症状)
- 腹膜炎:持続的な激痛、発熱
2.5 時間帯による痛みの特徴
空腹時痛(早朝・食前)
典型的疾患:十二指腸潰瘍
十二指腸潰瘍では、胃酸が空の十二指腸に流れ込み、潰瘍部を刺激するため、空腹時に痛みが増悪します。食事により胃酸が中和されるため、食後は痛みが軽減します。
特徴:
- 早朝(午前2〜4時頃)に痛みで目が覚める
- 食事や制酸剤で痛みが速やかに軽減
- 空腹が続くと痛みが増強
食後痛(食後30分〜1時間)
典型的疾患:胃潰瘍、慢性胃炎
胃潰瘍では、食事により胃酸分泌が促進され、潰瘍部が刺激されるため、食後に痛みが増悪します。
特徴:
- 食後30分〜1時間で痛みが出現
- 食事量が多いほど痛みが強い
- 脂肪分の多い食事で増悪
夜間痛(就寝中〜早朝)
典型的疾患:十二指腸潰瘍、逆流性食道炎
十二指腸潰瘍では、夜間に胃酸分泌が亢進するため、痛みが出現しやすくなります。逆流性食道炎では、就寝時の姿勢により胃酸が食道に逆流し、胸やけや心窩部痛が生じます。
持続痛(時間帯に関係なく持続)
典型的疾患:胃がん、膵炎、膵臓がん
悪性腫瘍や膵炎では、時間帯に関係なく持続的な痛みが特徴です。これは、炎症や腫瘍による持続的な組織障害が原因です。
2.6 胃痛と他臓器の関連痛
上腹部痛は、必ずしも胃由来とは限りません。以下の臓器の疾患でも上腹部痛が出現します:
心臓
- 心筋梗塞:みぞおちの痛み、冷や汗、呼吸困難
- 狭心症:みぞおち〜胸部の圧迫痛、運動時に増悪
重要:高齢者や糖尿病患者では、心筋梗塞が「胃痛」として現れることがあります。冷や汗、呼吸困難を伴う場合は直ちに救急受診が必要です。
膵臓
- 急性膵炎:上腹部全体の激痛、背中に抜ける放散痛
- 慢性膵炎:持続的な鈍痛、背部痛
- 膵臓がん:持続痛、背部痛、体重減少、黄疸
胆のう
- 胆石症・胆のう炎:右上腹部の激痛、発熱
- 胆道がん:右上腹部痛、黄疸
大動脈
- 腹部大動脈瘤破裂:突然の激しい腹痛、ショック症状
2.7 胃痛の随伴症状
胃痛とともに以下の症状を伴う場合、特定の疾患を疑います:
| 随伴症状 | 疑われる疾患 |
|---|---|
| 吐き気・嘔吐 | 急性胃炎、胃潰瘍、胃がん、膵炎 |
| 胸やけ・呑酸 | 逆流性食道炎、胃酸過多 |
| 吐血・下血 | 胃・十二指腸潰瘍出血、胃がん |
| 体重減少 | 胃がん、膵臓がん、慢性膵炎 |
| 発熱 | 胆のう炎、膵炎、肝膿瘍 |
| 黄疸 | 胆石症、胆のう炎、膵頭部がん |
| 下痢・便秘 | 機能性ディスペプシア、過敏性腸症候群 |
| 冷や汗・呼吸困難 | 心筋梗塞、大動脈瘤破裂(緊急) |
2.8 食事と胃痛の関係
食事で悪化する胃痛
- 胃潰瘍:食後30分〜1時間で増悪
- 慢性胃炎:食後の膨満感、鈍痛
- 胆石症:脂肪分の多い食事後に右上腹部痛
食事で改善する胃痛
- 十二指腸潰瘍:空腹時痛が食事で速やかに軽減
- 胃酸過多:食事により胃酸が中和され軽減
食事と無関係な胃痛
- 胃がん:持続的な痛み
- 膵炎・膵臓がん:持続的な痛み
- 機能性ディスペプシア:食事との関連が不定
第3章 胃痛の主な原因疾患
3.1 胃・十二指腸潰瘍
胃潰瘍
胃潰瘍は、胃粘膜の防御機能が低下し、胃酸により粘膜が傷つき潰瘍が形成される疾患です。
症状:
- 食後30分〜1時間のみぞおち痛(鈍痛〜鋭痛)
- 吐き気、食欲不振
- 吐血、下血(出血性潰瘍)
原因:
- ピロリ菌感染(約60〜70%)
- NSAIDs(ロキソニン、アスピリン等)の長期服用
- ストレス(重症疾患、手術後等)
十二指腸潰瘍
十二指腸潰瘍は、胃酸の過剰分泌により十二指腸粘膜が傷つき潰瘍が形成される疾患です。
症状:
- 空腹時・夜間のみぞおち痛(鋭痛)
- 食事により痛みが軽減
- 下血(タール便)
原因:
- ピロリ菌感染(約90〜95%)
- 胃酸過剰分泌
- ストレス
胃潰瘍 vs 十二指腸潰瘍の鑑別:
| 項目 | 胃潰瘍 | 十二指腸潰瘍 |
|---|---|---|
| 好発年齢 | 50〜60歳代 | 30〜40歳代 |
| 痛みの時間帯 | 食後30分〜1時間 | 空腹時、夜間 |
| 食事の影響 | 食事で悪化 | 食事で改善 |
| ピロリ菌感染率 | 60〜70% | 90〜95% |
| がん化リスク | あり(特に高齢者) | ほとんどなし |
3.2 胃炎
急性胃炎
急性胃炎は、胃粘膜の急性炎症です。
症状:
- 突然のみぞおち痛
- 吐き気、嘔吐
- 食欲不振
原因:
- アルコール過剰摂取
- 刺激物(辛いもの、カフェイン等)の過剰摂取
- NSAIDs、ステロイドなどの薬剤
- ストレス
- 食中毒
慢性胃炎
慢性胃炎は、胃粘膜の慢性的な炎症です。
症状:
- 持続的な鈍痛
- 膨満感
- 食後の不快感
- 食欲不振
原因:
- ピロリ菌感染(最多)
- 加齢による胃粘膜の萎縮
- 自己免疫性胃炎
3.3 機能性ディスペプシア(FD)
機能性ディスペプシア(Functional Dyspepsia: FD)は、胃カメラ検査で明らかな異常が認められないにもかかわらず、慢性的な上腹部症状が持続する疾患です。日本人の約10〜15%が罹患しているとされます。
症状:
- 食後の膨満感(食後愁訴症候群:PDS)
- 早期満腹感(少量の食事ですぐ満腹)
- 心窩部痛(心窩部痛症候群:EPS)
- 心窩部灼熱感
原因・メカニズム:
- 胃の運動機能異常(胃排出遅延、胃適応性弛緩障害)
- 内臓知覚過敏
- 胃酸分泌異常
- ストレス、心理社会的要因
- ピロリ菌感染(一部の症例)
診断基準(Rome IV基準):
以下の症状のうち1つ以上が、週に数回以上、6か月以上前から出現し、最近3か月間持続している:
- 食後の膨満感
- 早期満腹感
- 心窩部痛
- 心窩部灼熱感
かつ、胃カメラ検査で症状を説明できる器質的疾患が認められない。
3.4 胃がん
胃がんは、日本人のがん死亡原因第3位です。早期胃がんは無症状のことが多く、進行胃がんで症状が出現します。
症状:
- 持続的なみぞおち痛(鈍痛)
- 食欲不振
- 体重減少
- 吐き気、嘔吐
- 吐血、下血(進行例)
- 腹部腫瘤の触知(進行例)
リスク因子:
- ピロリ菌感染
- 慢性萎縮性胃炎
- 胃がんの家族歴
- 塩分の多い食事
- 喫煙
- 50歳以上
重要:40歳以上で初めての胃痛、または胃痛のパターンが変化した場合は、胃がんの可能性を考慮し、必ず胃カメラ検査を受けてください。
3.5 逆流性食道炎
逆流性食道炎は、胃酸が食道に逆流し、食道粘膜に炎症が生じる疾患です。
症状:
- 胸やけ(みぞおち〜胸部の灼熱痛)
- 呑酸(酸っぱい液体が上がってくる感覚)
- 食後や就寝時に症状が悪化
- 前かがみの姿勢で増悪
原因:
- 下部食道括約筋の機能低下
- 肥満(腹圧上昇)
- 食道裂孔ヘルニア
- 脂肪分の多い食事
- 加齢
3.6 ストレス性胃痛(急性胃粘膜病変:AGML)
ストレス性胃痛は、強いストレスにより胃酸分泌が亢進し、胃粘膜に急性の炎症や潰瘍が生じる状態です。
症状:
- 突然のみぞおち痛
- 吐き気
- 食欲不振
- 吐血、下血(重症例)
原因:
- 精神的ストレス
- 身体的ストレス(手術、外傷、熱傷、重症疾患等)
- 不規則な生活、睡眠不足
3.7 その他の原因
膵炎
- 急性膵炎:上腹部全体の激痛、背中に抜ける放散痛、発熱
- 慢性膵炎:持続的な鈍痛、背部痛
胆石症・胆のう炎
- 右上腹部の激痛
- 脂肪分の多い食事後に増悪
- 発熱、黄疸
心筋梗塞
- みぞおちの圧迫痛
- 冷や汗、呼吸困難
- 左肩〜腕への放散痛
注意:高齢者や糖尿病患者では、心筋梗塞が「胃痛」として現れることがあります。
第4章 危険な胃痛と緊急度判断
4.1 緊急度の高い胃痛(直ちに救急受診)
以下の症状を伴う胃痛は、生命に関わる可能性があり、直ちに救急外来を受診する必要があります:
突然の激痛
- 胃・十二指腸潰瘍穿孔:突然の激しいみぞおち痛、板状硬(腹筋が硬直)
- 急性膵炎:上腹部全体の激痛、背中に抜ける放散痛
- 腹部大動脈瘤破裂:突然の激しい腹痛、ショック症状
ショック症状を伴う胃痛
- 冷や汗
- 顔面蒼白
- 血圧低下
- 意識障害
原因疾患:胃・十二指腸潰瘍出血、食道静脈瘤破裂、腹部大動脈瘤破裂
吐血・大量の下血
- コーヒー残渣様の吐物
- 鮮血の吐血
- タール便(黒色便)
原因疾患:胃・十二指腸潰瘍出血、胃がん出血、食道静脈瘤破裂
呼吸困難・冷や汗を伴う胸〜上腹部痛
原因疾患:心筋梗塞、狭心症
特に高齢者、糖尿病患者、心疾患の既往がある方は要注意です。
4.2 数日以内に受診すべき胃痛
以下の症状を伴う胃痛は、数日以内に消化器内科を受診する必要があります:
持続する胃痛(1週間以上)
- 胃潰瘍、十二指腸潰瘍
- 慢性胃炎
- 胃がん
体重減少を伴う胃痛
- 1〜2か月で5kg以上の体重減少
- 意図しない食欲不振
原因疾患:胃がん、膵臓がん、慢性膵炎
貧血症状を伴う胃痛
- めまい、立ちくらみ
- 動悸、息切れ
- 顔面蒼白
原因疾患:胃・十二指腸潰瘍の慢性出血、胃がん
40歳以上で初めての胃痛
40歳以上で初めて胃痛が出現した場合、または胃痛のパターンが変化した場合は、胃がんの可能性を考慮し、胃カメラ検査が必要です。
4.3 1〜2週間以内に受診すべき胃痛
以下の胃痛は、1〜2週間以内に消化器内科を受診してください:
- 市販薬で改善しない胃痛(1週間以上)
- 繰り返す胃痛
- ストレスと関連する胃痛(機能性ディスペプシアの疑い)
- 食後の膨満感、早期満腹感が持続
4.4 緊急度判断のフローチャート
- 突然の激痛、ショック症状、吐血、呼吸困難あり → 直ちに救急外来受診
- 持続する胃痛、体重減少、貧血症状、40歳以上で初めての胃痛あり → 数日以内に消化器内科受診
- 市販薬で改善しない胃痛、繰り返す胃痛 → 1〜2週間以内に消化器内科受診
4.5 年齢別の胃痛リスク
若年者(20〜39歳)
主な原因:急性胃炎、ストレス性胃痛、機能性ディスペプシア、逆流性食道炎
注意点:若年者でも十二指腸潰瘍は起こりうる。ピロリ菌感染の有無を確認
中年(40〜59歳)
主な原因:胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がん、機能性ディスペプシア
注意点:胃がんの発症率が急増する年代。初めての胃痛や胃痛パターンの変化は必ず精査が必要
高齢者(60歳以上)
主な原因:胃がん、胃潰瘍、慢性萎縮性胃炎、心筋梗塞
注意点:NSAIDs服用による薬剤性潰瘍のリスク増加。心筋梗塞が「胃痛」として現れることがある
第5章 胃痛の診断と検査
5.1 問診と身体診察
問診の重要性
胃痛の診断において、詳細な問診は極めて重要です。以下の項目を確認します:
- 痛みの部位:みぞおち、左上腹部、右上腹部
- 痛みの性質:鈍痛、鋭痛、灼熱痛、痙攣痛
- 痛みの時間帯:空腹時、食後、夜間、持続痛
- 食事との関係:食事で悪化、改善、無関係
- 随伴症状:吐き気、嘔吐、胸やけ、吐血、下血、体重減少
- 既往歴:胃潰瘍、ピロリ菌感染、胃がんの家族歴
- 服薬歴:NSAIDs、ステロイド、抗血栓薬
- 生活歴:飲酒、喫煙、ストレス、食生活
身体診察
- 腹部診察:圧痛、筋性防御、腫瘤の触知
- バイタルサイン:血圧、脈拍、体温
- 貧血の有無:眼瞼結膜の蒼白
5.2 血液検査
一般血液検査
- 血算(CBC):ヘモグロビン(貧血の評価)、白血球数(炎症・感染の評価)
- 炎症マーカー:CRP、赤沈(炎症の程度)
- 肝機能・腎機能:全身状態の評価
- 膵酵素:アミラーゼ、リパーゼ(膵炎の評価)
腫瘍マーカー
- CEA:胃がん、大腸がんで上昇
- CA19-9:膵臓がん、胆道がんで上昇
注意:腫瘍マーカーは、早期がんでは上昇しないことが多く、スクリーニングには不向きです。
ピロリ菌検査
- 抗体検査:血液検査でピロリ菌感染歴を確認
- 尿素呼気試験:現在のピロリ菌感染を診断(最も正確)
- 便中抗原検査:現在のピロリ菌感染を診断
5.3 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)【最も重要】
胃カメラ検査は、胃痛の原因診断において最も重要かつ確実な検査です。
胃カメラ検査の利点
- 直接観察:胃・十二指腸粘膜を直接観察し、病変を特定できる
- 組織生検:疑わしい病変から組織を採取し、病理診断が可能
- ピロリ菌検査:胃粘膜からピロリ菌感染を診断
- 早期がん発見:無症状の早期胃がんを発見できる
胃カメラ検査の適応
以下の場合は、胃カメラ検査が必須です:
- 持続する胃痛(1週間以上)
- 40歳以上で初めての胃痛
- 胃痛のパターンが変化した場合
- 体重減少、貧血を伴う胃痛
- 吐血、下血の既往
- 胃がんの家族歴がある場合
- ピロリ菌感染が確認された場合
胃カメラ検査の流れ
- 検査前日:夜9時以降は絶食
- 検査当日朝:絶食(水は検査2時間前まで可)
- 検査前処置:胃内の泡を消す薬、咽頭麻酔(経口の場合)
- 検査:鎮静剤使用により苦痛を軽減、検査時間は5〜10分程度
- 検査後の安静:鎮静剤使用時は30分〜1時間安静
- 結果説明:検査終了後、画像を見ながら結果説明
経口内視鏡 vs 経鼻内視鏡
| 項目 | 経口内視鏡 | 経鼻内視鏡 |
|---|---|---|
| 挿入経路 | 口から挿入 | 鼻から挿入 |
| スコープ径 | 約9〜10mm | 約5〜6mm |
| 嘔吐反射 | 起こりやすい | 起こりにくい |
| 会話 | 困難 | 可能 |
| 画質 | 高画質 | やや劣る |
| 組織生検 | 容易 | やや困難 |
5.4 その他の検査
腹部超音波検査
肝臓、胆のう、膵臓、腎臓などの評価に有用です。胆石、胆のう炎、膵炎の診断に有効です。
腹部CT検査
膵炎、膵臓がん、腹部大動脈瘤などの診断に有用です。胃がんの進行度診断にも使用されます。
心電図
心筋梗塞、狭心症の除外診断のために実施します。
5.5 検査の選択フローチャート
- 持続する胃痛、40歳以上の胃痛 → 胃カメラ検査(第一選択)
- 右上腹部痛、発熱 → 腹部超音波検査(胆石、胆のう炎の評価)
- 上腹部全体の激痛、背部痛 → 腹部CT検査(膵炎の評価)
- 高齢者、糖尿病患者の胃痛+冷や汗 → 心電図(心筋梗塞の除外)
第6章 原因疾患別の治療法
6.1 胃・十二指腸潰瘍の治療
薬物療法
プロトンポンプ阻害薬(PPI):
- 胃酸分泌を強力に抑制(オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾール等)
- 1日1回、4〜8週間投与
- 潰瘍治癒率:約90%
H2受容体拮抗薬(H2ブロッカー):
- 胃酸分泌を抑制(ファモチジン、ラニチジン等)
- PPIより効果はやや劣るが、副作用が少ない
ピロリ菌除菌療法:
ピロリ菌感染が確認された場合、除菌療法を実施します:
- PPI + アモキシシリン + クラリスロマイシン(1次除菌)
- 7日間服用
- 除菌成功率:約75〜85%
- 除菌後、潰瘍再発率は約5%以下に低下
生活習慣改善
- 禁煙(喫煙は潰瘍治癒を遅延)
- 節酒(アルコールは胃粘膜を刺激)
- ストレス管理
- NSAIDsの中止または変更
- 規則正しい食生活
外科的治療
以下の場合、手術が必要です:
- 潰瘍穿孔(緊急手術)
- 大量出血が止まらない場合
- 幽門狭窄(胃の出口が狭くなる)
- 薬物治療抵抗性潰瘍
6.2 胃炎の治療
急性胃炎
- 原因除去:アルコール、刺激物、原因薬剤の中止
- 制酸薬:PPI、H2ブロッカー
- 胃粘膜保護薬:レバミピド、テプレノン
- 安静・絶食:重症例
慢性胃炎
- ピロリ菌除菌:ピロリ菌感染が確認された場合
- 胃粘膜保護薬:症状緩和
- 定期的な胃カメラ:胃がんの早期発見(年1回〜2年に1回)
6.3 機能性ディスペプシアの治療
機能性ディスペプシアは、明確な器質的異常がないため、症状に応じた対症療法が中心です。
薬物療法
消化管運動機能改善薬:
- アコチアミド(アコファイド):胃排出促進、早期満腹感・食後膨満感に有効
- モサプリド(ガスモチン):胃排出促進
酸分泌抑制薬:
- PPI:心窩部痛、心窩部灼熱感に有効
- H2ブロッカー:PPIより効果は劣るが、副作用少ない
漢方薬:
- 六君子湯(りっくんしとう):食後膨満感、早期満腹感に有効
- 半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう):胃もたれ、吐き気に有効
抗不安薬・抗うつ薬:
- ストレスや不安が強い場合に使用
生活習慣改善
- 規則正しい食生活(1日3食、よく噛む)
- 脂肪分の多い食事を避ける
- ストレス管理(適度な運動、十分な睡眠)
- 禁煙
- 節酒
心理療法
- 認知行動療法
- リラクセーション療法
6.4 胃がんの治療
胃がんの治療は、ステージ(進行度)により異なります。
早期胃がん(ステージ0〜I)
- 内視鏡的切除:内視鏡的粘膜切除術(EMR)、内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)
- 外科的切除:腹腔鏡下胃切除術、開腹胃切除術
進行胃がん(ステージ II〜III)
- 外科的切除:リンパ節郭清を伴う胃切除術
- 術後補助化学療法:再発予防
転移性胃がん(ステージ IV)
- 化学療法:多剤併用療法、分子標的薬
- 緩和手術:通過障害の改善
5年生存率:
- ステージ I:約95%
- ステージ II:約65%
- ステージ III:約40%
- ステージ IV:約7%
重要:早期発見・早期治療により、胃がんの治癒率は大幅に向上します。定期的な胃カメラ検査が推奨されます。
6.5 逆流性食道炎の治療
薬物療法
- PPI:第一選択、4〜8週間投与
- H2ブロッカー:軽症例、維持療法
生活習慣改善
- 減量(肥満の場合)
- 食後2〜3時間は横にならない
- 就寝時の上体挙上(枕を高くする)
- 脂肪分の多い食事、コーヒー、アルコール、チョコレートを避ける
- 禁煙
外科的治療
- 薬物治療抵抗例、重度の食道裂孔ヘルニアの場合、腹腔鏡下噴門形成術
第7章 ストレス性胃痛の管理
7.1 ストレスと胃痛のメカニズム
ストレスは、自律神経(交感神経・副交感神経)のバランスを乱し、胃の機能に以下の影響を与えます:
- 胃酸分泌の亢進:交感神経優位により胃酸分泌が増加
- 胃粘膜血流の低下:交感神経優位により血管収縮、胃粘膜の防御機能低下
- 胃運動機能の異常:副交感神経優位により胃の蠕動運動が低下
7.2 ストレス性胃痛の特徴
- 仕事や人間関係のストレスが強い時期に出現
- ストレスから離れると症状が改善
- 週末や休暇中は症状が軽減
- 胃カメラ検査で明らかな異常が認められないことが多い
7.3 ストレス性胃痛の対処法
ストレス管理
- ストレス源の特定と回避:可能であればストレス源を減らす
- 適度な運動:ウォーキング、ジョギング、ヨガ等(週3回、30分以上)
- 十分な睡眠:7〜8時間の睡眠確保
- リラクセーション:深呼吸、瞑想、アロマセラピー
- 趣味・余暇活動:ストレス発散
薬物療法
- 制酸薬:PPI、H2ブロッカー(症状緩和)
- 胃粘膜保護薬:レバミピド、テプレノン
- 抗不安薬:不安が強い場合(短期間)
- 漢方薬:六君子湯、半夏瀉心湯
食事療法
- 規則正しい食生活(1日3食)
- よく噛んでゆっくり食べる
- 刺激物を避ける(辛いもの、コーヒー、アルコール)
- 脂肪分の多い食事を控える
心理療法
- 認知行動療法
- カウンセリング
7.4 職場でのストレス対策
- 休憩時間の確保(1時間に5〜10分)
- 上司や同僚とのコミュニケーション
- 業務の優先順位付け、時間管理
- 必要に応じて産業医に相談
第8章 受診のタイミングと準備
8.1 即座に救急外来を受診すべき場合
- 突然の激しい上腹部痛
- 冷や汗、顔面蒼白、意識障害(ショック症状)
- 吐血(コーヒー残渣様、または鮮血)
- タール便(黒色便)
- 呼吸困難を伴う胸〜上腹部痛
8.2 数日以内に受診すべき場合
- 持続する胃痛(1週間以上)
- 体重減少を伴う胃痛
- 貧血症状を伴う胃痛
- 40歳以上で初めての胃痛
- 胃痛のパターンが変化した場合
8.3 1〜2週間以内に受診すべき場合
- 市販薬で改善しない胃痛(1週間以上)
- 繰り返す胃痛
- ストレスと関連する胃痛
- 食後の膨満感、早期満腹感が持続
8.4 受診時に伝えるべき情報
痛みの特徴
- 部位(みぞおち、左上腹部、右上腹部)
- 性質(鈍痛、鋭痛、灼熱痛、痙攣痛)
- 時間帯(空腹時、食後、夜間、持続痛)
- 持続期間(いつから痛みが始まったか)
随伴症状
- 吐き気、嘔吐の有無
- 胸やけ、呑酸の有無
- 吐血、下血の有無
- 体重変化
既往歴・家族歴
- 胃潰瘍、ピロリ菌感染の既往
- 胃がんの家族歴
服薬歴
- NSAIDs(ロキソニン、アスピリン等)
- ステロイド
- 抗血栓薬
生活歴
- 飲酒、喫煙の有無・量
- 食生活(刺激物、脂肪分の多い食事)
- ストレスの程度
8.5 胃カメラ検査の準備
検査前日
- 夜9時以降は絶食
- 消化の良い食事を心がける
- アルコールは控える
検査当日朝
- 絶食(水は検査2時間前まで可)
- 服薬中の薬は医師の指示に従う(血圧の薬は通常服用可)
検査当日の注意
- 鎮静剤使用の場合、車・バイク・自転車の運転禁止
- 付き添いの方と一緒に来院することを推奨
8.6 市販薬の使用について
市販の胃薬の種類
- 制酸薬:胃酸を中和(ガスター10、太田胃散等)
- 胃粘膜保護薬:胃粘膜を保護(セルベール等)
- 消化酵素薬:消化を助ける(エビオス錠等)
- 総合胃腸薬:複数成分を配合(キャベジンα等)
市販薬使用の注意点
- 市販薬で改善しない胃痛(1週間以上)は必ず受診
- 吐血、下血がある場合は市販薬を使用せず直ちに受診
- 40歳以上の初めての胃痛は、市販薬で様子を見ず受診
- 市販薬の長期使用は避ける(症状を隠し、診断を遅らせる可能性)
第9章 FAQ(よくある質問)
Q1. 胃痛が出たら必ず病院に行かなければいけませんか?
A. 胃痛の原因は多岐にわたり、一過性のものから重篤な疾患まで様々です。突然の激痛、吐血、下血を伴う場合は直ちに救急受診が必要です。持続する胃痛(1週間以上)、体重減少を伴う胃痛、40歳以上で初めての胃痛の場合は、数日以内に消化器内科を受診してください。市販薬で改善しない胃痛も、必ず医療機関を受診してください。
Q2. 胃潰瘍と十二指腸潰瘍はどう違いますか?
A. 胃潰瘍は食後30分〜1時間に痛みが出現し、食事により悪化します。十二指腸潰瘍は空腹時や夜間に痛みが出現し、食事により改善します。胃潰瘍は50〜60歳代に多く、十二指腸潰瘍は30〜40歳代に多いです。両者ともピロリ菌感染が主な原因ですが、十二指腸潰瘍の方がピロリ菌感染率が高い(90〜95%)です。
Q3. 胃カメラ検査は痛いですか?
A. 当院では鎮静剤を使用した胃カメラ検査を行っており、ほとんどの患者さんは苦痛をほとんど感じずに検査を受けられます。鎮静剤により「うとうとした状態」または「眠った状態」で検査を受けることができます。検査時間は通常5〜10分程度です。経鼻内視鏡を選択することで、嘔吐反射が少なく、会話も可能です。
Q4. ストレス性の胃痛はどうすればよいですか?
A. ストレス性胃痛の対処には、ストレス管理が最も重要です。適度な運動、十分な睡眠、リラクセーション(深呼吸、瞑想等)、趣味・余暇活動でストレスを発散しましょう。薬物療法としては、制酸薬(PPI、H2ブロッカー)、胃粘膜保護薬、漢方薬(六君子湯等)が有効です。症状が持続する場合は、機能性ディスペプシアの可能性もあるため、消化器内科を受診してください。
Q5. ピロリ菌の除菌は必要ですか?
A. はい、ピロリ菌感染が確認された場合、除菌治療を強く推奨します。ピロリ菌は胃・十二指腸潰瘍の主要な原因であり、除菌により潰瘍再発率が約5%以下に低下します。また、ピロリ菌感染は胃がんのリスクを約5倍に増加させるため、除菌により胃がんリスクを低減できます。除菌治療は1週間の内服で完了し、除菌成功率は約75〜85%です。
Q6. 胃痛に効く食べ物はありますか?
A. 胃に優しい食べ物として、消化の良いもの(お粥、うどん、白身魚、鶏ささみ、豆腐等)を推奨します。キャベツにはビタミンU(キャベジン)が含まれ、胃粘膜の修復を助けます。大根には消化酵素(ジアスターゼ)が含まれ、消化を助けます。一方、刺激物(辛いもの、コーヒー、アルコール、炭酸飲料)、脂肪分の多い食事は避けてください。
Q7. 空腹時の胃痛はどうすればよいですか?
A. 空腹時の胃痛は十二指腸潰瘍の典型的な症状です。少量の食事(クラッカー、バナナ等)で一時的に症状が軽減しますが、これは対症療法に過ぎません。十二指腸潰瘍は適切な治療(PPI、ピロリ菌除菌)により治癒可能な疾患です。空腹時痛が繰り返す場合は、必ず消化器内科を受診し、胃カメラ検査を受けてください。
Q8. 胃がんの症状はどのようなものですか?
A. 早期胃がんは無症状のことが多く、進行胃がんで症状が出現します。主な症状は、持続的なみぞおち痛、食欲不振、体重減少、吐き気、嘔吐です。進行例では吐血、下血、腹部腫瘤の触知が認められます。40歳以上で初めての胃痛、または胃痛のパターンが変化した場合は、胃がんの可能性を考慮し、必ず胃カメラ検査を受けてください。
Q9. 食後の胃痛はどうすればよいですか?
A. 食後30分〜1時間の胃痛は胃潰瘍の典型的な症状です。また、食後の膨満感、早期満腹感は機能性ディスペプシアの可能性があります。脂肪分の多い食事後の右上腹部痛は胆石症・胆のう炎を疑います。食後痛が持続する場合は、消化器内科を受診し、胃カメラ検査や腹部超音波検査を受けてください。
Q10. NSAIDs(痛み止め)を飲むと胃が痛くなります。どうすればよいですか?
A. NSAIDs(ロキソニン、ボルタレン等)は胃粘膜を傷つけ、胃潰瘍のリスクを増加させます。NSAIDsを服用する場合は、胃粘膜保護薬(レバミピド等)やPPIを併用してください。長期服用が必要な場合は、主治医に相談し、より胃に優しい薬剤(セレコキシブ等のCOX-2選択的阻害薬)への変更を検討してください。胃痛が持続する場合は、胃カメラ検査で潰瘍の有無を確認してください。
Q11. 胃痛と心臓病の関係はありますか?
A. はい、心筋梗塞や狭心症が「胃痛」として現れることがあります。特に高齢者や糖尿病患者では、典型的な胸痛ではなく、みぞおちの痛みとして自覚されることがあります。冷や汗、呼吸困難、左肩〜腕への放散痛を伴う上腹部痛の場合は、直ちに救急受診し、心電図検査を受けてください。
Q12. 胃カメラ検査の頻度はどれくらいですか?
A. 検査頻度は、リスク因子により異なります:①ピロリ菌未感染、胃炎なし→3〜5年に1回、②ピロリ菌除菌後、軽度胃炎→2〜3年に1回、③慢性萎縮性胃炎、腸上皮化生→年1回、④胃がんの家族歴あり→年1回、⑤早期胃がん内視鏡治療後→半年〜1年に1回。40歳以上は、症状がなくても一度は胃カメラ検査を受けることを推奨します。
第10章 まとめ
10.1 胃痛の重要性
胃痛は極めて頻度の高い症状であり、日本人の約3割が年に1回以上の胃痛を経験しています。その原因は、ストレスによる一過性のものから、胃潰瘍や胃がんのような重篤な疾患まで多岐にわたります。
30年以上の消化器外科臨床経験から強調したいことは、「たかが胃痛」と軽視することは極めて危険だということです。特に40歳以上で初めての胃痛、または胃痛のパターンが変化した場合は、胃がんの可能性を考慮し、必ず胃カメラ検査による精査が必要です。
10.2 胃痛の部位と時間帯
胃痛の部位と時間帯は、原因疾患の重要な手がかりです:
- 食後痛(食後30分〜1時間):胃潰瘍、慢性胃炎
- 空腹時痛(早朝・食前):十二指腸潰瘍
- 夜間痛:十二指腸潰瘍、逆流性食道炎
- 持続痛:胃がん、膵炎、膵臓がん
10.3 胃カメラ検査の重要性
胃痛の原因診断において、胃カメラ検査は最も重要かつ確実な検査です。胃カメラ検査により、胃・十二指腸粘膜を直接観察し、潰瘍、がん、炎症などの病変を正確に診断できます。
40歳以上で初めて胃痛が出現した場合、または胃痛のパターンが変化した場合は、必ず胃カメラ検査を受けてください。早期胃がんは無症状のことが多く、定期的な胃カメラ検査により早期発見が可能です。
10.4 ピロリ菌除菌の重要性
ピロリ菌は、胃・十二指腸潰瘍の主要な原因であり、胃がんのリスクを約5倍に増加させます。ピロリ菌感染が確認された場合、除菌治療により潰瘍再発率が大幅に低下し、胃がんリスクも低減できます。
10.5 早期発見・早期治療の重要性
胃がんは、早期発見・早期治療により治癒率が大幅に向上します:
- ステージ I:5年生存率約95%(内視鏡的切除で完治可能)
- ステージ II:5年生存率約65%
- ステージ III:5年生存率約40%
- ステージ IV:5年生存率約7%
早期発見のためには、40歳以上は症状がなくても定期的な胃カメラ検査が推奨されます。
10.6 ストレス管理の重要性
ストレスは胃痛の重要な原因の一つです。適度な運動、十分な睡眠、リラクセーション、趣味・余暇活動により、ストレスを適切に管理しましょう。ストレス性胃痛が持続する場合は、機能性ディスペプシアの可能性もあるため、消化器内科を受診してください。
10.7 当院での診療体制
当院では、胃痛の診断・治療に関して以下の体制を整えています:
- 消化器専門医による診察:30年以上の臨床経験を持つ消化器外科専門医が診察
- 鎮静剤を使用した苦痛の少ない胃カメラ検査:ほとんどの患者さんが苦痛をほとんど感じずに検査可能
- 経鼻内視鏡検査:嘔吐反射が少なく、会話も可能
- ピロリ菌検査・除菌治療:胃潰瘍・十二指腸潰瘍の根本治療、胃がん予防
- 機能性ディスペプシアの専門治療:薬物療法、生活指導、心理療法
10.8 最後に
胃痛は、決して「たかが胃痛」と軽視してはいけない症状です。胃痛の背後には、胃潰瘍や胃がんなどの重篤な疾患が隠れていることがあります。
持続する胃痛、体重減少を伴う胃痛、40歳以上で初めての胃痛の場合は、必ず消化器内科を受診し、胃カメラ検査を受けてください。早期発見・早期治療により、胃がんも治癒可能な疾患です。
当院では、患者さん一人ひとりに寄り添った丁寧な診察と、最新の内視鏡技術による正確な診断を提供しています。胃痛でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
消化器外科専門医・医学博士
医療法人社団康悦会 理事長
佐藤靖郎