胃潰瘍の症状を医学博士が徹底解説|腹痛・吐血から無症状まで完全ガイド
はじめに
「みぞおちが痛い」「空腹時に胃が痛む」「黒い便が出た」――このような症状でお悩みではありませんか?
胃潰瘍(Gastric Ulcer)は、胃の粘膜が深く傷つき、筋層にまで達する潰瘍(えぐれた傷)ができる疾患です。消化性潰瘍の一つで、十二指腸潰瘍とともに非常に多くの方が罹患しています。
📊 胃潰瘍の実態データ
- 有病率: 日本人の生涯罹患率 約10%(約1,000万人が経験)
- 年間発症者: 約50~100万人
- 男女比: 男性が女性の約2~3倍
- 発症年齢: 40~60代に多い(近年は高齢化傾向)
- 主要原因: ピロリ菌感染(約70~80%)、NSAIDs(約10~20%)
- 合併症発生率: 出血 15~20%、穿孔 2~5%
- 再発率: ピロリ菌除菌なしで約50~70%/年
医学博士として30年以上の臨床経験を持つ私が、胃潰瘍の典型的症状、合併症の危険サイン、ピロリ菌との関係、最新の診断・治療法まで、エビデンスに基づいて徹底解説します。
胃潰瘍とは?
定義
胃潰瘍は、胃の粘膜に生じる深い傷(潰瘍)で、粘膜下層から筋層にまで達する欠損を指します。
🔍 胃壁の構造
胃壁は内側から外側に向かって以下の層で構成されています:
- 粘膜層(最も内側)
- 胃酸や粘液を分泌
- びらん:粘膜層のみの浅い傷
- 粘膜下層
- 筋層
- 潰瘍:粘膜下層~筋層に達する深い傷
- 漿膜層(最も外側)
※ 潰瘍が筋層を貫通し、漿膜まで達すると穿孔(せんこう)という重篤な合併症になります
胃潰瘍と十二指腸潰瘍の違い
| 項目 | 胃潰瘍 | 十二指腸潰瘍 |
|---|---|---|
| 発生部位 | 胃(特に胃角部・前庭部) | 十二指腸球部 |
| 好発年齢 | 40~60代 | 20~40代 |
| 痛みの時期 | 食後30分~2時間 | 空腹時、夜間 |
| 食事の影響 | 食後に悪化 | 食事で改善 |
| 男女比 | 男性 2~3:女性 1 | 男性 3~4:女性 1 |
| 悪性化 | 稀にあり(胃がん) | ほぼなし |
胃潰瘍の分類
Sakita分類(活動期分類)
内視鏡所見による潰瘍の活動性・治癒段階の分類:
| ステージ | 所見 | 特徴 |
|---|---|---|
| A1(活動期) | 潰瘍底に壊死物質付着 | 急性期、出血リスク高 |
| A2(活動期) | 壊死物質減少、白苔形成 | 活動期、炎症強い |
| H1(治癒期) | 潰瘍底が清浄化 | 治癒開始 |
| H2(治癒期) | 潰瘍縮小、赤色瘢痕 | 治癒進行中 |
| S1(瘢痕期) | 白色瘢痕、周囲粘膜集中 | 治癒完了 |
| S2(瘢痕期) | 瘢痕が平坦化 | 完全治癒 |
胃潰瘍の原因
胃潰瘍は、胃粘膜の「攻撃因子」と「防御因子」のバランス崩壊によって発症します。
⚖️ 攻撃因子 vs 防御因子
攻撃因子(胃粘膜を傷つける)
- 胃酸(塩酸)
- ペプシン(消化酵素)
- ピロリ菌
- NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)
- ストレス
防御因子(胃粘膜を守る)
- 粘液(ムチン)
- 重炭酸イオン(胃酸を中和)
- 粘膜血流
- プロスタグランジン
→ 攻撃因子 > 防御因子 の状態が続くと潰瘍が形成される
主要原因
1. ヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobacter pylori)感染
- 原因の70~80%を占める
- 作用機序:
- ピロリ菌が胃粘膜に感染→慢性炎症→粘膜の防御機能低下
- ウレアーゼ産生→アンモニア生成→粘膜障害
- 胃酸分泌の増加
- 感染率: 日本人の40代以上で約50~70%(若年層は低下傾向)
- 除菌の重要性: 除菌により再発率が約90%減少
2. NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)
- 原因の10~20%を占める
- 代表的な薬剤: アスピリン、イブプロフェン、ロキソプロフェン(ロキソニン)、インドメタシンなど
- 作用機序: プロスタグランジン合成阻害→胃粘膜の防御機能低下→潰瘍形成
- リスク因子:
- 長期使用(特に高齢者)
- 高用量
- ピロリ菌感染との併存
- 抗凝固薬(ワーファリンなど)との併用
3. ストレス
- 急性ストレス潰瘍: 重症疾患(熱傷、頭部外傷、敗血症など)、手術後
- 慢性ストレス: 精神的ストレスが持続→胃酸分泌増加、粘膜血流低下
- 関連記事: ストレスと胃痛の関係
4. その他の要因
- 喫煙: 粘膜血流低下、治癒遅延、再発率上昇
- 過度な飲酒: 胃粘膜刺激、胃酸分泌増加
- 不規則な食生活: 過食、早食い、刺激物
- 遺伝的要因: 家族歴がある人はリスク増加
- 血液型O型: 胃潰瘍のリスクが約1.3倍(統計的関連)
リスク因子
| リスク因子 | リスク増加 |
|---|---|
| ピロリ菌感染 | 約3~6倍 |
| NSAIDs長期使用 | 約4~5倍 |
| 喫煙 | 約2倍 |
| 過度な飲酒 | 約1.5~2倍 |
| 高齢(65歳以上) | リスク増加 |
| 家族歴 | 約2~3倍 |
胃潰瘍の症状
典型的症状
1. 心窩部痛(上腹部痛)
胃潰瘍の最も代表的な症状
- 場所: みぞおち(心窩部)の痛み
- 性質:
- 鈍痛、キリキリする、重苦しい
- ズキズキする、差し込むような痛み
- 出現時期: 食後30分~2時間に多い(胃潰瘍の特徴)
- 食事が胃に入る→胃酸分泌増加→潰瘍部を刺激→痛み
- 持続時間: 数十分~数時間
- 頻度: 胃潰瘍患者の約60~70%に出現
2. 腹部不快感・膨満感
- 胃がもたれる、張った感じ
- 食後の不快感
- 関連記事: 胃もたれ解消法
3. 悪心・嘔吐
- 吐き気、嘔吐
- 食欲不振
4. 胸やけ・呑酸
- 胃酸が食道に逆流する症状
- 胃潰瘍と逆流性食道炎が合併することもある
- 関連記事: 逆流性食道炎の症状
5. 体重減少
- 食後の痛みを恐れて食事量が減少
- 食欲不振
⚠️ 重要:無症状の胃潰瘍
胃潰瘍患者の約20~30%は症状がない(無症候性潰瘍)ことがあります。特に以下の場合に多い:
- 高齢者(痛覚が鈍くなる)
- NSAIDs服用者(痛みを感じにくい)
- 糖尿病患者(神経障害)
→ 症状がなくても、突然の合併症(出血、穿孔)で発見されることがあり、注意が必要です
症状の経過
- 急性期: 激しい痛み、悪心・嘔吐
- 慢性期: 症状が軽くなったり悪化したりを繰り返す
- 季節性: 春・秋に悪化しやすい(季節変化、ストレス)
胃潰瘍の合併症
胃潰瘍の合併症は生命に関わることがあり、早期発見・治療が極めて重要です。
1. 出血(消化管出血)
胃潰瘍の最も頻度の高い合併症(約15~20%)
症状
- 吐血(とけつ):
- 鮮紅色の血(大量出血、動脈性)
- コーヒー残渣様(黒褐色の血、胃酸で変色)
- 黒色便(タール便、下血):
- 便が真っ黒でタール状(血液が消化された)
- 悪臭を伴う
- 貧血症状: めまい、ふらつき、動悸、息切れ、顔色不良
- ショック: 血圧低下、頻脈、冷や汗(大量出血時)
対応
- 🚨 吐血・黒色便があれば、すぐに救急車を呼ぶ
- 緊急内視鏡検査で止血術(クリッピング、焼灼術など)
- 輸血、輸液
2. 穿孔(せんこう、Perforation)
潰瘍が胃壁を貫通し、胃の内容物が腹腔に漏れ出る重篤な合併症(約2~5%)
症状
- 激しい腹痛: 突然の、耐え難い上腹部痛
- 腹膜刺激症状: 腹部全体が板のように硬くなる(板状硬)
- 発熱
- ショック: 血圧低下、頻脈、冷や汗
対応
- 🚨 医療機関へ緊急搬送
- 緊急手術(穿孔部の縫合閉鎖、胃切除術など)
- 抗生物質投与
3. 幽門狭窄(ゆうもんきょうさく)
潰瘍の瘢痕化により、胃の出口(幽門)が狭くなる合併症
症状
- 嘔吐: 食後数時間経ってから、大量の食物残渣を吐く
- 腹部膨満感
- 体重減少
対応
- 内視鏡的バルーン拡張術
- 手術(幽門形成術、胃切除術)
4. 悪性化(胃がん)
- 胃潰瘍の約1~5%は実は胃がんが潰瘍を形成している
- 特に50歳以上、長期に治癒しない潰瘍は要注意
- 必ず生検(組織検査)で悪性を除外
🚨 緊急受診が必要な危険サイン
- 吐血(赤い血、コーヒー残渣様)
- 黒色便(タール便)
- 激しい腹痛(突然の、耐え難い痛み)
- 腹部の硬直(板状硬)
- ショック症状(血圧低下、冷や汗、意識障害)
- めまい、ふらつき(貧血)
→ これらの症状がある場合は、ただちに救急車を呼び、医療機関を受診してください
胃潰瘍の診断
診断のステップ
- 問診・身体診察
- 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ) ★最も重要
- ピロリ菌検査
- その他の検査(必要に応じて)
1. 問診・身体診察
- 症状(腹痛の部位、性質、出現時期など)
- 既往歴、内服薬(NSAIDsなど)
- 生活習慣(喫煙、飲酒、食事、ストレス)
- 家族歴
- 腹部の触診(圧痛の有無、腹膜刺激症状)
2. 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)
胃潰瘍の確定診断に必須の検査
利点
- ✅ 潰瘍を直接観察できる
- ✅ 潰瘍の大きさ、深さ、部位、数を評価
- ✅ 生検(組織採取)で悪性(胃がん)を除外
- ✅ ピロリ菌検査(迅速ウレアーゼ試験、組織診)
- ✅ 出血潰瘍の止血術も可能
内視鏡所見
- 形状: 円形~楕円形、辺縁が盛り上がる
- 潰瘍底: 白苔、壊死物質、出血
- 周囲粘膜: 発赤、浮腫
生検(組織検査)
- 必須: すべての胃潰瘍で実施(胃がんの除外)
- 潰瘍辺縁から複数箇所(通常4~6箇所)採取
3. ピロリ菌検査
胃潰瘍と診断されたら、必ずピロリ菌検査を実施
内視鏡検査時の検査(侵襲的)
- 迅速ウレアーゼ試験: 生検組織を試薬に入れ、色の変化でピロリ菌を判定(15~30分)
- 組織診(病理検査): 顕微鏡でピロリ菌を確認
- 培養検査: 菌を培養(時間がかかる)
内視鏡を使わない検査(非侵襲的)
- 尿素呼気試験: 特殊な薬を飲み、呼気を検査(感度・特異度が高い)
- 便中抗原検査: 便からピロリ菌抗原を検出
- 血液・尿中抗体検査: ピロリ菌に対する抗体を測定(過去の感染も陽性になる)
4. その他の検査
血液検査
- 貧血: ヘモグロビン、赤血球数(出血の評価)
- 炎症マーカー: CRP、白血球数(穿孔時に上昇)
- 肝機能・腎機能
腹部X線検査
- 穿孔が疑われる場合、腹腔内遊離ガスを確認
腹部CT検査
- 穿孔、腹膜炎の評価
- 周囲臓器への浸潤(がんの疑い)
上部消化管造影検査(バリウム検査)
- 現在はあまり行われない(内視鏡が主流)
- 内視鏡が困難な場合の代替
胃潰瘍の治療法
治療の基本方針
- 薬物療法(酸分泌抑制薬)
- ピロリ菌の除菌(陽性の場合)
- 原因薬剤の中止(NSAIDsなど)
- 生活習慣の改善
- 合併症の治療(出血、穿孔時)
1. 薬物療法
プロトンポンプ阻害薬(PPI)
第一選択薬
- 代表的な薬剤: オメプラゾール(オメプラール)、ランソプラゾール(タケプロン)、ラベプラゾール(パリエット)、エソメプラゾール(ネキシウム)、ボノプラザン(タケキャブ)
- 作用: 胃酸分泌を強力に抑制(約90%抑制)
- 投与期間:
- 通常の胃潰瘍: 6~8週間
- 大きな潰瘍: 12週間
- 治癒率: 約80~90%
H2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)
- 代表的な薬剤: ファモチジン(ガスター)、ラニチジン
- 作用: 胃酸分泌を中等度に抑制(約60~70%)
- 適応: 軽度の潰瘍、PPIの副作用がある場合
粘膜保護薬
- 代表的な薬剤: スクラルファート、レバミピド(ムコスタ)、テプレノン(セルベックス)
- 作用: 胃粘膜を保護、修復促進
- 適応: PPIとの併用
制酸薬
- 胃酸を中和(症状緩和に有効)
- 根本治療ではない
2. ピロリ菌の除菌療法
ピロリ菌陽性の胃潰瘍患者には必ず除菌治療を実施
除菌の重要性
- ✅ 潰瘍の再発率を約90%減少(除菌なしで50~70%/年 → 除菌後5~10%/年)
- ✅ 胃がんのリスク減少
除菌療法の実際
一次除菌(7日間)
- PPI + アモキシシリン(抗生物質) + クラリスロマイシン(抗生物質)
- 1日2回、7日間服用
- 成功率: 約70~80%
二次除菌(一次除菌失敗時、7日間)
- PPI + アモキシシリン + メトロニダゾール(抗生物質)
- 1日2回、7日間服用
- 成功率: 約90~95%
除菌判定
- 除菌治療終了後、4週間以上経過してから判定
- 尿素呼気試験または便中抗原検査で確認
除菌の副作用
- 下痢、軟便(約10~20%)
- 味覚異常、口内炎
- 発疹(アレルギー)
3. NSAIDsの対応
- 可能なら中止(主治医と相談)
- 中止困難な場合:
- PPIを併用(予防効果)
- COX-2選択的阻害薬への変更(セレコキシブなど、胃粘膜障害が少ない)
4. 生活習慣の改善
食事
- 避けるべき食品:
- 刺激物(香辛料、唐辛子、カレー)
- 酸性食品(柑橘類、トマト、酢)
- 脂肪分の多い食事(揚げ物)
- カフェイン(コーヒー、紅茶、緑茶)
- アルコール
- 炭酸飲料
- 推奨される食事:
- 消化の良い食品(お粥、うどん、白身魚、豆腐)
- 規則正しい食事(1日3食)
- ゆっくりよく噛む
- 腹八分目
- 関連記事: 胃に優しい食べ物
禁煙
- 喫煙は潰瘍の治癒を遅らせ、再発率を上昇させる
- 必ず禁煙
飲酒
- 治療中は禁酒
- 治癒後も適量(日本酒1合、ビール中瓶1本程度/日まで)
ストレス管理
- 十分な睡眠(7~8時間)
- 適度な運動(ウォーキング、ヨガなど)
- リラクゼーション(深呼吸、瞑想)
5. 合併症の治療
出血
- 緊急内視鏡検査で止血術
- クリッピング(金属クリップで止血)
- 焼灼術(熱凝固)
- 局注法(エピネフリン注入)
- 輸血、輸液
- PPI静脈投与
- 内視鏡で止血困難な場合→緊急手術
穿孔
- 緊急手術
- 穿孔部の縫合閉鎖
- 大網充填術
- 胃切除術(広範囲の場合)
- 抗生物質投与(腹膜炎予防・治療)
幽門狭窄
- 内視鏡的バルーン拡張術
- 手術(幽門形成術、胃空腸吻合術)
6. 手術療法
現在は薬物療法が主流で、手術は稀
手術適応
- 薬物療法で治癒しない難治性潰瘍
- 合併症(穿孔、大量出血、幽門狭窄)
- 悪性(胃がん)が疑われる
手術術式
- 胃切除術(幽門側胃切除、胃全摘術)
- 迷走神経切離術